景清と慎司の誕生日

※もし景清(誕生日12月24日)が二十一歳の慎司(誕生日12月25日)と一緒に誕生日を迎えることになったら……というイフストーリー。




景清「慎司ー」

慎司「んー」

景清「誕生日プレゼント何が欲しい?」

慎司「この世の全て」

景清「海賊王かよ」

慎司「つーか、なんでお前が俺の生誕せし日を知ってんだ」

景清「言い方に若干の傲慢が滲むなぁ。そりゃ未来の曽根崎さんから聞いたからだよ」

慎司「未来の俺、お前に個人情報漏らしすぎじゃね?」

景清「そんな大袈裟な話でもないだろ。ほら、いいから欲しいもの言えって」

慎司「えー……よしんば言ったところでな。結局使うのは俺の金だし」

景清「そんなことないよ。道端に生えてたり落ちてたりするものなら、僕取ってくるし」

慎司「お前は犬か何かか?」

景清「ギリどんぐりとかなら見つかるかもしれない」

慎司「いらねぇー」

景清「あと野草で花束とか。あ、季節的に草束になるかもだけど」

慎司「じゃあたんぽぽの綿毛」

景清「咲く頃までいろと?」

慎司「在来種じゃねぇと認めねぇから」

景清「違うな。これ無茶振りしたいだけだ」

慎司「さあ行け。這ってでも見つけてこい」

景清「かぐや姫に求婚した人たちもこんな理不尽な気持ちになったのかな。いや、もっと僕に忖度した物を欲しがってくれよ」

慎司「何故俺がお前如きに忖度を……!?」

景清「真顔で言うもん。でもそれもそっか。慎司の誕生日なんだし、僕に忖度はおかしいよね」

慎司「お、おう」

景清「んー……じゃあ難しいかもだけど、頑張ってみるよ。幸いタンポポがどの辺りに咲くかは知ってるし」

慎司「なんでそんな情報持ってんだ」

景清「ちょっと本気でお金に困った時期に、食べられる野草が無いか調べてたことあったから」

慎司「……」

景清「何?」

慎司「お前さぁ、もう未来の俺に養ってもらえば?」

景清「絶対嫌だ」

慎司「そっか」

景清「じゃあ出かけてくる。家の鍵貸して」

慎司「待てよ」

景清「はい?」

慎司「……い、一応聞くけどお前の誕生日はいつ?」

景清「え? 12月24日だけど」

慎司「は!? 今日じゃん!」

景清「そうだよ」

慎司「そうだよって何お前黙って……え!? うわ、えー……マジかよ……?」

景清「なになに、どした」

慎司「……と、とりあえず、これ」

景清「何この一万円の裸銭」

慎司「好きなもの買え」

景清「突然過ぎるだろ……貰えるかよ……」

慎司「なんで」

景清「同じ年の男からパッと貰うお金にしては大金」

慎司「なんだと? まったく貧乏人はこれだから。返せ俺の金」

景清「うん、全然返すよお前の金」

慎司「……」

景清「……」

慎司「……」

景清「……あの、そろそろ行ってきていい?」

慎司「待て」

景清「はいはい」

慎司「……か、景清は欲しいものとか、無いのか」

景清「僕? 無いねー」

慎司「無い?」

景清「無いよ。強いて言うなら生活費ぐらい……」

慎司「……」スッ

景清「だからいいよ、一万円は!!」

慎司「足りねぇ?」

景清「生活費的には足りないけど、そもそもいらないんだよ。今の僕じゃあ、慎司にも未来の曽根崎さんにも同価値のお返しできないしさ」

慎司「貧乏人のくせに律儀な奴め」

景清「悪かったね。それじゃ行ってくるよー」バタン

慎司「あ……」




景清「ただいまー」

慎司「よく帰った。わざわざ労ってやる俺の器の大きさを讃えろ」

景清「ちょっと帰宅するだけでうるせぇ」

慎司「たんぽぽ見つかったか?」

景清「まあ見つかるわけないよね」ドサッ

慎司「何この袋」

景清「ケーキとかフライドチキンとか」

慎司「お!」ガサガサ

景清「飛びついた」

慎司「シャンメリーとかもある。高級シャンパンは?」

景清「無いよ」

慎司「チッ、気がきかねぇな」

景清「買ったところでそこまで喜びもしないだろ」

慎司「なあなあ、厚切りベーコンあんだけど。これ何? 丸かじりすんの?」

景清「あーそれね、ポテトサラダ作ろうと思ってさ。ちょっと焼き目つけた厚切りベーコン入れたら美味しいんだよ」

慎司「ほう」キラキラ

景清「ほらー、シャンメリーより喜ぶじゃん」

慎司「で、なんでお前は突然こんなの買ってきたんだよ」

景清「えーと……誕生日さ、二人とも欲しいものが無かったろ?」

慎司「たんぽぽの綿毛」

景清「あるわけねぇだろ。だから、代わりにちょっと贅沢な夕食にしようかなって思ってさ。ケーキも買ってきたよー」

慎司「ケーキ? おいおい、マジかよ。サンタの野郎が乗ってんじゃねぇか」

景清「サンタの野郎ってアンタ。時期的にクリスマスドンピシャだからね」

慎司「馬鹿お前これじゃお前の誕生日じゃなくてサンタ祝ってるノリになる」

景清「クリスマス自体、キリストの聖誕祭だから……。それに、祝いたいのは僕だけじゃなくて慎司の誕生日もだよ」

慎司「あ、うぇっ!? ちが、そういう意味じゃ……ちょ、調子に乗るなよ!?」

景清「何の話? まあいいや。サラダ作ってくるね」

慎司「お、おう」

景清「つまみ食いするなよー」

慎司「俺の金で買ったもんだ。いつ食べようと俺の勝手だ」

景清「言いながら正座して待ってるんだもんなー、コイツ。こういうとこあるから本当嫌いになれないんだよ」


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