未開惑星の便利屋マキナへようこそ

第25話

　男は特異な能力の持ち主であった。

　他人の魔力を吸収し自分の魔力とすることが出来る。

　そのことに気が付いたのは冒険者になり、始めてパーティーを組んだ時だった。

　きっかけは些細なことだった、仲間の剣士が転んでそれを支えた時にたまたま心臓の辺りに手が当たっていたのだ。

　すると不思議なことに触れた相手から自分に魔力が流れてくるのを感じた。

　最初は自分の勘違いだと思ったが、何度か試すうちに自分には特別な力があることを自覚した。そして、自分は選ばれた存在なのだという自尊心も芽生えた。

　隠れて仲間たちから魔力を吸収し続けると、自分が日々成長している事がはっきりとわかり、えもいわれぬ高揚感も感じ始めていた。

　ある日仲間の剣士が戦闘中に身体強化魔術を発動できなくなり、思うように動けず大怪我をおった。

　男はその様子をみて心底がっかりした。自分の才能を活かすにはこの仲間たちでは無理だ。もっと優秀な仲間が必要だ。

　そう考えた男はすぐにパーティーを抜けると自分の糧になりそうな者を求めて、様々なパーティーを転々とする。

　しかしそうした日々も長く続くとある噂がたち始める。

　あいつと組むと誰かが大怪我をする。あいつと組むと弱くなる。

　そういった噂は徐々に広がり男をパーティーに入れる者はいなくなっていった。

　男は絶望した。このままでは自分の持っているこの素晴らしい能力を使うことが出来ない。

　悩み抜いた末に男は裏社会の門をたたく。

　何も魔力を得るのにわざわざ仲間を作る必要もない。人を買う、もしくは攫う、そうすれば隠れてこそこそ吸収する必要もない。

　男はそれを実行し用意した人物が死ぬまで魔力を吸収し続ける。

　そうすることを続けるうちにいつしか人は自分に魔力を与える素材のようなものだと考えるようになっていった。

　ある時たまたまハーフエルフという素材を手に入れることが出来た。

　その素材から吸収できる魔力量は凄まじく、一度経験するとその虜になってしまった。

　そうした日々が続き、自身の魔力量は増え続けていく。

　次第に一般的な冒険者に比べると凄まじい力を得ている事に気が付いた。

　裏では禁忌に手を染め続ける一方で、表の顔で冒険者として活動する。

　そして男はいつしか最上級と言われる1等級まで上り詰め名声をも獲得していった。

　名声を得ると次第に自分に弟子入りしたいというものが増えてきた。

　男は喜んだ。魔術士ならばただの人間でも魔力量は多く素材としては極上だ。

　しかし冒険者を続けるならば、死ぬまで吸収することは出来ない。

　男は悩みついに禁術に手をかける。即ち呪術であった。

　裏社会の伝手を駆使して呪術に関する書物をかき集める。

　そうして病気に見せかけて魔力を吸収する呪術を開発し、弟子が一人立ちした数年後に機会をみて呪術を発動し魔力を吸収する。

　ある時ラビリスティアまで素材を探しにいったときに一人の弟子ができた。

　その弟子がハーフエルフと知ったとき男は歓喜した。そしてつい我慢できずに呪術を発動させてしまったのだが、考えていた通り男を疑う者は誰もいなかった。

　普通にみればただの病死にしか見えないのだから。

　しかし、ラビリスティアは特殊な街、発覚する可能性を考慮して男は帝国に一度身を隠す。

　その時にたまたま幻と言われる0級等級の冒険者と出会う機会があった。

　その人物は【魔導士】を自称しており、是非とも弟子入りさせてほしいと男は頼み込んだ。

　もちろん、魔力を得るために。

　しかし、その人物は男にこう言い放った。

「魔力？魔力を見ているようじゃ無理だね。君は一生コチラ側に来ることは出来ないよ。」

　その言葉に男は自分の全てを否定されたような気がして激高し襲い掛かった。

　しかしその人物は涼しい顔をして男を叩きのめすとそのまま立ち去る。

　男は再び絶望しさらに狂っていった。

　それからは前にも増して素材を求め各地を彷徨い、ついには魔物の研究にも手を出しはじめる。

　一般的に魔物は魔力の塊だと言われているのに、エルドマは魔物に触れても魔力を吸収することは出来ない。

　しかしそれを解決できるなら自分はさらに高みを目指せる。魔術の神髄を……。

　ある時、魔石を人体に混ぜる実験を行った時に爆発的な魔力の高まりが計測できた。

　魔石を混ぜた素材は数秒後破裂して粉々になったが、問題ない素材の質が悪いだけなのだ。

　研究を進めて自分に適合させる魔石を人工的に作れるようになれば……。

　長く伸びた白い髪を振り乱しながら薄暗い研究室で笑みを浮かべる。

　素材だ……やはり素材が必要だ。それも上質な……。

　ある時とある筋からラビリスティアの宿屋に女のハーフエルフがいるという情報を得た。

　その女も自分を魔術の高みに導くためになら喜んで素材となってくれるだろう。

　男はそう考えラビリスティアに赴くのであった……。

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　そして現在……エルドマの前には黒いアーマーコートを着て、表情を全て覆い隠すフルフェイスの兜を装着した謎の男がいる。

　その男からは一切の魔力が感じられず、魔力なしのゴミかと思っていたのだが、あろうことか自分の最大魔術を受けても平然としており、もはや人の形をした化け物としか思えなかった。

「さて、殺すか。」

　男の口から淡々と死刑宣告が告げられる。

　エルドマは必死に考えた。この状況を脱するすべを。

　そうして一つの答えに行きつく。

　どうせ死ぬのなら……。

「うわあああああああああああああ！！！！！！！」

　絶叫をあげながら涙と鼻水を垂れ流し必死に奥の隠し部屋に走る。

　男は舐めているのか幸いゆっくりと付いて来ており、なんとか間に合いそうだった。

　しかし、ヒュンっと風が切った音がしたと思えば右足が切断され体のバランスを崩した。

　エルドマは絶望感に襲われたが、幸運なことに倒れこんだ勢いでそのまま前転のような形で転げ回りそのまま隠し部屋に入ることが出来た。

　欠損した部位から激しい痛みが襲ってくるが。エルドマはそれでも地を這いながら目的の装置にたどり着く。その装置には巨大なガラスの容器が装着されており、その中は赤く輝く液体で満たされていた。

