第15話 尋問


「名前は」

「アンと申します」


 ソリーソの質問に、男は飄然と答えた。


「ノゲさん、そっくり……」


 ファレナが呟く。


「はい、レイさんのゴーレムですから」

「それって……仲間って事?」

「まぁ……はい、そうです……」


 ファレナの顔が曇った。


「お前が、父さんを殺した犯人か?」

「父さん? いえ、そんな事はしてませんけれど」 

「……。……うぅ……」


(こんな事、聞いても本当かどうかわからない……)


 と、ファレナは苦い顔になる。


 ファレナは、もう沢山のことが起こりすぎて、頭がこんがらがって、たまらない気持ちになっていた。


 ソリーソは、アンの頭にそこらにあったずた袋をかぶせ、腕を後ろに回し、その細い指に、これまたそこらにあった指枷を嵌めていく。


「一応ね」

「それで……ええっと……、……ああもうっ、聞きたいことが山ほどあって、何から聞いて良いやらっ!」


 ファレナが頭をかき乱した。


「とりあえず、あなたを作ったのは誰なの……」


 ソリーソが冷たい目をして尋ねる。


「レイさんですが……」

「それは、ノゲ・レイの事で、良いのよね?」

「そうでございます」

「何で私を誘拐したの? 目的はなんだ!」

「……あの、えっと……」

「早く言え」


 ファレナが短刀を二の腕にピタッと付けた。


「金庫を開けるためでございます」


 ずた袋の中から、怯えた声で答える。


「なんだぁ金庫っつうのはぁ。とっととしゃべれ!」


 ファレナは切っ先で突っつく。


「ああぁ! 痛い! だからやめて! 話しますから!」


 体を捻じり、剣先から逃れようとしながら、


「えっとですね、ボスがあんたに無実の罪を着せちゃって死罪にしちゃったのですね、教会に捕まえさ――」

「――はぁ!? じゃあ、あれもお前の仕業だったのか!」


 ファレナの顔が怒りに満ちて切っ先でプスッといった。


「ああぁ! 痛い!」

「ファレナさん落ち着いて!」


 ソリーソがファレナを制止させ、


「無実の罪で捕まえさせるなんて事、どうやってしたの?」

「昨日ペンゼを使ってですね、魔力によってですね、マガタマに干渉しました」


(凄い事をさらっと言うわね……)


 飄然と応える姿にソリーソは、少したじろいでしまった。


「じゃあ昨日の魔力の発生はそのためですね」

「はい、あれはですね、レイさんがマガタマを狂わせるかの実験をした時のものです」

「……それで結果は成功したと……」

「いいえ、狂わせるのには成功したんですが、何を間違ってか、緊急に死罪なんて事になってしまいましてですね、これは大変だと処刑される前に攫って、金庫開けさせようとしたという分けでございます」

