第18話
広場から大きな通りを西に進むと冒険者組合が見えてきた。
彼女達には冒険者として登録してもらうようにお願いしていたので、何事もなければアインス達がそこにいるはずだ。
冒険者組合に入ると昨日の宴会に参加していたらしい冒険者が数人いたようで、こちらに向かって軽く手を挙げている何人かいた。俺は軽く手を上げそれに応え、その冒険者たちにアインス達を見なかったかたずねた。
「すみません昨日私と一緒にいた女性たちを見ませんでしたか?」
「おー?ああ!昨日の綺麗なねーちゃん達か。少し前にここの職員と一緒に出ていくのを見たから裏の訓練場じゃねぇかな?」
「なるほど。ありがとうございます。」
「おうよ。」
どうやらまだ登録の最中だったようだな。教えてくれた冒険者にお礼を言い俺は訓練場へと向かった。
組合に併設された訓練場はかなりの広さがあり、中には実践形式で訓練している冒険者が複数見られた。
見渡してみるとその中央あたりにアインスの姿が見えたので俺は歩いて近づいていく。アインスはそれ気が付いていたようで俺に向かって綺麗な一礼をしていた。
「アインスお疲れ様。ツヴァイとドライは一緒じゃないのか?」
「ノイン様、アイちゃん姉様。わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。すみませんお待たせしてしまったようですね。ツヴァイとドライはあちらで最終試験を受けています。」
アインスの視線の先に目を向けるとツヴァイが冒険者の男と向かい合って構えているのが見えた。
「試験中だったか。その様子だとアインスは無事に終わったようだね。」
「はい。試験官との模擬戦が最終試験でしたが問題なく終わりました。」
「それはよかった。せっかくだしツヴァイの試験でも観戦しようかな。」
そう言いアインスと共にツヴァイのいる方に向かう。
丁度そのタイミングで開始の合図がかけられたようで冒険者らしき男が木剣を構えながらツヴァイにむかって突撃しているのが見えた。
しかしツヴァイは俺の気配に気が付いたようでこちらにピースサインをむけている。
「あ!ノインさまだー!ブイブイ!」
おいおい!試験中だってのによそ見するな!俺は思わず叫びそうになったが次の瞬間、そこにいたはずのツヴァイの姿が掻き消え、相手の後ろに姿を現した。
そしてそのまま相手の側頭部に綺麗な回し蹴りを打ち込み、意識を刈り取ったのだった。
その現象を目の当たりにした周囲の者たちからは驚きの声があがっている。
「……少しひやっとしたけど流石に余裕だったか。」
《さすが私の妹ですね。素晴らしい手加減具合です。》
「ふふ。ノイン様が観戦されていると知ってはしゃいでしまったようですね。おや?どうやらドライの試験も終わったようです。」
「ノインさま……わたしも試験……おわった……。」
いつの間にか背後にドライが来ており俺の袖を引っ張っていた。
「ドライもお疲れ様。無事に終わったようだね。」
「わたしも……見てほしかった……。」
「ごめんよ。次の機会にしっかり見せてもらうからさ。」
「うん……わかった……。」
少し残念そうな顔をしていたドライだったが、俺が頭を撫でると機嫌を直したようだった。
程なくして試験を終わらせたツヴァイが戻ってきた。
「ノインさま~!見ててくれた!?」
「お疲れ様。しっかり見てたよ。これで試験は全部終わりかな?」
「うん。後は冒険者プレートをもらって終わりみたい。」
「そうか。じゃあ俺は先に宿に戻っているから、プレートを受け取ったら全員で俺の部屋まで来てくれ。」
《妹達よ。プレートを受け取る時に魔力を流す必要があるかもしれません。そうなったら気にせずオクタム粒子を使って済ませなさい。》
「了解しました。」
「は~い。」
「…りょうかい。」
商業組合で起きた登録時のトラブルの件もアイちゃんが伝えてくれたので問題ないだろう。俺は三人に見送られながら宿へと戻っていくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく宿の部屋で待っていると扉がノックされ姉妹達が部屋に入ってきた。
「お待たせしましたノイン様。無事、冒険者登録を済ませて参りました。」
「みんなお疲れ様。こちらも無事に商業組合で登録できたよ。早速で悪いけど冒険者組合についての話を聞かせてほしい。」
「畏まりました。」
そうしてアインスが代表して俺に冒険者組合で受けた説明についての報告を始めた。
冒険者組合では冒険者に向けて素材の収集や、護衛、魔物の討伐等をクエストとして発行しているらしい。クエストの依頼はお金を支払うことで誰でも出来るようだが、やはり商人などが頼む割の良い依頼が人気のようだった。
