阿蘇さんを囲む美女の会・後編
※Twitterにて地獄の投票会を実施しました。
最も票が集まったのは……。
そして阿蘇さんの指差した先にいたのは、僕――竹田景子だった。
「……え? 僕ですか?」
「うん」
「本当に?」
「おう」
「……な、なんで……?」
「なんでも何も、他に選択肢無いだろ」
言われて周りを見てみる。憮然とした顔でヤンキー座りしているおっかないメイド長と、「パンツ見る?」と聞きながらスカートに手をやるミニスカポリス。そして、非の打ち所の無い正統派の中華系美女がいた。
「……順当にいけば柊ちゃんでは?」
「いや? 一番かわいいのは君だろ」
「ヒョエッ」
相変わらずサラッと爆弾発言をかます人である。慣れない発言に戸惑っていると、突然肩を抱かれて引き寄せられた。
「――いいじゃねぇか。一応景子とは、恋人同士って話だったし」
「ふぉべっ!?」
全身が硬直する。自分でも理解できない熱が頬に集まり、「ど、ど、ど」と言葉に詰まる。どうしていいか分からず目を白黒させていると、いきなり視界がお花一色になった。
「あまり悪ノリをするなよ、忠助」
曽根崎さんである。
「ああすまん。反応がいいもんだから、つい」
「まったく、君の悪い癖だな。さぁ美しい人、この花束を受け取るがいい。そして愛の言葉と共に、本日の主役に渡してやるんだ」
「アンタもちょっとノッてんじゃねぇか」
「愛という単語は広義のものとして捉えていいから。ほら」
メイド長から花束を押しつけられ、受け取る。……つまりは、お祝いの言葉を言えばいいってことなのかな。僕はドギマギしながら、背の高い男前のお兄さんに向き直った。
「えーと……こ、このたびは、お誕生日を無事に迎えられましたこと、心よりお喜び申し上げます」
「固いなぁ、景子」
「そ、そうですかね」
そういう阿蘇さんは、不思議と機嫌がいい。ああそうだ、選んでもらったお礼も言わなければ。
「……あの、僕なんかを選んでくれて……本当にありがとうございました」
「“なんか”とか言うな。俺が選びたくて選んだんだから」
「あ、ありがとうございます……! そ、その、今日は少しでも阿蘇さんにご満足いただけるよう、誠心誠意ご奉仕させていただきますから!」
「何の店だよ」
店とかじゃないんだけどな。
ともあれ、こうして僕は阿蘇さんと並んでソファーに座ることになった。
「……」
「ん? 何か俺の顔ついてる?」
「あ、いえ」
しかし、相変わらずカッケェ人である。筋肉質で肩幅が広くて、男らしい。鋭い目のせいで一見怖い見た目だけど、その分笑った時の破壊力がものすごい。
だけど意外にもかわいいものが好きなのだ。僕はおずおずと、女の子らしい鞄(柊ちゃんからの支給品)からあるものを取り出した。
「阿蘇さん。こちら誕生日プレゼントです」
「おう、ありがとう。開けていい?」
「はい」
阿蘇さんが包みを解くのを、ワクワクしながら隣で眺める。彼の反応を見るなら、ここは特等席だ。
「なっ……! これは……!」
そして、プレゼントを見た阿蘇さんの目が大きく開かれる。彼が手にしていたのは、かわいいかわいい三毛猫――にそっくりなタオルだった。
「景清君、これ……! 猫……! これ……!」
「へへへ、かわいいでしょう! 絶対阿蘇さんが気に入ってくれると思ったんですよ!」
「気に入るも何も、猫……!」
「ふふふ、見てくださいこれ! ここ猫ちゃんの腕の所を引っ掛けて、タオルとして使えるんですよ!」
「いや、使えねぇよコレ……! 摩耗とかするの見てられねぇ……! ただただ風呂場にかけて毎日眺める……!」
猫ちゃんタオルを抱きしめ、ワナワナと震えている阿蘇さんである。良かった、喜んでくれたようだ。
そうして和やかにお喋りをしていると、早速お茶を入れに来てくれた人がいた。
「阿蘇! なんで! オレを選んでくれない!!」
ミニスカポリスの藤田さんである。彼は嘆きながら阿蘇さんの膝に座ろうとして、そのまま蹴り返された。
「失せろ。美女は間に合ってる」
「クソッ……! そういやお前は、昔から美人系よりは可愛い系だったよな。オレのリサーチ不足が敗因か……!」
「美人系でも可愛い系でも、お前はお前だよ。誰が選ぶかボケ」
「なぁ、ちょっと起死回生の一手打ってきていい? オレすんげぇキュートなパンツ持ってんだ」
「だから何だよ。よしんば履いてきても、絶対見ねぇからな」
まるで漫才のようなやり取りをしている二人である。その中で、藤田さんは思い出したように胸元に手を突っ込んで、小さな包みを取り出した。
「阿蘇、プレゼント」
「おい、今どっから出した」
「いいから。開けてよ」
「えー……」
渋々開けてみる。中身は、綺麗な小瓶だった。
そういえば以前、阿蘇さんは毎年藤田さんに香水を贈ってるって言ってたもんな。もしかしてこれはそのお返し――。
「男にも女にも効果絶大と噂のフェロモン香水です」
