第12話 ゴーレムとの遭遇
周囲の鉱脈をあらかた採掘し終え、僕たちはいったん休憩する事にした。
サクヤの写しによって、採取した様々な鉱石の名前や特徴、この池の水が飲めるかどうかすらわかってしまうのだから本当に便利だ。
サクヤが居なければ怪しい池の水は飲めず、こうして敷物の上に鉱石を並べられても、何が何やらわからなかっただろう。
「魔鉱石はカインが持っといてよ、その方が色々使えそうだし」
「そう? じゃあ預かっとくね」
サクヤはひしゃげたピッケルを、鉄の棒にアレス鉱石をはめ込んで作った簡易ハンマーで熱心に叩いている。
欠けてしまった先端を削り、また尖らせようとしているようだ。
代わりに叩こうか、とは聞いたのだが、魔力のあるカインはあたりを警戒しといて、との事で触らせて貰えなかった。
魔物避けのお香が効いているうちは大丈夫だと思うが、言われた通り念のため、四方に周囲警戒の魔法石を置いておいた。
これで何かが近づけば警戒音が鳴り響く。
預かった魔鉱石は鉄や銅、アレス鉱石に触媒石と様々で、僕が有能なルーン使いであったなら、それぞれの特徴を活かした使い方が出来ただろう。
「よっし、応急処置完了!」
「お疲れ様、お茶淹れておいたよ」
「ありがとう!」
サクヤの荷物に瓶を火にかけるのにピッタリの鉄の器具があったため、それを借りて爽薬草のお茶を淹れた。
鼻が通るような爽やかな香りが漂ってくる。
好き嫌いが分かれる物だが、力仕事で汗をかいたサクヤにはぴったりだろう。
「なにこれ……あったかいのに冷たい……」
「爽薬草のお茶は嫌いだった?」
「初めてだけど苦手かも……なんか眠気覚ましの味がするし……」
爽薬草の煮汁は触れると冷たく感じる不思議な特性があるからそのせいだろう。
眠気覚ましについてはご名答。
ゼウスで売られている眠気覚ましの主原料はこの爽薬草だ。
「眠気覚ましの材料だからね、別のお茶淹れようか?」
「ううん、味は別として汗も引いたしから大丈夫」
うげーっと舌を出して不味いアピールをしている。
人によっては爽薬草と肉の炒め物を好んで食べたりもするのに。
僕も爽薬草はわりと好きで、葉っぱをこねて団子にしたものを噛んだり、茎を噛んで頭をすっきりさせたりする。
この味がわからないとは、サクヤもまだまだおこちゃまだ。
「魔法銀は見当たらなかったし、先に進もうか」
「そうだね、滝のすぐ横にいけそうな所があったよ」
敷物を片付けて、滝の横の道を進む。
この道は洞窟の入り口より狭く、僕とサクヤがぎりぎりふたり並べるほど。
高さも2mくらいだろうか。
壁面は尖った石が所々から生えており、うっかりしていると手足をぶつけてしまいそうだ。
「そういえばカイン、ここはダンジョンじゃないの?」
「ここはまだ、ただの洞窟みたいだね。 魔力もあんまり濃くないし、魔物も生まれにくいんじゃないかな」
「へー、やっぱり魔法が使えるとそういうのもわかるんだ」
隣を歩くサクヤがうらやましそうな顔をしている。
魔法を使えない人からしたらやっぱり魔法は憧れる物なんだろうか。
「これ、魔力を探知すると光る魔法石。 これなら周囲の魔力に反応して光るだけだから、魔力が無くても使えるよ」
「わー綺麗! ありがとう! 帰ったらペンダントにしようっと」
サクヤから預かった触媒石に魔力感知のルーンを刻んでみた。
色々な物質、魔力に反応しやすい触媒石ならその効果は十二分だろう。
しばらく道を進んでいると、現れたのは長い縦穴だった。
道と同じ直径2mくらいの縦穴が上は地上まで、下は果てしなく続いている。
小石を落としてみたのだが、とても無事に下りられそうな高さではない。
途中に横穴も無く、ここは行き止まりと見ていいだろう。
「すごい縦穴だね、まるで包丁でくり抜いたみたい!」
「そんなカボチャじゃないんだから」
サラさんが包丁の試し切りの時に丸ごとのカボチャをくり抜いて見せたがこの穴はまさにそんな感じで、表面が多少波打っているものの本当に誰かがくり抜いたように見える。
あるいは、下から何かが出て行った跡か。
「引き返そう、ここ以外にも道あったよね?」
「うん、池の所にまだ何本かあったよ!」
穴に背を向け、元来た道を戻る。
そうして池の所まで戻った僕たちは、近くにあったもう1本の脇道を進む事とした。
この道は特に狭く、僕たちでも少し屈んだ状態でひとりずつしか通れない。
ただ表面は磨かれたように滑らかで、先程のような尖った石は見られない。
こういう道は水が流れる事で出来た場合が多く、辿ると地底湖や水源に辿り着ける場合が多いと学校では習った。
ただ、そういった場所は当然スライムが発生する可能性が高く、天井には特に気を付けるようにとも教わっている。
「鞄がぎりぎりだよ」
「サクヤはもう少し整理整頓した方が良いかもね」
「だって、発明は、私の、武器だからぁー!」
返事をしながら、サクヤは引っかかった鞄を力いっぱい引っ張っている。
こんな使い方をしてるから鞄がぶにゅっと鳴くようになるんだな。
サクヤの鞄に同情しながら、頭に気を付けて先に進む。
視界が開けると、そこはだだっ広い空間だった。
ここに辿り着く頃には日の光が届かなくなっており、ランタンと魔法石の光だけではどれくらい広いのかわからない。
ここは枯れた地底湖だろうか。