　エルドマすぐさま装置を起動し咆哮する。

「これで終わりだあああああああ！！！この素材共がああああああああああ！！！！」

　装置から伸び出ている極大の針を自分の心臓に突き刺す。

「ワ・わだじハ・まじゅ・・・つのじんず・・びにいだ・・る！！オボアアアアアアあア！！！グボッ！！！グガアア！！！！ゲジｄッダ！！！」

　するとエルドマは絶叫しながらその場でのたうち回る。

　そして糸が切れた可能ように停止すると肉体に変化があらわれ始める。

　体全体が肉団子のように膨張したかと思えば萎み、徐々に皮膚が浅黒い緑のような色に変化していく。

　すると再び肉体が膨張し巨大な肉団子をつなげたような体長10メートル程の異形の化け物に変化していく。

　体表はヌラヌラと光っており、体が自然に崩壊しているようだが崩壊したそばから再生しどんどんと膨張していっている。

　エルドマは自分の中にあふれる魔力に感動していた。

　この力があれば魔術の神髄に至れる。

　そして何より目の前の目障りな魔力なし共を皆殺しに出来る。

「オバエラハ・・・ゴロズ！！！！」

　エルドマは咆哮し目の前の男に襲い掛かった。

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　目の前でエルドマが化け物に変身した。

　這いずる度に体が自壊しているようだが、そこから肉が盛り上がりどんどんと膨張していっている。

「また面倒な事を……。」

　エルドマは俺に向けて口らしき部分を開く。そこに魔力を集中させレーザーキャノンのように乱射し始めた。

「ちっ！このままじゃ洞窟が崩れるな。一度引くか。」

「マデエエエエ！！！ゴロジュ！！！！」

　俺が撤退するそぶりを見せるとエルドマはさらに狂ったように魔力を放出し始める。

　しかし俺はそれを完全に無視して一度アイちゃんの居たところまで戻った。

　いつの間にか地上にいた姉妹達も来ていたようで全員揃っていたのだった。

　俺はみんなに今の状況を伝える。

「なんか知らんけどエルドマが化け物に変身した……。多分洞窟が崩れるから一旦地上まで引くぞ。」

「愚か者に相応しい末路ですね。」

「確かに似合ってたかもな。とりあえず急ごう！」

　そうして俺達は地上へと無事撤退したのであった。

　地上に出ると月明かりが辺り一面を照らしていた。目に映る景色はさながら荒野のようだった……。

「……派手にやったね。」

「はい！ご命令通り殲滅しました！」

「一人も残してない！です！」

「……皆殺し。」　

「妹達よ。よくやりました。お掃除上手はポイント高いですよ。」

　いつもの空気が戻って来たように感じられたが次の瞬間、地下から地響きのようなものが聞こえてきた。

「あいつ！あの体で速すぎだろ！」

　俺は悪態をつきながら戦闘態勢を取る。

「皆は後方に下がってレオナさんを守っててくれ。あいつは俺が滅ぼす。」

　そう告げると皆は素早く後方に退避した。

　地響きはだんだんと大きくなりついに俺の足元が割れ下から化け物が姿を現す。

　俺は態勢を一瞬崩したが、その場から後方へ飛びのきスキル発動の準備をする。　