「バカじゃねぇのか」
「あーっ! 撒かないで! 割らないで!」
ダメだった。ダメな方の香水だった。いや香水はダメじゃないかもだけど、贈り主がダメなのだ。
とりあえず小瓶は割られずに済んだけれど、代わりに藤田さんは退散させられた。
次にやってきたのは、マカロンの山盛りをお皿に乗せた柊ちゃんである。
「んもう、確かに景清はとーっても可愛く仕上がったけど、それでもトータルで選ぶならボクでしょー?」
「悪ぃな。こればっかりは好みだから」
「アンタ女の趣味悪くないのに、女運は悪いのよね。景子には浮気されないようにしなさいよ?」
「だとさ。君なら大丈夫だよな?」
「え、えーと」
一応裏設定では、曽根崎さんの婚約者で藤田さんとただならぬ仲にあり田中さんの愛人なのだけど……。
いやヒデェなこれ。忘れることにしよう。
「それよりプレゼントよ! ボクからのはコレ!」
「お、なんだ? ……うわ、わー! これアレじゃねぇか! ホテルシルバートレイのケーキ!」
「このボクが並んであげたのよ! 存分にご賞味なさいな!」
「いや、マジで嬉しい……! ありがとう、柊。お前ほんとセンスいいわ」
「当たり前でしょ!」
仲のいい二人である。そういえば普段から話題のスイーツショップについて話してるし、舌が合う二人なのだろう。
で、柊ちゃんのプレゼント贈呈が終わった後にやってきたのは……。
「忠助」
「兄さーん……」
「今は姉さんだ」
曽根崎メイド長である。暑かったのだろうか、カツラを脱いでいつものもじゃ頭になっていた。
つーかもうこれただの曽根崎さんじゃねぇか。スカートはいてる曽根崎さんだ。
「この服は動きにくい。横座るぞ」
そう言うと、僕と阿蘇さんの間に割り込んできた。狭い。なんで真ん中に陣取るんだ。端に行け端に。そして足を広げるな。
以上の文句を口にしようとしたが、その前に曽根崎さんが阿蘇さんに一枚の紙切れを差し出したことで遮られてしまった。
「忠助、これ」
「おう、ありがとう。今回は?」
「家賃向こう三ヶ月分振り込んどいた」
「そんなプレゼントあります!?」
「あ、いや、景清君。毎年こうなんだよ。家賃補助、地味に助かるんだよな……。俺独身寮入ってないし」
「独身寮?」
「結婚してねぇ警察官が住む寮って言えばいいかな。そこに入ってないから、手当上限以上は個人負担だからさ」
「へぇー」
じゃあ、曽根崎さんにしては気の利いたプレゼントなのかもしれない。一方のオッサンは、僕のお茶をごくごく我が物顔で飲んでいたけど。
「いや飲むなよ!」
「よし、プレゼント交換も終わったな。そろそろ出前が届く頃だ。それ食ったら適当に解散するぞ」
「雑だなー、姉さん。何頼んだんだよ」
「鳳凰軒のラーメン」
「クッソうまい所じゃねぇか……!」
「オレのチョイスだよー! 褒めてー!」
「うわっ、足の間から生えてくんな藤田!」
「逮捕しちゃうぞ☆」
「ずっと思ってたんだけどさ、現職警官としてはマジでお前にポリス名乗って欲しくないし、そろそろガチで逮捕したいんだが」
「お前の腕の中という檻にオレを閉じ込めてくれ」
「うるせぇよ」
「これはアレね! ハーレムってヤツね! ボク基本される側だけど、今日だけ特別に加わってあげてもいいわ!」
「なぁ柊、すげぇ不思議なんだけどさ、なんでお前男なのにいい匂いすんの?」
「女だからよブチ飛ばすわよ」
「コラ絡みつくな! ああもうオメェら面倒くせぇな! 俺には景子がいるんだ、散れ散れ!」
「おわー!」
大きな手に腰を掴まれ、また引き寄せられる。というか膝の上に乗せられた。近さとリアルな温度に、あまり人と距離が近いのが得意でない僕の心臓はバクバクとする。
するとそんな僕の様子に気づいたのか、阿蘇さんが僕を見下ろして言った。
「そういやさ、職場の奴らが景子ちゃん見せろってうるさくてよ。このまま一枚写真撮ってもいい?」
「しゃしゃしゃ写真!?」
「お、ならオレも写るよ!」
「ボクも写ったげるわ!」
「いやお前らはいらねぇんだけど」
「はい全員こっち向けー。撮るぞー」
「あのメイド長、自分は写りたくないからって早々にカメラマンになりやがった!!」
とまあ、こういう経緯で阿蘇さんのお誕生日写真が撮られたのである。
後日写真を見せてもらったら、顔が真っ赤な僕は阿蘇さんの膝に乗ってるし、その阿蘇さんの首には絶世の美女が絡みついてるし、どこからどう見ても綺麗なドスケベお姉さんの藤田さんは阿蘇さんの太腿辺りにしなだれかかっていた。
「……これ、職場の人に見せたんですか?」
「見せた」
「……ご、ご反応は?」
「どこの高級イメクラに行ってたのかと小一時間問い詰められたし、今でも問い合わせが来る」
「でしょうね」
とにかく、阿蘇さんにとっては楽しい一日になったようで何よりなのであった。
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