先の見えない広さのわりに天井は低く、2~3m程度しか無い。
天井からはぴちゃぴちゃと水滴が垂れ、鍾乳石も出来ている。
「かなり広い所に出たね!」
「うん、元々は地底湖だったのかも」
「なら、青色石が採れるかも」
「青色石?」
「うん、青色の染料が作れる石でね、石って呼んでるけど植物が固まって出来た物で……」
サクヤにスイッチが入ってしまった。
発光の魔法石を置いて視界を確保しながら先に進む間、サクヤは青色石の説明を延々と繰り広げている。
要約すると、水底で育つ植物が長い年月をかけて化石化した物で、貴重な青色の塗料になるため高値で取引されている、という事だ。
その毒性を活かした毒薬としての使い方や、毒を抜くための特別な方法も話していたが、その辺りはサクヤに任せよう。
「どうやったら見分けられるの?」
「割ると綺麗な青色で、そんなに硬くないのが特徴だよ。 でも割れた粉を吸い込むと毒で息が苦しくなって……あ、あれ!」
サクヤが指さした方向には、僕たちと同じくらいの高さのいびつな岩の塊があった。
高さはそれ程ではないものの幅があり、かなりの大きさだ。
サクヤの言う通り、所々割れた部分からは綺麗な青色が覗いている。
「これ全部青色石なら大金持ちだよ!」
サクヤが喜んで駆け出して行く。
と、岩の塊まであと数メートルといった所でサクヤの持つ魔力探知の魔法石が眩い光を放つ。
「え?」
困惑した表情のサクヤが足を止める。
すると岩の塊がゆっくりと動き出し、サクヤの方へ転がり始めた。
「ゴーレムだ!」
手に持っていた発光の魔法石数個をゴーレムに向けて投げつけ、まずはゴーレムまでの視界を確保する。
サクヤは怯えた顔でこちらへ向けて走っている。
僕はゴーレムに向かって走り出し、同時に停滞の魔法石を準備した。
事前に考えたプランでは、停滞の魔法石でゴーレムの動きを遅くし、僕がゴーレムの注意を引く。
そこにサクヤが爆発ダガーを投げつけて粉々にしてしまおう、と考えていたのだが今回はそうもいかない。
あのゴーレムが毒のある青色石で出来ている以上、爆発なんてさせたらどこまで毒が広がるかわからない。
スライムの時のような失敗は、もうしない。
「とりあえず戻るね!」
怯えていたサクヤも視界が開けた事と相手がゴーレムとわかった事で少し落ち着いたのか、今は真剣な顔でこちらに走って来ている。
追いかけるゴーレムも一般的な個体と比べて体が小さかったおかげか大してスピードは無く、このままいけば2~3mは距離を離して合流できそうだ。
作戦を組み立てる時間はそれほどない。
今ある装備、状況を考えて作戦を練る。
爆破以外の討伐方法は正直難しい。
いくら柔らかい青色石とはいえ、割れた所から毒を噴出するのであれば接近戦はダメだ。
核を狙い撃つにしてもそんな貫通力のある魔法は無い。
このまま逃げ切って来た道に戻れば、あのゴーレムの大きさなら追って来れないかもしれない。
「停滞のルーンを使って! 後は私がどうにかするから!」
「どうにかって、壊したら毒が……」
「大丈夫!」
色々と考えながら走っていたが、合流したサクヤはすれ違いざま、決意に満ちた顔をしていた。
スライムを爆発ダガーで吹き飛ばした時のあの顔だ。
「わかった!」
停滞の魔法石に魔力を通し、転がるゴーレムへ投げつける。
岩塊から腕を生やし、それを払おうとするがもう遅い。
停滞の魔法石の効果範囲に入ったゴーレムは人型になる事もこちらへ追いつく事も出来ず、中途半端な状態で蠢いている。
「私の後ろに!」
サクヤの声に、素早く振り返りゴーレムと距離をとる。
すれ違いざま、サクヤは腰に付けた短剣の鞘を2本繋げた、四角く長い筒のような物を構えているのが見える。
筒を左手で下から支え、後ろの方を脇に挟み、ゴーレムの方に向けている。
「爆発するよ!」
そう言った直後、サクヤは右手に持った短剣を鞘の隙間に差し込んだ。
直後、前回と同じ轟音が鳴り響き、洞窟の中が一瞬明るくなる。
しかし、熱と光はこちらへは届かない。
サクヤの背中越しに、手足を成形し立ち上がろうとしていたゴーレムを見る。
ゴーレムはぴくりとも動かない。
構えた姿勢のまま動かないサクヤの隣に立ち、ゴーレムの方を改めて見る。
すると、ゴーレムの体には何かが貫通したような穴が開いていた。
「どう? 私の新作『貫通砲』」
「ゴーレムを貫通するなんて……すごいよサクヤ!」
「でしょ? ここまで威力があったのは計算外だけど……」
サクヤが手を放し、筒が床に落ちる。
ドンという音から、この筒がいかに重かったのかがわかる。
それにしても、どうやってこんな物を作ったんだろう。
「本当にすごいよ、こんなのどうやって……」
「でしょ!? 二重構造の鞘の内側が氷石で出来てて、この差し込む部分だけが爆発するように鉄製なの、起きた爆発が筒の先端からしか漏れないようになってるから、先端に付けた矢じりが凄い勢いで飛び出して……」
サクヤのスイッチがまた入り、動かないゴーレムを前に長い解説が始まってしまう。
核を撃ち抜かれたゴーレムにはもう聞こえないだろう。
こうしてサクヤ先生の授業は僕ひとりに向けて繰り広げられ、熱によって赤くなった筒が冷めるまでの間、終わる事は無かった。
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