「ふざけんじゃねぇ!」


 ソリーソが尋ねる言葉を遮って、ファレナは剣でブスッといった。


「ぎゃあ! やめてくださいー!」

「だいたいその金庫ってのは一体何なんだ! なんで私に開けさせるんだよ!」


 アンは体を捻りながら、


「えっとですね、たしか、開けられない金庫であって、でそれは伝血脈の特能を持った、魔道具だったんです」

「なんだそれ?」

「重要機密などを保管する時に使うような代物です」


 ソリーソが割り込んで説明した。


「穴の中に取っ手があって、そこに血を流して開かれるようになってるの。小説とかで見たことないですか?」

「なんで私にそんなのが開けられるんだよ」

「金庫がですね、ヴァルデ博士のものだからです、娘のあなたなら開けられますでしょ」

「お父さんの?」

「はい。昔、命令されて皆で盗んできた金庫でですね、それが――」

「――まさか!?」


 ファレナは震えながら、後ずさりする。


「あの時、家を襲ったのはやっぱりお前だったんじゃないか!」


 震えた声を発し、ぐっと短刀を握り直して、


「待って、ファレナさん! ダメ!」


 ソリーソが、飛び掛かろうとしてファレナの腕を掴んで止めた。


「この人には証言者とし――」

「――離せ! 仇を討ってやる! ゴーレムなら罪にもならないでしょ、ここで殺してやる!」

「あっ違いますです!」


 アンは脚をばたつかせながら、


「やったのは僕じゃないですよ! 本当です! ぎゃあ! やめて! 殺したのはスリで、もう壊れていないです! 本当ですってば!」


 ファレナの乱れ振る短刀が、アンの体をかすめる。


「ファレナさん落ち着いて、自分じゃないって言ってるじゃないですか」

「嘘言っているんだよ!」

「いえ、私は読心ができます。嘘は言っていません。この人はずっと本当の事しか話してません」

「何を! あんたのそれも嘘かも知れないじゃないか!」


 ソリーソは、ファレナの手首を捻り短刀を奪い取った。


「返せ!」

「私を信じて」

「返せ!」

「落ち着いて!」

「あんたも、皆、ああ、もう、ううぅぅ……ううぅぅわぁーーん!」


 ファレナは膝をついて泣きだす。


「本当ですってばぁ、信じてくださいってばぁ、ううぅぅわぁーーん!」


 アンの方も泣き出した。


「で、命令したのは誰? その開けようとした金庫は何の目的で盗んだの? 金庫の中身は何?」


 ソリーソが、短刀をファレナに返しながら矢継ぎ早に尋ねる。


「うっうっ、ボスですよ。目的なんて知りません、そこまではよくわかんないです、うえーーん」

「ボスってのは、ノゲ・レイよね」

「はい、うえーん」


(ノゲ・レイ本人に会わないと。なんとか本部に応援要請もしないと)


「ノゲ・レイは、どこにいるの」

「モウエ銀行です。魔力の使い過ぎで寝込んでます、回復したらグスーを使って記憶を消して――」


 そうアンが言った時、ドアが開かれた。


 アンと全く同じ姿、恰好の男は、中の様子を見て驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着いた表情になる。


「誰? ドス?」

「アン、何がどうなってる」

「助けて! 助けて!」


 アンが、じたばたしながら助けを乞いだした。


「あなたもゴーレムね。どおりで違和感があったわ。無詠唱魔法も魔水晶を活用したからね」

「貴様と同じだ」

「気を付けて、ドス。この裁警、読心ができるよ」


 ドスは剣を抜き去る。


「読心か。どおりで違和感があった」

「ファレナさん」


 ソリーソはファレナから剣を奪い取ると、


「こいつの相手をしてるうちに逃げて!」


 ソリーソが突進。


 ドスは素早く一歩下がり受け止める。


 しかしそれは読まれていた。


 手首をスナップして斬り込んできたソリーソの斬撃に、手首を斬られてしまう。


「早く、今のうちに!」


 ソリーソは、ファレナに叫んだ。


 ドスは距離を取って、相手の短刀の不利をつく。


 ファレナがドアへと駆け出した。


 それを止めようとするドスだったが、


「ハァッ!」


 ソリーソが気合の掛け声とともにスッと姿勢を低くし、距離を一気に詰め、横なぎにドスの左脚を斬り付ける。


「ぐぅっ!」


 ドスは、ソリーソに向き合い、距離を取って相対した。


 ファレナは大急ぎで、屋敷から外へと出る。


(助けを呼ばなくちゃ!)


 屋敷が建つ高台から辺りを見渡す。


 回りは何もない。


 他に家も立ってない丘の上、人っ子一人いなかった。


 田園の向こう、遠くにパルティーレの城壁が見渡せる。


(……誰もいない。丘を下りないと……。……あれ? あそこにいるのは……)


 ファレナは、良く見慣れた二つの人影が、こちらに登ってこようとしているのを見つけた。


 高台から飛び降りるようにして一気に駆け降りて、


「ロッサ! チュウ博士!」


 ファレナは叫んだ。

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