冒険者には強さを示す指標として10段階……正確には11段階のランク分けがあり、10等級から始まり数字が減る事に高位の冒険者となっているとのことだ。
アイク達のように3等級以上の冒険者となると一般的には一流冒険者と言われるらしく、誰もが知るほどの有名人となるらしい。
さらにほぼ幻と言われているが1等級のさらに上のランクもあるらしく、その者たちは総じて人の限界を超えた力を有しているようで、個人で万軍にも匹敵すると言われているそうだ。
「なるほど……この街に入るときに衛兵がアイク達の話をしていたが、かなり高位の冒険者だったみたいだね。」
「そのようです。ですがあの程度の戦闘力で3等級なので上位冒険者とてたいした実力はなさそうです。」
「そうだね。……まぁ高位に行くには戦闘能力以外にもいろいろ必要だとは思うけど。」
《しかし1等級を超えた存在がいるというのは少し気になりますね。人外の力を有しているとのことなので機会があれば接触してみたいものです。》
俺はその言葉に深くうなずく。人外の力を有しているという事は、話を聞けばもしかしたらこの世界に転移した原因の何か手がかりがつかめるかもしれない。幻と言われているくらいなので難しいかもしれないが、機会があれば絶対に逃さないようにしよう。
「冒険者組合についてはこんなところか。ちなみにアインス達は10等級ってことでいいのかな?」
「いいえ。私達は5等級からのスタートとなりました。」
「……へ?」
アインスの思わぬ発言に間の抜けた声を出してしまった。
「どういうこと?」
「はい。どうやら我々の最終試験の相手は元2等級の冒険者だったらしく。その者たちを瞬殺してしまったので組合で議論された結果5等級のスタートとなったようです。」
不味いぞ!あの相手「元」とはいえそんなに高位の冒険者だったのか!なるべく目立たないようにしろと指示は出していたがまさかの罠だ……。
「申し訳ありませんノイン様。最低でも3等級にはなりたかったのですが、4等級以上には色々と実績が必要なようで……。」
非常に残念そうな顔をしながら俺に告げるアインス。
うん。この子俺の言った事忘れてるね!まぁでも手加減してあれだったし仕方ないか……。
「ま、まぁ5等級でも十分だよ。とりあえず今は5等級以上は目指さなくていいから依頼をこなしながら情報収集を優先してくれ。」
「畏まりました。」
報告は以上のようでアインスは一礼し後ろに下がった。
「さてと。色々想定外の事はあったが、とりあえず各組合に登録するという目的は達成できた。午後から街に出てこの街調査を兼ねて商売用の店舗の探索でもしようか。」
《そういえばあの時は聞きそびれましたがマスターは何をされるつもりですか?》
アイちゃんの言葉に皆の視線が俺に集中する。
「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれました。俺はこの街で【便利屋】をやろうと思っている。」
《……便利屋ですか?冒険者組合という便利屋がすでに存在しているというのに?》
「いやいやいや。俺の目指している便利屋はもっと人々に寄り添った愛されるものなのだよ!」
《成功しないと思います。》
アイちゃんが呆れているようだが俺には成功する自信があった。
「いーや!先ほどのアインスの報告を聞いて俺は成功を確信した!聞けば冒険者に人気の依頼は金払いのよいものが殆どというじゃないか!俺は組合が取りこぼしてしまうような依頼を救い上げそれを解決する場所を作りたいんだよ!」
《……人気というだけで別に依頼を受けてないわけじゃないと思いますが。》
アイちゃんの呟きは俺には届かない。一方で姉妹達は目を輝かせながら俺の計画を褒めてくれているようだった。
「流石ですノイン様。冒険者組合の仕組みでは救えない弱き者達の助けとなり街の人々に恩を売る……ということですね?」
「そうやって街に溶け込んで情報収集をしやすくするってわけかー。」
「……お助け……ヒーロー?」
《……妹達よ。あまりマスターを甘やかしてはいけませんよ。》
ふふふ。俺の完璧な計画にみな賛同してくれているようだな。
「というわけで!便利屋家業に相応しい空き店舗を探すぞ!」
《はぁ……仕方ないマスターですね。了解しました。》
心配性なアイちゃんも納得してくれたようで、俺は気分よく街の探索に出かけるのであった。
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