「ゾザイイイイイ！！！！ゴロズ！！！！」

「【ゲイボルグ】！」

　右手を天に掲げ上空に巨大な魔槍を形成していく。そしてそのままエルドマに向けて射出し体に巨大な風穴を開けた。

「ボアアアアアアアアアアアアアアア！！！！」

　エルドマは悲鳴のような咆哮をあげたが魔槍で穿ち抜いた傷跡から新しい肉の塊が発生しさらに膨張を始めたのだった。

「……もしかして不味い感じ？」

「オボアアアアアア！ゴロズ！！！ゴロズウウウウ！！！」

　エルドマが発狂し俺に向けて魔力の塊を放出してくる。しかし俺はそれを召喚した大剣で受け流しながら背後に回り込む。

　生半可なダメージだと即座に再生して体を膨張させるだけだ。

　全エネルギーを使ってでも次で確実に滅ぼすしかない。

　俺は全力でエネルギーを循環させる。

　体からオクタム粒子の蒼い煌めきが溢れ出し闇夜を蒼く染めていく。

「【天羽々斬】。」

　俺がスキルのトリガーを唱えると左手に巨大な刀が出現する。

　普段は手に武器を持つことは出来ないのだが、このスキルだけは例外で唯一手で扱うことが出来るのだった。

　そしてこの武器を使用中は専用のスキルが発動できる。

「【大蛇】。」

　鞘から抜き放ち一閃すると八つの巨大な斬撃が対象に襲い掛かる。

　それはさながら意思をもった生物のような軌道を描き相手を食い破りながら消滅させていく。

「ウボアアウゴボウウガアアアアアアア！！！！！ゴアアアズ！！！」

　俺は続けざまにスキルを発動させる。

「これで死んでくれよ！【ラグナロク】！！」

　右腕を天に掲げスキルを発動すると星外の宇宙空間に巨大な光剣が形成される、そこから対象に向けて何重にも幾何学模様の魔法陣が展開され、甲高い音をあげながら光剣の先から蒼白い巨大なレーザーが放出された。

　巨大な質量を持つエルドマだったがレーザーに飲み込まれながら静かに崩壊していく。

　しかしそれでもまだあがくようで俺に向かって必死で手のようなものを伸ばしてくる。

「力を求めすぎた者の末路か……。」

　崩壊していくエルドマを見ながら少しだけ物思いにふける。

　こいつは反吐が出るほどの邪悪だったが、戒めとして覚えておこう。

　俺もこんな化け物にならないようにしないとな。

　そして俺は右腕を振り下ろす。

　すると宇宙空間から巨大な光剣がレーザーを切り裂きながら高速で飛来しエルドマの全てを消滅させた。

　「終わったか……。」

　薄っすらと白み始めた空をオクタム粒子の蒼い残滓がきらきらと舞う。

　俺はエルドマのいた方を一度だけ振り返り、皆の方へ歩き出す。

　しかしエネルギーを使いすぎたせいかふらつき、俺はそのまま前方に倒れそうになった。

「あ……まず……。」　

　そのまま地面に突っ込むかと思ったがいつまでたってもその時は訪れなかった。

　気が付くといつの間にか皆が俺の方に駆け寄って全員で俺の体を支えていた。

「アイちゃん、アインス、ツヴァイ、ドライ。ありがとう……。」

　みなは笑顔で俺の言葉に応える。

「んじゃ。帰りますか！」

　そうして俺達は朝日が昇り始めた空の下を皆で歩き始めた。