第19話

 調査もかねて全員で街に繰り出した俺たちは大きな噴水のある広場まで来ていた。この広場から東西南北に大通りがあり、そこがこの街のメインストリートとなっているようだった。


「昨日はあまり観察することはできなかったが、こうして改めてみてみると予想してたより文明レベルは高い星のようだね。」


《はい。魔術を基にした技術体系が発達しているようです。》


「でもちょっとあの塔は強烈な違和感があるな……。」


 そう言い俺は都市の中央にある黒い巨大なタワーに目を向ける。


《そうですね。街の建築技術を見るにあのような巨大な建造物を人の手で作り出すのは不可能だと推測されます。》


「それに……なんか見覚えがある気がするんだよなあのタワー。」


 俺の気のせいかもしれないが昔どこかで見た気がするのだ。そう、この世界に転移する以前に……。

 しばらく考え込んでみたが無駄だったのでこの件は一旦忘れることにした。


「この街での拠点ができたら一度調査してみたいな。もしかしたら何か思い出すかもしれない。」


《了解しました。》


 そうして俺たちはしばらく街を観察しながら歩き、店舗候補となる物件を見て回った。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 時間をかけ商店が立ち並ぶメインストリートをくまなく見て回ったが、空き店舗はなかなか見つからず、あったとしても家賃が高いので諦めざるをえなかった。

