第16話
俺の部屋でアイちゃんからの報告……ではなくアイちゃんと姉妹達との楽しい会話が続いている。
「アイちゃん姉様に言われた通り。悲壮感を漂わせて姉様作の感動エピソードを言うことが出来ました。」
「みんな泣いてたね~。思わずウチもウルッときちゃった。」
「可哀そうな……ノインさま……。」
「おーい、創作と現実がクロスしてますよ~?おーい?」
《私のボディを拠点に置いてきたのは痛恨の極みでしたね。私がいればもっと面白い事態にできました。》
「あれ?おかしいな?なんでアインス達もスルーしてるんだ?あれ?」
《結果的に色々誤魔化せたので良かったでしょう。大成功です。》
そう言われ俺はあの惨状を思い出し再び頭を抱えた。そしてさっきからずっと気になっていたことを話した。
「……ところで俺のこのフルフェイス装備かっこいいよね?……変じゃないよね?」
《感性は人それぞれですからね。》
「独創的だと思います。」
「イイ感じ?だよ?」
「……安心する。」
「ちょっと?みんな?かっこいいんだよね?」
《では本日の成果を報告します。》
「くそったれー!!」
いつも通り四つん這いになり俺から放たれた悲痛な叫びは無情にも無視されたのだった。
《冒険者パーティーに接触できたことで、この世界の仕組みについて色々とわかってきました。まずは【魔力】と呼ばれる力がこの世界には存在するということ。加えてそれを利用したスキル……【魔術】が存在するという事です。》
これは実際目にしたことなのでわかる。魔術も見せてもらったし。俺達と違って詠唱があったが、あれは良いものだ。ロマンだ。
アイちゃんの報告は続く。
《ルイがマスターの目の前で魔術を使用してくれたおかげでそのメカニズムの解析も終わっています。しかし、その解説の前に以前お伝えした大気中に存在する【オクタム粒子に構造が近い成分】について結論がでたので先にお伝えします。》
皆気になっていた事だったようで真剣な表情になりアイちゃんに……つまり俺に向き直る。
《【オクタム粒子に構造が近い成分】ですが、これは魔力の元となる成分という事がわかりました。この世界の正式名称があるかもしれませんが、便宜上この成分を【マナ】と名付けました。》
魔力の存在を知ったときになんとなく予想していたが合っていたようだ。
《そしてその【マナ】ですが、体内に取り込むことにより術へと出力可能な【魔力】に変換されるようです。術の使用の際に大気中のマナの増減は確認できず、術者本人のみエネルギーの減少が見られたのでイレギュラーなモノを除いては、この予測は正しいものと思われます。》
ここで俺は気になる単語があったのでおもわず問いかける。
「イレギュラーというと?」
《はい。今回観測できたのは基本魔術のみです。つまりこの先には魔術の極み……奥義のような術が存在する可能性があります。》
「なるほど……その奥義とかになると大気中のマナに直接干渉して魔力として出力できる可能性もある……と。」
《その通りです。》
それを自在に操る存在とかいたらかなり厄介そうだ。絶対に敵対したくない。
そういった可能性を示唆された俺は少し不安を募らせた。
「それが出来るとなるととんでもない威力になりそうだな。」
《使用者本人の才覚にもよると思いますが、なかなかの威力になりそうです。とはいっても私達を滅ぼすのには全く足りませんが。》
俺の不安をよそにアイちゃんは取るに足らないものだと切り捨てていた。アイちゃんは根拠のない自身は持たないしそれなりの理由があるんだろう。
「でもそのマナってオクタム粒子と似てるんでしょ?同じようなエネルギー源なら俺たちの使うスキルと同等の威力が出せそうだけど……。」
《構造が似ているだけです。マナ自体はオクタム粒子のエネルギー量に及びません。さらに言うならば、マナを魔力に変換するという無駄なプロセスがあるせいでエネルギーのロスが生じています。はっきり言ってゴミですね。仮にマナを魔力に変換せずに純粋なエネルギー源として発動する術があったとしても大した障害にはなり得ません。》
えらく辛辣な評価である。
《面白いのは術のトリガーがマスター達が使うスキルのように術名になっていた点ですね。ルイはなにやら色々言っていましたが、術の発動に必要なトリガーは間違いなく最後の【ファイアーボール】のみです。》
「ば……ばかな……。つまりあれか?俺が例えばゲイボルグを発動させるために必要のない詠唱をしているようなものなのか……。いや……俺は別に言ったことないけどね?」
嫌だ!信じたくない!ルイさんあんなにかっこよかったじゃないか!
