学園祭(阿蘇と藤田高校時代)

 高校の学園祭。とびきり可愛い女の子がとある模擬店にいると聞いたものだから、それなりの期待をして見に行ったわけである。


 ――まさかそれが、女装した腐れ縁の男だと誰が想像できるだろうか。


「あらヤダ! みんな、新しいお客様よぉ!」


 藤田直和(直子)の掛け声に、野太い返事が応える。どうも女装喫茶というコンセプトの模擬店らしい。

 誰だよ、こんな闇鍋提案したアホ。


「んマァ旦那よ! 直子の旦那様のお出ましよ!」

「奥さんの様子を見に来たのかしら!?」

「イヤん、束縛系!」

「お前ら全員後で殺すからな」

「やめてアナタ! お腹の子に口悪いのが移っちゃう!」

「お前は今から殺す」


 例の噂(「怪異の掃除人」3-20参照)以降、すっかり気色悪い渾名が定着してしまった俺である。本当にやめてほしい。

 しかし、来たからには何も注文しないで帰るわけにもいかない。そう思って手近なテーブルについた俺の向かいに、ロングヘアの藤田が座ってきた。


 何スか。


「そういうサービスです」

「チェンジで」

「イヤです」

「イヤとかあんの?」


 明るい色の髪をかき上げ、藤田は口紅を引いた唇を緩ませた。……いつも通り、整った顔である。それを、頬杖をついてボーッと眺めていた。


 ……綺麗かなぁ。いつもと変わらないように思うけどなぁ。


 そんな俺の思考が多少漏れていたのか、藤田は身を乗り出してきた。


「どう? アタシ、キレイ?」

「はいはい、ポマードポマード」

「オレ口裂け女じゃないよ?」

「それよりホットケーキ一つ。よろしく」

「オーケー! 野郎ども、注文が入ったわよー!」

「「ウーッス!」」

「女装コンセプト徹底しろや」


 やがて運ばれてきたホットケーキは、藤田が「愛をこめるから! そういうサービスだから!」と半ば無理矢理チョコペンで「LIVE」と書いてきた。

 「LOVE」じゃねぇのかそこ。生きろってか。お陰様で元気いっぱいだわ。


 しかし、味は案外美味しくて驚いたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る