 そこで俺たちは人気の少ない裏通りに向かいそこで店舗を探すことにした。


「ふむ。人通りは少ないが逆にそれが良いな!怪しい雰囲気もグッドだ!」


《ただでさえマスターが怪しい風貌なのに、お店まで怪しかったら人が来るとは思えません。》


 アイちゃんに俺のロマンは理解されないようだが、俺はこの場所こそが便利屋家業の事務所を構えるに相応しいという確信があった。


 そのまましばらく歩いていると俺はとある古ぼけた佇まいの店舗に目がとまる。


「こ、これは!」


 電流が走るとはこのことだろう。一目見た瞬間にビビッときた。急いで駆け寄り空き店舗かどうかの確認をする。


 店舗の入り口であろう扉の前には商業組合の紋章が入った看板がかかっており、おおよその家賃などの情報が記されていた。


「ふむふむ。一ヶ月5万ゴルドか。……破格では?」


《相当年季がはいっていますしそんなものかと。》


 ちなみにアイちゃんの調べではこの世界は1年が400日で暦は10に分かれているらしい。つまり一ヶ月は40日であり年間50万ゴルドでこの店舗を借りることが出来る。


「多少古ぼけてはいるがここが気に入った!ここに決めるぞー!さっそく商業組合にいって契約だ!」


 そういうや否やテンションの上がった俺は商業組合に向かって全力で走り出す。その様子に慌てて姉妹達はついていくのであった。




 街を全力で駆け抜け俺たちは商業組合についた。さっそく中に入り受付に向かい空き店舗の契約をしたい旨を伝えた。


「すみません。空き店舗の契約をしたいのですが。」


「いらっしゃいませ。店舗の契約ですね。希望の物件はお決まりでしょうか?」


 そう言われたので俺は先ほど見つけた物件に書いてあった管理番号を伝える。


「えーと……裏通りの00435って店舗です。」


「00435ですね。畏まりました。契約に関する書類をお持ちしますので別室にご案内しますね。」


 そうして俺たちは別室に通されそこで待つこととなった。

 しばらく待っているとバンッと大きな音をたてて扉が開き見知った人物が姿を現した。


「やぁやぁ!お待たせしてるねノイン氏!」


 まさかのイレリアの登場である。


「あれ?イレリアさん?今日は魔石の持ち込みじゃないですよ?」


「ノンノン!もちろん知っているさ!店舗の契約にきたのであろう?それと、私の事はイ・レ・リ・アと呼んでくれたまえ!君と私の仲じゃないか!」


 そう言いながら俺の手を取りぶんぶんと握手をしてくる……やっぱりテンション高いなこの人……。

 その様子をみてアインスがスッとイレリアの前に右手を前に出す。


「ヒィ!出たな!怪力クール美女め!」


「あら?またお仕置きされたいようですね?」


 なんか仲いいなこの二人……。ツヴァイとドライも覚えていたようで何か言っている。


「あっ!残念な人だ~!」

「残念美人……。」


「小娘共!残念とは何事だー!……って美人?ハハハハハ!実はそうなんだなこれが!ハハハハハ!」


 忙しい人だ……。そして話が全く進まない……。話を戻すべく俺が声をかける。


「イレリアさん。今日は店舗の契約でここに来たのですが……。」


「……ん?そうだそうだった!その件は私が対応する。そしてあの店舗の書類はこれだ!」


 テーブルの上に店舗の間取りなどが書かれた書類が置かれた。それらに目を通し特に問題ないことを確認する。


「それに書いてあるように家賃は月5万ゴルドだ。問題ないようならこちらの書類にサインをしてくれたまえ!」


 イレリアから契約書がさしだされる。一通り目を通し契約条件も特に問題なさそうだったので俺はその場でサインをする。


「よしよしよし。これで契約は成立だ!家賃の支払いの手続きは帰りに窓口で行ってくれたまえ。」


「わかりました。……ところでなぜイレリアさんがここに?」


 無事契約は終わったが、俺は何故鑑定士であるイレリアがわざわざここに足を運んだのか気になっていた。


「実はこの店舗は私の知り合いの占い師の婆さんが以前に使っていた場所でね。その人物にこの店舗を契約する者が現れたら、あるものを渡すように頼まれていたのだよ。個人的にね。」


 そう言うとイレリアは細長い金属製の箱を取り出し俺に差し出した。


「これは……一体?」


「さぁ?私も中身は見てないからな。危険なものではないと思うぞ。」


 未確認ですか……。

 とりあえず危険物ではないと信じて貰えるものは貰っておくか。


「そういう事なら受け取らせて貰います。ちなみにその占い師の方は今どちらにいるのかご存じですか?」


「ああ……。実は5年程前に亡くなっていてね。その箱は丁度彼女が亡くなる3日ほど前に渡されたものなのさ。……まぁかなりの高齢だったから寿命ってやつだね。」


 そう語るイレリアの瞳は少し悲しげであった。恐らくその占い師とイレリアは仲の良い間柄だったんだろう。


「それは……お悔やみ申し上げます。しかしその方の遺品を私なんかが受け取ってよいのでしょうか?」


「ああ。それが彼女に聞いた言葉……今思えば遺言だったのだろう。彼女が私に託したんだ、それに従うのが絶対に良いのさ。それに……」


 イレリアは一度言葉を止め真剣な表情をして俺の顔を見つめる。


「彼女がこれを渡すときに予言した人物と同じ風貌だったからね。まさかと思っていたが、昨日ノイン氏を一目見た時からこうなるだろうという確信はあったのさ。」


 俺はその言葉に驚愕した。

 俺がここに来ることが予言されていた?しかも5年も前に……?占い師と言っていたが余程凄い人物だったんだと感じさせられる。

 そのような人物が残した遺品には何かある……そう感じられずにはいられなかった。


「予言……。実際に言い当てられているようですし、信じざるをえませんね。」


《未来予知ですか。不可能ではありませんが、こうも先の事象を予知するとは大したものです。》


「まぁよく当たると評判の占い師だったからね!自分の未来は占わないなんて良く言っていたものだが…………おっと空気が暗くなってしまったな!ハハハハハハ!」


 悲しい思い出を吹き飛ばすようにイレリアは笑う。大切な人を失う悲しみというのは時がたってもなかなか拭えないものだ。……俺もよく知っている。


「いえ。託された遺品大切にします。」


「うんうん。ふー私もやっと肩の荷が下りた気分だよ。あっ!もしその箱の中身が面白い品だったら私にも見せてくれたまえよ!」


「はははは。そうですね、その時はまた伺わせてもらいます。ではこれで失礼しますね。」


「うむ。またいつでも来たまえ!」


 そうして俺は部屋をでていく。その後受付で家賃関係の諸々の手続きを済ませるのであった。



 商業組合の外に出て一息つく。


「直感で決めた店舗だったけど何か運命的なものを感じるな。」


《渡された箱の中身も気になりますね。》


「だね。とりあえずはお店に行って色々準備しますかね。まずは……掃除か!」


「私共もお手伝いいたします。」


「ウチも~!掃除得意だから!」


「窓ふき……する……。」



 ここに来るまで色々あったがついに異世界の街での本格的な調査に移れそうだ。

 俺は期待を胸に歩き出すのであった。

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