第20話 起床したラーパ


 ラーバが深い眠りから目覚め、


「ふぅぅぅぅぅぅん……あぁぁ……」


(あぁぁ……よく寝たぁ……)


 気持ちよく伸びをした。


(今、何時なんでしょ……)


 起き上がり、窓の戸を開けにいく。


 開けると、空に満月が浮かんでいた。真っ暗な室内に、柔らかな月明りが入ってくる。


(もう夜じゃないのよ……寝すぎたわ……働かないと……)


 テキパキと聖堂服に着替えだす。


(……ロッサは、どうしたのかしら……。


 ……。


 ……ああっ、もう気になるっ)


 ラーバは腕輪を起動させる。


 粗暴にファレナの居場所を示さした。


 水晶が、ファレナの居場所を示す点滅を出す。


(えっ生きてるの!?)


「……チッ」


(ロッサの住んでる部屋の方向か……)


 舌打ちして、部屋から飛び出た。


(でも、その前に、やることしないと……ああ、めんどくさい……)


 聖堂地下へと駆け下りて行く。


 燭台の明かりのみの薄暗い中、ラーバは、何十室と並んでいる小さな部屋の一室に入って行った。


 スベガミ神の石像の前に立ち、左腕の腕輪を差し出す。


 石像が動き出したのを見ると、


「昨日です、お願いいたします」


 ラーパは、石像にキビキビ言った。


 石像が動き出す。


 ラーバは、目を瞑りじっと待つ。


 しばらくして目を開けると、水晶に表示された処刑依頼を確認していく。


 その4件あった内のひとつに、目が止まった。


(私にファイアーレーザーを食らわしたのは……チュウ……このモンスター族は、たしか……?


 チュウ……たしかに聞いたわね、この変な名前……。あの時の大ネズミよね……。


 そんなわけないわ。


 覚えてるわ、おかしい、あのモンスター族に魔力なんてなかった……。


 どうなってるの、これ……)


 ラーバは、腕輪を起動させ、チュウの居場所を示させた。


(行ってみるかな……。……遠いわね、西……田園を越えた先かしら……あそこらへんにロンの着地点はないわね……ああっめんどくさい、馬車で行きましょ)


「必ず処刑いたしてまいります」


 儀礼の言葉を、早口に言って、小部屋から出る。


(何か、きな臭いわ……)


 ラーバは門から出て、馬車乗り場で適当な御者に、


「ご苦労様、今から西の田園の先まで行って。細かい指示は、後でするわ」

「かしこまりました」


 御者が言い終わる前に、ラーバは馬車に乗り込んだ。


「出発します」


 馬が鞭で叩かれ、嘶き走り出す。


「あの爆発の調査ですよね」


 御者が振り返り、中で不機嫌そうに座るラーバに尋ねた。


「爆発? 何なのそれ?」

「違うんですか、さっき小さくですが煙も見えたんで、てっきり」

「……急いで」


 ラーパはドスンと、背もたれに体を倒した。


 馬車は西門を出て、月明りの中、広場を通りすぎ、田園を横切っていく。


「この丘の上よ」

「かしこまりました」


 馬車は、広い急な坂道を上っていく。


 やがて、ノゲ・レイの別荘跡が見えてきた。


 腕輪は、チュウの居場所は、この瓦礫の山の中だと腕輪は示している。


(埋もれてるのかしら、それとも地下に何かあるのかしら)


 ラーバは馬車から降り、


「少し手伝いなさい」


 御者に言い放った。


 ラーバは、杖の先を瓦礫の山に向ける。


「ああ、やべっ……、戦闘は無理です、妻と子供がおりますのでっ」

「違うわよ、そういう……」


 御者が慌てて馬車を移動させ、丘の下へと入りだした。


「ああっもう……」


 ラーバは眉をピクピクさせながら、


(ひとりでやるか……)


「……ハッ……ハッ」


 鋭い呼気と共に、杖の先端から小さな橙色の光がポンッポンッ、と2個飛び出た


(よし……)


 小さな橙色の光は、ヒュルヒュルとふらつきながら、並んで瓦礫へと飛んでいく。


 光はふらふらと瓦礫のひとつの端と端に、ボコン、ボコンとぶつかった。


(……よっこいしょっと)


 ラーバは杖の先端を上に向ける。


 その動きと連動した光が、瓦礫を持ち上げ宙に浮かした。


 杖を横に傾け、光を使って瓦礫を横にどかしていく。


(ああ、意外に手が疲れるのよね、これ……)


 イライラしながらも、テキパキと光を操作して、片付けていった。


 すると、


(……あれ?)


 真っ赤な丸い、柔らかそうな物体が見えて、手を止める。


(あれは……ペンゼ……!)


 ラーバは、慌てて光をペンゼと向かわせた。急ぎ自分の所まで持ってくる。


(……間違いない、ここに……なぜ、あるの……)


「……でー……」


(……!?)


「……だー……」


(……何か、声が聞こえる……)


 ラーバは、ペンゼを横に置き、瓦礫の除去を再開した。


(……たしか、この辺……)


「助……でー……」


(……まちがいない……この下からだわ……)


 だんだん声が大きくなる。


 やがてラーパの目に、人の背丈ほどある巨大な白くて丸い、柔らかそうな物体が瓦礫に埋もれているのが見えて、手を止めた。


(何、あれ? 枕?)


「出してー、助けてー」


(声はあの中から……中にいるの?)


 白い物体の中身が、ぐにょりぐにょりと蠢いている。


(チュウってモンスターかしら、それとも、あれも魔道具かしら……)


 光を向かわせ、慎重に掴み上げると、


「なんじゃ!? なんじゃなんじゃ!? 浮かんどるぞい!?」


 白い物体の中身が、暴れ出し、叫び出した。


「どなたか、中に入っていますの?」

「ああ、そうじゃ。てられなくなっての、助けて」

「この倒壊した家の方でしょうか」

「違うわい、わしはチュウというものでな、分けあってこんなんなっとる」


 ラーバは、自分の前に急いで白い物体を置く。腕輪を起動し確かめた。


「一応尋ねますが、モンスター族の、チュウ・チュウチュウ・デチュウですか」

「そうじゃ、わしを知ってんのかい?」

「あなたに処刑依頼が出ています」

「ああ、知っとる……って、もしかして処刑人の方じゃ、ないよね?」

「そうですわ」

「……待った待った!」


 白い物体が激しく蠢きだす。

 

「違うんじゃ! わしじゃないぞい! 待て待て待て待て!」

「わかっています。私はロッサの姉のラーバでございます」

「へ? ああ、一度お会いしましたのぅ!」

「ですので――」

「――あんたに伝えなくちゃならん事がある。ロッサ君とファレナちゃんの事じゃ、マガタマが干渉されているんじゃ!」

「……落ち着いてください。一から話してもらいますから……。とりあえず、この……枕? を破きますね」


 ラーバが杖の先をチュウに向ける。


「枕じゃないぞい、これはわしが開発した持ち運び便利ワンタッチ防護アイテムじゃ。瞬時に身を包む特殊素材の――」

「ハッ」


――杖の先から、切り裂く風の刃が発射された。


「ギャ―!」


 チュウが悲鳴を上げて、飛び出てくる。


「危ないのぅ!」

「傷つかないようにしましたわ……」


 ラーバは、チュウの鼻にあった左右3本髭が焦げて1本になり、毛並みは焦げて、腹巻を真っ赤にした姿を見て、言葉を失った。


「何か、ございましたの?」

「今から説明するぞい」

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