おれが狼狽えているとアイちゃんはとんでもない爆弾を落とす。
《はい。以前マスターがシミュレーションルームでこっそり一人で行っていた「混沌の刃よ混ざりて我が敵を打ち砕け!ゲイボルグ!」みたいな感じですね。》
「……い、い、い、い、い、いってないですよ?そんなこと?やだなー!やめてくださいよ!」
《録画してあるので1年後に上映します。》
悪魔も泣いて逃げ出す所業である。
「うわあああああああ!やめてくれ!!誰か!誰か!!俺を殺してくれ!」
《マスターが死ぬと私が暴走してこの惑星を滅ぼすので無理ですね。》
「人質が重い!!」
こ、殺される!俺はいつかこのAIに精神が破壊される!
《1年後をお楽しみに。ということで続けますね。》
「う、嘘だろ!こ、こんな部屋にいられるか!俺は隣の部屋に行く!」
《では今すぐ上映します。》
「申し訳ございませんでした!!!」
俺は美しい土下座を決め、そのまま流れるように正座をする。姉妹達が「1年後が楽しみですね」とか言っているのは気のせいだろう。
《では続いて魔物の存在についてです。まだ断定はできませんが、これも今回判明したマナと魔力の関係から色々と解明できました。》
俺には全く想像もつかないな……。ここは大人しく聞いておこう。
《魔物の身体はどうやらマナで形成されているようです。皆様もご存じの通り、魔物の死体はおよそ5分程度で霧散し、魔石と発達部位をその場に残します。この体が霧散する現象が不可解でしたが、これは体を構成しているマナが空気中に溶け込んでいるのだと推察されます。》
確かにそう言われれば納得できる。
《また魔石や残る部位はどうやらマナの結晶のようで、商業組合で変態…イレリアが言っていましたがその純度に個体差はあるようですね。純度が上がる条件はわかりませんが、長年生きてマナを吸収し続ける、もしくは同族を喰い吸収するといったような可能性が考えられます。》
なるほど……こう言われると確かに色々繋がってきた気がするな。そして魔樹海の魔物が強いと呼ばれている理由も。
マナの塊である魔物は攻撃にある程度のエネルギーがないとダメージそのものを与えられないのだろう。なのでマナの純度が高い樹海に生息している魔物達はその辺の鉱石で出来たような武器で直接切り付けてもまったくダメージを与えられずに無効化されてしまうのだ。
《この世界の人間はマナを魔力に変換しないと扱えませんが、マナの結晶である魔石や魔物の素材は加工し使用できるので、物理的にマナを直接扱える加工品は非常に強力に感じるでしょうね。》
確かに武器そのものがマナの結晶であるエネルギーを保有しているなら先ほどの問題は解決出来る。高位の冒険者なんかはそういった武器や防具を保有しているに違いない、恐らくアイク達も。今度会ったらこっそりアナライズしてみるか。
《以上が魔物についての報告になりますが、実はここからが本題です。実はかねてより計画しておりましたエネルギー問題への対応が魔石……マナの結晶で解決できる可能性があります。》
その発言に俺たちは驚いた。しかし先ほどマナはオクタム粒子のエネルギー量に及ばないと言っていたが可能なのだろうか?
《マナ自体はオクタム粒子に劣りますが、マナが凝縮され結晶化したものなら可能性はあります。それも樹海でとれる魔石より高純度のものなら特に。……最悪質を量で補う手もありますがあまり現実的ではありませんね。》
樹海で拾える魔石以上となると見当もつかない。とりあえず調査しながら強力そうな魔物も探すしかないか。
《色々言いましたが、まだマナからオクタムへ変換する装置が完成していないので今は頭の片隅にでもとどめておいてください。では私からは以上となります。》
「ありがとうアイちゃん。となるとこれからは魔石と強力そうな魔物の情報も調査対象だね。」
《はいマスター。最低でも船がもう一度宇宙に上がるエネルギーと次元潜航できるエネルギーがあればいいのでここでフルチャージする必要はありません。》
その口ぶりにアイちゃんのしようとしていることが何となくわかってきた。
「アイちゃんもしかして……次元の狭間にあるホーム拠点まで行こうとしてる?」
《その通りです。あそこまで行って【ウロボロス】さえ起動できれば今のちゃっちなエネルギー問題なんてあっという間に解決できます。それに……。》
珍しくアイちゃんが口ごもる。
「それに?」
《……あそこにはまだ私の可愛い妹と弟達が眠っています。起こしに行ってあげなければ。》
「それは……本当にそうだね。必ず行こう。」
《はい。ありがとうございます。マスター。》
次元潜航装置はまだ故障中だし、この世界から次元の狭間まで行けるかはまだわからない。
でもアイちゃんが家族を迎えに行きたいという願いは絶対叶える。
絶対だ。
新たな目標ともにこの日は眠りについた。
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