第14話

 程なくしてアインスのお仕置きが終わり部屋に平和が訪れた。しばらくイレリアはソファーの上で悶えていたようだったが次第に落ち着きを取り戻したようだった。


「あれ?私の顔無事?ねぇリン?私の顔ついてる?」


「色々ぐちゃぐちゃになっていますがついていますよ。」


 アインスのお仕置きは相当痛かったようだ。しかしイレリアの顔には痣などは無く、絶妙な力加減で行われていたようだった。


「それでそろそろ魔石の買取の金額を聞きたいのですが……?」


 俺はさっさとここを切り上げたい一心で口を開いた。


「ああ……なんだっけ……?魔石?……そう!!魔石だ!!」


 また暴走しそうな気配がしたがアインスが右手を前に出すと大人しくなった。


「ひぃ!!…………ごほん。そう魔石の買取だったね。さっきも言ったけどこの魔石のサイズは小さいが純度が素晴らしい。そこで……よければ一つ100万ゴルドで買取させて貰いたい!!」


「了解です。それでいいですよ。」


「やっぱり安いか……?しかしこれ以上は私の権限では……っていいのか!?」


 この世界の相場はわからないので1つ100万ゴルドと言われても正直ピンとこない。とりあえずお金が欲しいので俺は二つ返事で了承する。


「はい問題ないです。」


「おお~!ありがとう!ありがとう!ノイン君は素晴らしい人だな!何か困ったことがあったら私を訪ねて来てくれたまえ!」


「……はい。……いえやっぱりなしで。」


「そんなぁ!!」


 先ほどの暴走状態を目の当たりにしているので、正直あまりお近づきにはなりたくないと思ってしまった。しかしここでリンと呼ばれていた受付嬢が口を開く。


「お客様色々ご迷惑をおかけして申し訳ございません。一応これでも鑑定士としては一流でして……。」


「これとはなんだ!これとは!リンは私にもっと優しくしなさい!」


「変わった人ですが悪い人ではないんです。」


「こら!私は変人ではないぞ!」


 変態だもんな。というセリフが喉元まで上がってきていたがなんとか飲み込む。

 そこに、ここまで経過を見守っていたアイちゃんからある提案がされる。


《マスターこのイレリアという人物、確かに変態ですが鑑定士というものの能力は役に立ちそうです。ここは我慢してつながりを持っておくと良いかと。変態ですが。》


 確かにそうかもしれない。情報をある程度知っていないと俺たちの解析スキルである【アナライズ】も役に立たなさそうだし。ここは顔をつなげておくか……。


「……失礼。ちょっと戸惑ってしまって。わかりました何かあればイレリアさんを頼らせてもらいます。」


「ん~!そうか!そうか!いつでも来てくれたまえ!もちろんこのような魔石があればじゃんじゃん持ち込んでほしい!」


 イレリアは俺の腕を取りぶんぶんと振りながら握手をする。


「では私はこれで失礼するよ!代金はリンから受け取ってくれたまえ~!は~!素晴らしい!研究しがいがある!!」


 イレリアはそう言いながら魔石を手にしそそくさと部屋を出て行った。

 先ほど魔石の出どころを聞かれていたがその話題に戻されなくてよかった。なんだかひどく疲れたがとりあえず資金の確保はできたので一安心だ。


「それでは代金をお持ちいたします。魔石2つで200万ゴルドになるので50万ゴルド硬貨4枚のお支払いでよろしかったでしょうか?」


「あー……3枚はそれで構いません。残りの50万は細かく分けて頂けると助かります。分け方はお任せしますので……。」


 支払いの内容を聞き恐らく50万ゴルド硬貨というのは日常使いするような硬貨ではないだろうと思い至り、なんとか誤魔化しながら両替してもらえるように頼んだ。

 通貨の種類を先に調べておくんだったと後悔したが後の祭りである。


「畏まりました。それではそのようにお支払いいたします。」


 そう言い一礼しながらリンさんは部屋を出ていく。




 そしてしばらく待っていると扉がノックされ代金を持ったリンさんが部屋に入ってきた。


「お待たせいたしました。こちらが今回の買取の代金となります。」


 テーブルの上に大きな3枚の硬貨とそれより一回り小さな3枚、その横にさらに一回り小さな硬貨の山が並べられた。


「それでは今回のお支払いの200万ゴルドになります。ご要望通り3枚は50万硬貨で残りを10万硬貨3枚と1万硬貨20枚になっております。ご確認ください。」


「はい……確かに。ありがとうございます。助かりました。」


「この度はご利用ありがとうございました。また何か売っていただけるものが御座いましたら是非お願いいたします。」


 色々あったが何とか終わったようだ。

 今回は取り急ぎの資金確保のために素材を売りにきただけだが、本来の計画はこの街で商売……という名の活動拠点を作りにきたというものなので、この機会に商業組合について軽く聞いてみることにした。


「そうですね。何かあればまた売りに来たいと思います。ところで私達実はこの街で商売をしようとやってきてまして……もし時間があるようでしたら少しだけお話を伺いたいのですが……。」


「そうだったんですね!てっきり冒険者の方かと思っておりました。畏まりました、ご説明させて頂きます。」


「ありがとうございます。」



 そうして俺たちはその場で簡単な説明を受けた。

 リンさんの説明によるとこの街での商売するには必ず商業組合への登録は必須のようらしい。空いている店舗の貸し出しもここで行っているようで、登録さえ済ませれば毎月家賃を支払い誰でも借りられるとのことだった。


「家賃は毎月ここに支払いに来るのですか?」


「はいその方法でも可能ですが、多くの方は組合にまとまった金額を預けてそこから引き落とす方法を取られています。管理は登録時に発行されるプレートと専用の魔道具で行っておりますのでご安心ください。」


「なるほど……便利ですね。ありがとうございます。今日はそれを聞けただけで充分です。また後日登録にお伺いするのでまたその時に詳しく教えてください。」


「畏まりました。本日はイレリアがご迷惑をおかけし……申し訳ございませんでした。」


「いえいえお気になさらず!申し遅れましたが私、ノインと申します。今後ともよろしくお願いします。」


「これはご丁寧に、私はリンと申します。大体は受付にいますので御用の時は是非お声がけください。」


「わかりました。」



 そうして俺たちは商業組合を後にした。



「思ったより時間がかかってしまったな……。イレリアはあんなだったけど……リンさんは良い人だったな。」


「綺麗な人でしたね?ノイン様?」

「ノインさまはあんな感じの人がタイプなの~?」

「私……背が足りない……。」


 なんだか姉妹たちの機嫌が悪いようだ……。ここは必殺聞こえないふりだ。俺には何も届かない……。


《安心しなさい妹達よ。マスターの好みは我々です。性癖全開で我々の身体を創ったのはマスターなのですから。》


 ……まずい予感がする。この予感は必ず当たるのだ。


「…………ア、アイク達が待ってるはず。……行こうか。」


 姉妹達の機嫌は良くなったようだが、耳をすませば……いや耳をすまさなくても、《いいですかマスターは胸が大きいのが好みで……》と懇々と説明するアイちゃんの言葉が俺たちに響いてくる。そのたびに「おー。」と反応するアインス達だったが俺には届かない……決して届いていないのだ。


 俺はアイちゃんによる性癖暴露大会を振り切るように、急ぎ足で冒険者組合に向かった……。……モウヤメテ……アイちゃん。

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