第14話 腕の水晶


 ソリーソが、凝視するファレナに気づき、驚き振り向く。


「……どうしました?」


 ソリーソは、一点を見つめているファレナの視線を追っていった。


「ああ、これは魔力源です。びっくりしました、こんなの埋め込まれてる……なんて……、……」

「……その、水晶……」


 ファレナは驚愕して、茫然としたような顔つきになってしまって、うまく動かない口を動かして、


「あなた、あなたが……」


 ファレナがゆっくりとソリーソから距離を取る。


(……この水晶が犯人の証拠? どういう事?)


 ファレナは震える体を抑えて、冷静になろうと自分に言い聞かせ、


「私はずっと! お父さんを、お母さんを殺した相手を探してたんだ!」


 叫び、水晶を指さし、


「ただ一つの犯人への手掛かりが、その埋められた水晶!」


 じっとソリーソを睨みつけ、


「あなた、お前なのか!? 6年前に、殺したのは!?」


 短刀を抜きさった。


「落ち着いてください! 何の、誰を殺したていうの? 一般家庭対象は、さすがに殺したりしないわ」

「ヴァルデだ! 父はヴァルデ博士だ! 6年前の事件だ! どうなのか言え!」

「……」


 ソリーソは返事せず、目を瞑りファレナに集中しだす。


「おい! お前が殺したのか! どうなんだ!」


 ファレナは切っ先をソリーソに向け、距離を一気に詰めた。


「待って待って」


 ソリーソが目を開ける。


 と、短刀の切っ先が目の前に触れんばかりにあった。


「待って……なるほど理解したわ。ヴァルデ博士の娘だったの? あなた……」


 ソリーソは戸惑いを隠し、落ち着き払って話し出す。


「まず、あなたやヴァルデ博士を殺害したのは私ではありません。ヴァルデ博士の一家を殺害した犯人は処刑されていたはずです」

「違う! 犯人はお母さんじゃない!」

「そんな……、もし言う通り犯人は別だとしたらマガタマが狂ったという事になる……そんなこと……」


 ソリーソの脳裏にヴァルデ博士の実験事件がよぎった


(……誰かがマガタマに干渉した……)


 地下室にあった魔道具ペンゼが思い浮かぶ。


(……魔力がマガタマを狂わせているという事を証明しようとした、あの魔研の実験……博士が死んだのも、同じ時期……まさか……成功していたの?)


 その時、ドアが突然に開かれた。


「わぁ! 吃驚したぁ!」


 入って来ようとしてた、顔立ちのはっきりしていて鼻筋がスッと通っている初老の男は、牢から出てるファレナとソリーソに驚いて、ドアを閉める。


 しかしすぐにドアを開け堂々と入って来て、


「どうやって出れた!」


 怒鳴り、手に持った燭台の火を向け、威圧するように怒鳴った。


 ファレナは驚いて、


「ノゲさん!? どうしてここに居るんです!?」

「え?」


 男は顔を探り、


「しまった、隠すの忘れた!」

「ノゲさん……?」

「もういいや。まったく、悲鳴が聞こえたから昼寝を中断して、急いで来てみれば、早く牢の中に戻ってよ!」

「……ノゲ? この人が?」


 ソリーソが男に集中先を変えた。


「あっそうです、僕がノゲです」


(……嘘ついてる。……誰、この人……さっきノゲの振りしてた人でもない……おかしいわ、さっき見た人と同じ姿、恰好なのに……、……まさか……)


「手荒な真似はしたくないけれど……脱出しようとしたら、容赦なくやれって言われてるから」


 言いながら、男は腰のあたりを手で探る。


「……嘘でしょ、ない?」


 焦った様子で、上着を脱ぎ体全体を調べ始めた。


(武器を忘れた……? 何この人……? とりあえず、素手でもひとりくらい!)


 ソリーソは男に飛び掛かる。


「わあああっ。待、待って、待って、落ち着いて落ち着いてっ」


 戦闘になると覚悟したが、以外にも男は両手を上げ、何ら害心などないことを必死に訴えてきた。


 ソリーソは、男の腕を掴み、シャツの袖をめくる。


 男の腕には、ソリーソとまったく同じ水晶が埋め込まれていた。


「やはりね、無詠唱なのでピンときたわ」

「どういう事……?」


 ファレナの目が見開かれる。


「ノゲ氏ではないわ。こいつもゴーレム。しかも私と同じタイプ……」

「どういう事なんだ……」

「……この水晶は……話しましょう、この水晶は義体を動かすための動力源で魔力を配給しています。石の心臓の代わりなんです。私の手を触ってみてください」


 ソリーソは、左手を差し出した。


 嵌められた水晶が、燭台の火にきらりと光る。


「ああ、あんたもゴーレムだったのっ」


 男が驚いて言った。


「静かにしていなさい。ファレナさん、早く触ってみて」

「何で触らなくちゃ」

「私の体は、この男のも、木の樹脂から錬成された物質で作られています、触ればすぐに人の体と違うのがわかってくれるとおもいます」

「どういう……」


 ファレナがゆっくりと差し出された左手に触れる。


 すると、すぐに何かおかしいのがわかった。


 爪が単なる絵であるし、骨の感触もなければ、血管も見えない。ソリーソの体は軟質のすごく弾力のある物質で出来ていた。


「見てください、関節も」


 ソリーソは右手で左腕を持つと肘を伸ばしていき、そしてそのまま逆向きに折り畳んでいく。


「私の体は肉と違うので、かなり伸び縮みできます、木の樹脂の特徴です。さっきのも、ホントは特能ではありません」


 ファレナは目を見開いて驚きながら、


「気持ちわる……」

「言わないでください。私は30年ほど前に全身に火傷を負ってしまって、ゴーレムの体に魂を移植する、魔研の最新の救助手術実験によりこの体になりました。私はゴーレムなんです。この体は事故当時の私の体を模して作ったので、こんな若い体だけど、今の本当の年齢は55歳になります」

「……それで、ノゲさんも、そうなのか……」


 疑わしい目で見ながら、つぶやくように言った。


「考えられない事ですが、そうみたいです。この手術はゴーレム錬成の難しさから今では行える人が行方不明になり、後継者もいないため行われていません。記録上、私を含め2人しかいません」

「それは誰……」

「この手術を唯一実行できたゴギンズブルグ博士です、けど、彼は6年前に死にました」

「6年前……」

「ついでにこの人はノゲではありません」

「どういう……事だよ……もう、何が何だか……」

「こいつに聞いてみたら良い」


 ソリーソは、男を睨みつけた。

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