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第6話 裁警、ソリーソ
荒らされた部屋を片付け、燈台に火を灯し、ロッサは焼けた上着を、全く同じ上着に着替えると、椅子に座り、深く呼吸を始める。
「……ねぇね、何があったんだ? 何で私、誘拐されかけてんの?」
やっと泣き止んで落ち着いたファレナが、燈台ごしに、うなだれて座っているロッサに尋ねた。
「……そりゃこっちのセリフだ」
ロッサはファレナを強く見つめる。
「一体何をしたんだ? 処刑人だったぞ、あの人……」
「何もしてない」
ファレナは即答した。
「そんなわけ……あるわけ、ないじゃないか……」
「知らないったら、あの人らは処刑人だろ、ロッサは何か知らないのか、処刑人だろ、一応」
「……いや、うん」
ロッサはファレナから目を反らした。
「……どした?」
「……」
ロッサは深呼吸をしてから、
「お前、殺しなんて、してないよな」
切り出した。
「何だよ急に」
ファレナが訝しい顔になってロッサを見つめる。
「……姉さんの所へ行った時、新しい処刑依頼も受けて来たんだ。で、その対象が……お前だったんだ」
「はあ!? なんでだよ!?」
ロッサは驚くファレナを観察しながら話を続けた。
「情報によれば、男に色仕掛けで近づき、強盗殺害って話だけど……」
「なんだそれ!? できるわけないだろ私だぞ!」
ロッサはまじまじとファレナの体を見つめる。
(……やっぱり違うのか?でも……)
「いや、僕は十分かわいいとおもうよ」
「え?」
「……そう、その品の無さもお前なら隠して男を騙すなんて朝飯前だし……いや、しかし体に魅力が……いやいや、貧乳好きのおかしな男もいる、その幼児体形だって、きっとお前ならそういう人たちを狙って殺してても……」
「てめぇこそ、ぶっ殺すぞ」
「……教会がそう言っているんだ。マガタマがお前の名前を出したという事なんだ。だから……それは、つまり……」
ロッサは頭を抱えて黙り込んでしまった。
「……ねぇ」
ファレナの呼ぶ声にロッサが顔を上げる。
「……ロッサは、どうおもってんだよ……」
ファレナはロッサの目を見つめ、ゆっくりと静かに言った。
ロッサは、自分を見つめる、その丸い瞳をじっと見つめ返す。
「……僕は……僕は、お前がそんな事したなんて、おもってるわけないじゃないか……。……でもなファレナ、教会が間違えた、なんて……そんな事、あり得るのか?」
「間違いだよ間違い」
手を、ないない、と振ったファレナは、
「やっぱそうなんだよっ。間違いがあるんだよ。マガタマも完全じゃないんだ。行ってそう報告して来いっ、早く早くっ」
嬉々として言った。
(……何を、嬉しそうにしてるんだ……?)
「……。それは……無理だよ、処刑対象情報を間違えたなんて……つまりは神器がおかしくなってる事を意味してる……そんな事があったら世界は……」
ロッサは俯いて頭を抱えてしまう。
「ああ……どうしたら……良いんだ……」
「……ロッサ……」
ファレナが椅子から立ち上がった。
「……信じて、私ホントに何もしてない……間違いなんだよ。間違えるんだよ……」
ロッサを後ろから抱きしめる。
「……」
ロッサは何も応えなかった。
「……」
ファレナは、そんなロッサを、ただ静かに抱きしめる。
暫くして、
「……良いかい」
沈黙を撫でるように破って、ロッサは俯いたまま、背中に居るファレナに話し出した。
「とりあえず処刑人に狙われてる。ついでに僕もお前を匿ったとか守ったとかいうのがバレたら処刑対象になる」
「私、何もしてない、信じてよ。やっぱりマガタマがおかしいんだよ」
「うん、信じてるさ……」
ロッサの顔が歪む。
「で、これからの事だけど、やっぱり姉さんしかいない」
(姉さんなら何とか信じてくれて、案を出してくれるはずだ……多分……くれる……はず……)
ロッサの顔が、もっと歪んだ。
「……心配しなくて良い、頼み込めばきっと助けてくれる……」
「そうなのか?」
「ああ……行ってくるよ」
「早く、帰って来いよ」
「じゃあな……」
背を向けたまま返事して、ロッサは玄関ドアを開け、ゆっくり後ろ手に閉めた。
朝日が差す、澄んだ空気の中、一伸びする。
こうして明るい所へ出て、何よりもファレナと離れられたことで、ロッサは落ち着きを取り戻した。
(……ファレナの顔を見たら……離れられない……からな……)
ファレナを処刑できなかった事は、ロッサの良心を責めて苦しめていた。
トボトボと大通りを出て、教会とは反対方向へ歩いていく。
(……姉さんに……話せるわけない……)
パルティーレ東にある商業区は、王都へと続く街道と繋がって、パルティーレはもとより世界中の物が集められていた。
馬車が常に通りを往来しているノメン大通り沿いを中心に栄え、様々な専門店が立ち並び朝から夜遅くまで行き交う人が絶えない。
楽器屋、古美術店、おもちゃ屋と、ロッサは立ち並ぶ店舗を横目に見つつ、人ごみの中を歩いていった。
と、店舗の群れがなくなり、目の前に城壁がそびえる。
「……はぁぁぁ」
吐息をついた。
(商業区の端まで来てしまった……)
ロッサは踵を返し、細い路地に入って行く。
(……ファレナは、今頃、他の処刑人に殺されているだろうか……ああっ、やめろっ考えるなっ)
路地は、高い建物に囲まれて細く暗かった。
(……ファレナ、ごめん、これが一番良いんだ。マガタマが間違っているわけない。僕はやれないから、他の人に……)
ロッサは建物に四角く切られた空を仰いだ。
そして、またトボトボ歩き出す。
(……しかし、ファレナが人など殺して、なんて考えられない! ……やはり帰って……。いや、でもマガタマが!)
逡巡しながら、俯き石畳をじっと見つめたまま、重い足取りで歩いて行った。
そうやって悩んで俯き歩いて、足元ばかりしか見ていなかったせいであろう。
ロッサは、小道から飛び出して来た、ロッサより10才ほど年上の見た目の、長い髪と、緑のミニスカートを翻した女性に、全く気づく事ができなかった。
2人は勢いよくぶつかって倒れ込んでしまう。
その時だった。
咄嗟に、何とか受け身を取ろうとするロッサの右手が、まずその女性の上着のボタンを1つ2つと外していき、女性のシャツをペロリとめくり上げる。
そして、同じく何とか受け身を取ろうとした左手が、右手の遺志を継ぐかのように女性の背中に回り、ブラのホックを外し、素早くブラを脱がしては自らの頭に被らせると、馬乗りになり両手で女性の大きな胸を優しく揉んでいった。
――ごむにゅ。
(あイてててて……。)
――ごむにゅ、ごむにゅ。
(ん? 何だ? 何か手が、固いけど柔らかく弾力のあるものを掴んでいる……?)
目だけ動かして、いつの間にか下にいる女性の、めくれたシャツ、ブラ、おっぱい、と一つ一つ確認していくように望み見る。
ロッサは、唖然として大きなおっぱいをもう一揉みして、硬直してしまった。
と、下で、
「キャーーーー!!」
女性が商業区全体に轟くかとおもわれる悲鳴を上げる。
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