第3話 ラーパと処刑依頼
パルティーレ東、商業区との境にある東居住区5番街。
ロッサは部屋から出て、階段を降り、世間話の賑やかな声が響いている路地を抜け、モウエ銀行と看板が掲げられた15階建てのパルティーレ一高い建物、その堂々とした豪奢な建造物の横の薄暗い路地から、ノメン大通りに出た。
真昼のノメン大道りは人で溢れ、恋人同士が体を寄せあって歩いている。子供が親にアイスクリームをねだって叱られている。ガイコツが落とした肋骨を拾って元通りくっつけようとしているが、うまく嵌らず困っている。
テクテク歩き、ロッサはノメン大通りに直角に交わるウィジン大通りを進んでいった。
パルティーレ大教会が見えてくる。
いくつもの尖塔が連なる白く輝くスベガミ教の大教会。
見上げんばかりの荘厳な大教会正面、大扉から中に入ると、大聖堂の吹き向けいっぱいにスベカミ神の石像が建てられている。
その背後には、聖なる紋章『白十字』輝いていた。
祈りに来る者、助けを求めに来る者に、その荘厳さで、畏怖と康寧とを与えている。
厳かな雰囲気の中、ロッサは多くの信者たちが祈りを捧げる1階の、その横の回廊に進んでいった。
馬車乗り場に隣接して、馬車が多く止まっている門の前の警備の修道士に、ロッサは通行許可を貰いに行く。
警備の修道士は、姉であるリベルラ・ラーパの弟である事を説明するロッサの話を聞くと、処刑人の腕輪で身元確認して、
「どうぞ、ロッサ君。いつもごめんね、ルールだから」
「いえいえ、何もおもってませんよ」
「ラーパは部屋よ」
「訓練場じゃなくてですか?」
「今日はロッサ君が来るからだってさ」
「そうですか、ありがとうございます」
端にある、移動魔法ロンの着地点に、ピロリン♪ ピロリン♪ と音を鳴らしながら緑色の筒状の光が、天空より降りてきた。
また、処刑対象がひとり連行されている。
ロッサは中庭を横切って、寮の3階、姉の部屋へと向かった。
「姉さん、久しぶり」
ラーパは、肌を覆い隠すような作りのロングスカートの青い聖堂服姿。
左腕に、スベガミ教会の紋章が刻まれた、ロッサと同じ、処刑人の腕輪を付けている。
澄み通ったガラス細工のように冷たい美しさを持っているが、それでいるのに勝気な印象を持ってしまうほど、瞳が激しい光を帯び、いつも赤い唇をひき結んでいた。
ラーパはその聖堂服では隠しきれないふくよかに実った胸を揺らして、ロールトップデスクの椅子をロッサに向けて座った。
「孤児院を出て行ったぶりですね」
「うん」
「父さん母さんが死んで、もう10年になるのね」
「そだね」
「どうですか? 処刑人としてやっていけそうですか?」
「うん? まあ1年目だし……そんなにうまくはいかないよ」
「根が臆病なのは一生、変わらないような気もしますけど……」
ラーバは、沈んだ目になる。
「魔法も使えないですしね、ロッサは……」
「でもまぁ、戦い方はいくらでもあるからね」
「そうでしたわね、剣技は免許皆伝でしたっけ」
「そう、そうだよっ」
「あと鋼鉄の体は、あなた以外にはいない特能ですもの。……あっそうだ、ロッサに依頼しようかしら」
ラーパはおもい出したようにそう言うと、腕輪を操作しだした。
「えっ何?」
「緊急だけど簡単な処刑依頼がありますの」
「良いよ、どんと任して」
「助かるわ、とんでもない魔道具のペンゼっていうのがね、事故で行方不明になった件につきっきりなのよ今」
「ふーん」
ロッサは左腕の腕輪を差し出す。
ラーパは差し出されたロッサの腕輪の水晶部に自分の腕輪の水晶を重ね合した。
触れ合った水晶が緑色の光を放つ。
ロッサの腕輪に、ラーパに送られてきた依頼が複写された。
「女性の犯罪者です。死罪よ」
「死罪なんて、何したの」
ロッサは水晶に表示された処刑依頼を確認した。
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処刑依頼
――マガタマより勅裁を得る
緊急に死罪、捕獲せずその場にて処断すべし
――マガタマからより情報を得る
種、人間族。
国、ガンキ国民。
年、16歳。
性、女性。
名、ヴェルデ・ファレナ。
罪、ガンキ国民、パルティーレ市在住の男性1人を殺害。
――教会からの補足
緊急依頼になります、5日以内に処刑してください。
魔能力の有無は不明です。色仕掛けで近づき、金を奪い殺害した模様で危険はないと思いますが注意してください。
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ロッサは腕輪側面にあるつまみを回した。
レーダーが表示される。
処刑対象の居場所を示す緑色の光が、ロッサの家の方向を示すように腕輪の端にゆっくり点滅する。
「……」
ロッサは黙り込んでただじっと腕輪の光を見つめ続けた。
「緊急の依頼だからと、私に送られてきたんだけれど、別段強くもないし、ロッサでも可能と思います」
「……」
「私には他にすることもありますので、手伝ってほしいの」
「……」
「ロッサ?」
「……」
「どうしました?」
ロッサは絶句して、こちらを見るラーパをただ見返すだけで、言葉が出ない。
ラーパはロッサの顔を、訝し気に覗き込む。
「いや……なんでもない」
ロッサはその時、窓から差し込んで来た光に気をとらわれながら、
(偶然だよな……同姓同名の、別人だよな……)
「うん、わかった。やってみるよ」
笑顔を作って言った。
そう言いながらも、心配に、恐怖にとらわれそうな顔で、ロッサはつまみを回し、水晶の緑の光を消す。
ラーパは気になりながらも、
「助かりますわ。さあ、行きましょうか、お父さんとお母さんの所へ」
明るい優しい声で言う。
「そうだね、途中何か食っていこう」
ロッサも、それに応えるようにファレナの事は忘れて明るく言った。
「ええ、ご馳走するわ。何でも食べなさい!」
「やったー!」
取り越し苦労はせまい、そうロッサは自分を律していた。
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