景清専用アルバムを作っちゃった叔父さんの話

「……オレ、自分が怖いんです」


 とある昼下がりの事務所にて。藤田直和はソファーに沈み込み、力無く俯いていた。


「今までこんなことってなかった。どんなに人を好きになっても、こんな行動を取るなんて」

「うん」

「それがどうです。こんな……こんなことになって。なんて滑稽なんだろう。彼が今のオレの姿を見たら、どんな顔をするか……!」

「うん」


 藤田の独白に相槌を打つのは、柊の依頼原稿を仕上げる曽根崎である。藤田の悩みには心底興味が無いと見え、微妙にタイミングの合わない返事で対応していた。

 だが、訥々と語られる藤田の悩みに閉口したのだろう。おもむろに顔を上げると、ズバリと言い放った。


「――で、景清専用アルバムが作成一ヶ月目にして二冊目に突入したというのか?」

「そうなんですよ! ちょっと仕事に疲れて手を出してみたら、みるみるハマってしまって……!」

「しかも結構な厚さじゃないか。なんだ君。初孫ができた爺さんか何かか? っていうかいつ撮ったんだほんと」

「あ、見ます? これとかオススメですよ。花火なんてそんな子供がはしゃぐものだしって言いながらいざ打ち上がったら釘付けになって口開けて見てる景清」

「一息で言い切ったな……怖」


 とはいえ、膨大なその量に曽根崎も興味がそそられたのだろう。椅子から立ち上がり、藤田のそばに歩み寄った。


「あとこれとか。阿蘇が食べてたお菓子が気になって少し分けて貰いたいけど言い出せるような性格じゃないからソワソワしてたら察しのいい阿蘇が気付いて半分こしてくれたのを嬉しくてでも申し訳なくて顔を赤らめてしまった時の写真です」

「どうやったらそんな繊細な場面で気付かれずにシャッターを切れるんだ」

「これもどうですかね。柊ちゃんに後ろから抱きつかれてびっくりするもお腹くすぐったくてついケタケタ笑っちゃった時の……」

「こんにちはー、曽根崎さん。今日のご飯はラーメンでも……」


 ガチャリと開いたドアに、男二人は肩をこわばらせる。

 訪れた青年ははじめキョトンとしていたが、テーブルの上に広げられた写真を確認や否や、みるみる顔を紅潮させていく。


「な、何してんだアンタらーーーーっ!?」

「か、景清君、これには訳が……!」

「ワケぇ!? 僕の写真アホほど並べて出てくる言い訳ってなんだよ!!」

「だからそれは……藤田君、説明を!」

「その顔可愛い」パシャ

「撮るな! 写真を!!」


 すかさずスマートフォンで撮影する藤田に、景清の怒りはますます膨れ上がる。殴りかかろうとする甥を爽やかにかわしつつ尚も写真を撮る藤田に、曽根崎は改めて叔父の愛の深さの一端を見た気がしたのだった。


「だった、じゃねぇよ! どう見てもヤベェだろコレ! 警察ー! 阿蘇さーーーーん!!」

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