第24話 対決、ノゲ・レイ
刀が、ノゲの左上半身に向かって、弧を描く――。
ノゲが左腕を畳み、短刀で受け止め、金属のぶつかり合う、甲高い音が響いた。
ロッサは歯を噛み締め、両足で踏ん張り、飛び込んだ勢いのまま、刀を押し込んでいく。ノゲの腕に刀身が切れ込んでいく。
その力む顔に向け、ノゲは右拳を打ち込んだ。
その拳を、ロッサが左腕を畳み受け止める。
肉と肉がぶつかり合い、低重音を響かせた。
ノゲは歯を噛み締め、拳を捻じりググとめり込ませる。ロッサの腕の骨が軋みだした。
剣と拳で、両手で鍔迫り合い。
2人は睨み合う。
と、ふいにノゲが飛び退りつつ、素早く前蹴りを放った。
バランスを崩したロッサの腹部へ衝撃が走る。
「ぐぐっ……」
ボーガンにやられた傷が痛み、ロッサの体が硬直した。
血が噴き出て、さらに広く服が濡れていって、ズボンまで濡れていく。
「――しゅっ」
ノゲの唇が、鋭い呼気を吐く。
固まるロッサの左膝に、ノゲの蹴りが襲い掛かった。
(なんでしょう?)
ノゲは驚きと共にが、左右の蹴りで、ロッサに連続して襲いかかった。
(なぜ、破壊出来ない?)
息つく間もなく繰り出される攻撃。
急所を狙ってのものではない。
力任せで蹴れば、普通の人体ならはじけ飛ぶはずの蹴撃に、そんなものは必要なかった。
なのに、ロッサの体は何度も直撃を受けているのになんともなく立ち続けている。
その事にノゲは戸惑っていた。
(何の特能でしょうか?)
「うぁぁぁぁ!」
傷の痛みで無感覚になるのを振り払う咆哮と共に、ロッサが刀を振り上げた。
脚の連撃を狙っての斬撃に、ぞくりと、ノゲは背をすくませ、素早く足を戻す。
対して、ロッサの右脚が床を蹴った。
呼吸を鍛え、気を練る――追撃の、オリーヴァ流剣技・十文字の構えを取る。
ノゲが左腕をビュンと伸ばした。
短刀の切っ先がロッサの喉元へ伸びる。
牽制を兼ねた、相手の動きを止める思惑だった。
しかし、
「うおぉぉぉぉ!」
かまわず、ロッサは突撃。
切っ先が喉に刺さりながら、刀を、ノゲの頭上に振り下ろした。
「くっ」
瞬時にノゲが床を蹴り、瞬間的に後方にステップ。
ノゲの目の前を、刀の切っ先が上から下へ閃光のように過ぎていく。
(間一髪っ)
と、ノゲが安心した瞬間、立て続けに横一文字の斬撃が襲ってくる。
(避けれないっ)
ノゲの右胸部に刀身がめり込んだ。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!」
ノゲが声を上げる。
刀身は、体の半分近く一気に切断していった。
コツンッと刀身が、何かに当たって止まる。
「ぐぅぅぅあああああ!」
ノゲが人差し指と親指で丸を作り、左眼へと持って行く。
次の瞬間、覗く左眼からビームが発射された。
「そんな!」
不意を突かれたロッサの顔面に命中する。
「あああああああ!」
ロッサが声を上げた。
ビームはロッサの体を貫通せず、辺りに粒子が飛び散る。
至近距離だったため、ノゲに大量に降りかかって、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああ!」
悲痛な悲鳴を上げた。
ロッサの方は、ビーム直撃の衝撃で、体が反転しながら吹き飛ばされていく。
床に頭から叩きつけられたロッサは、すぐに起き上がり刀を構えた。
「お前……」
ロッサが固まる。
ノゲの顔は、飛び散ったファイアーレーザーの粒子に溶かされ、ハチの巣のように穴が無数に空いていた。
「……お前もゴーレム……」
顔の傷からも斬られた胸部からも腕からも、血が流れていなかった。
「……くっ……」
どろりと顔が溶けた顔を押さえながら、ノゲが、
「……そうだ……」
服をはだけ、胸元を見せる。
斬撃が入った、体の半分にできた切傷の先に、ひし形の、薄緑色の水晶が嵌っていた。
「じゃあ、本物のノゲ・レイはどこだ!」
「……私ですよ」
言いつつ、ビームはを放つ。
ロッサは半身になった。
放たれた高速の魔力粒子の塊が、ロッサの耳元を過ぎていく。
(縫い斬り!)
避けながら、ロッサが距離を一気に詰めた。
次の瞬間には、刀身がノゲの水晶に向けて放っていた。
しかし、その斬撃は、ノゲには当たらない。
ノゲが、左腕を畳み短刀でガードし、斬撃に伸ばしきったロッサの右腕を左脇に抱え込む。
ノゲの右手がロッサの顔を鷲掴んだ。
そして、その手から炎を吹き出す。
ロッサの頭が炎に包まれた。
「うがぁぁああぁぁぁ!」
「燃やすなら、できるのでしょうか、その体は」
「うああぁぁぁ!」
包まれながら、ロッサの左手が動く。
「貫通しないとは……しかし呼吸はいるみたいですね、痛みも感じるみたいですし」
炎の量が増した。
「うぅぅぅぅ……ああぁぁぁ……」
ロッサは、息を止め炎の熱さと痛さの中、ノゲの体を手探りで探っていく。
「……これなら息もできないでしょう、死ね!」
「ぅぅ……ぁぁ……、……」
消え行く意識の中、手探りの左手が。ノゲの水晶を探り当てた。
胸部の切断面から指をめり込ませ鷲掴む。
「……な、何を!」
「……、……」
力を籠め、ぎりぎりとロッサの爪が、水晶とノゲの体の間に入り込んでいった。
「離――!」
ノゲの目が開かれる。
炎がピタリと止まった。
ロッサを掴んでいた手から力が無くなる。
「ガハァッ! ハァ、ハァ! ハァ、ハァ……」
頭全体にやけどを負ったロッサは、大口を開け、空気を肺に送り込み、
「ハァッ、ハァ、ハァ……うがあぁぁぁ!」
力いっぱい、自由になった刀で、もう一度ノゲの右脇に刀を叩き込んだ。
「かはあっ! あああっ! はぁぁっ!」
声にならない声で、ノゲが叫ぶ。
「あああぁぁぁ!」
水晶を鷲掴みすべての指をめり込ませ、何度も刀を叩き込み、
「死ねぇ!」
水晶を引き抜く。
ノゲの体が、仰向けに倒れた。
倒れたノゲの体が、小さく痙攣している。
(起き上がる気配はない)
ロッサは刀を握り直し、近づいていった。
(止めを刺して、終わりだ)
「……がある……」
(ん?)
かすれた声を出したノゲに、ロッサは切っ先を向ける。
「体を巡っている魔力が尽きれば、私は死ぬ……その前に、聞いてくれ……」
「……何を聞く必要がある」
「ゴギンズブルグ家の墓に埋めてくれ。……父も、母も、そこで眠っているから……」
「何でそんな事を……」
「……別人の姿で……驚いてしまうだろうけれど……ははは……」
「……聞いてのか……」
「……」
ノゲは目を見開いたまま、ピクリとも動かなくなった。
「……」
納刀し、ロッサは、ファレナの元へ向かう。
その胸元に、緑色の水晶ができていた。
リベルラ・ロッサ フィオー @akasawaon
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