第12話

 樹海で出会ったの集団と合流し軽く挨拶を交わす。

 男は名をアイクというらしい。俺も名乗りそのまま他のメンバーの紹介もしようとしていたところで、アイクから声がかけられる。


「同じ場所にとどまり過ぎてると危険だ。自己紹介は後にしよう。ここからなら日没前に街につけると思う。戦闘は俺たちに任せてくれ!」


「わかりました。頼りにさせて貰います。」


 アイクは頷き。樹海の出口へと進む。

 その後は戦闘もなく順調に進むことができた。入口に近づくほどに空からの日が差し込んでいる場所もみられ、樹海の終わりは近いと感じさせた。






 それから程なくして樹海を抜ける。目の前には広大な平原が広がっていた。


「よし!無事に抜けたな。少しいった先に馬車を止めてあるが、ここで少し休憩するか?」


「いいえ大丈夫です。体力には自信がありますので。」


「そうか。ならこのままいくぜ。」


 この辺りは比較的安全なようで、樹海の中では張りつめていたアイク達だったが、平原に出るとある程度警戒を弱め、仲間達と会話をしながら進んでいる。

 その後ろをついて言っている俺たちだったが、急にアイクから声がかけられた。

 

「そういや樹海の中じゃ詳しく聞けなかったけど、ノイン達は何をしに街まで行くんだ?見たところ【冒険者】にはみえないが……?」


 そう問われるということはアイク達は【冒険者】という職業なのだろう。やはり何気ない会話からも色々と知れるので同行させてもらって正解だったと改めて思った。 


 アイクの問いかけに俺は事前に考えておいた設定を口にする。


「はい。私は各地の遺跡などを調査しておりまして……まぁ学者の真似事のようなものですが。後ろの3人は私の信頼している護衛です。」


「へー!そのなりで学者さんかよ!護衛もべっぴんさん揃いで羨ましいもんだ!」

「ちょっとアイク!失礼でしょう!」


 背に弓をかけ、ダガーナイフを腰に差した軽そうな革の鎧を着たアイクの仲間の女性が頭をはたいている。


「ごめんなさい。あいつデリカシーってのがなくて……。あっ!そういえば自己紹介がまだだったね。私はリサ。よろしくねノインさん。」


「いえいえ気にしないでください。学者とは言っても趣味みたいなものなので、大したお金にもならないですしね。それでそろそろどこかに腰を落ち着けて商売でもしてみようかと思ってここまできたのですが……。私の悪い癖がでて街につく前に調査に出てしまったのですよ。ここには商売をしに来たはずなのに。はははは。」


「そうだったんだな。まぁあの街は商売するには向いてるだろうよ。人も多いしな!しかし、こんなべっぴんさん達は見たことないぜ!護衛ってことは腕も立つんだろう?まったくうらやましい限りだ!」


 その言葉に軽く頭を下げるアインス達。しかしアイクは再びリサに頭をはたかれている。

 その様子を見てゆったりとした服に身を包み長い杖を持った男と、白いローブを纏った女性が口をひらいた。


「まったく……リーダーはこれだから。改めて、魔術士のルイだ。魔力草の件感謝する。」

「リサさんも毎度大変ね…。私は治癒士のフレンです。よろしくお願いします。」


 魔術士と治癒士……魔力の件から察してはいたが、やはりこの世界にも戦闘用の職業みたいなものがあるらしい。俺は詳しく聞くために二人に問いかける。


「お二人共、よろしくお願いします。しかし魔術士と治癒士ですか。冒険者については詳しくないのですが魔術を扱える?職業ですよね?」


 その問いかけに不思議そうにルイが口を開く。


「ノインさんは不思議なことを聞くな?そうだ俺とフレンは魔術が使える。とはいっても適正が無いと魔術士は名乗れないがな。」


「なるほど……恥ずかしながら実は本物の魔術士を見たことがなかったもので……いやー感動です。」


 その言葉はルイの気分を良くさせたようだった。


「そうなのか?確かにここは冒険者が多いから簡単な魔術を使うものは珍しくもないが、魔術士の適性となればそうだろうな。」


「そりゃそうだろうよ。俺もリサも身体強化くらいの魔術は使えるけどよ、魔術士をなのれる奴ってのは少ないからな!おいルイ、記念に何か魔術をみせてやれよ。ここまでくれば魔力の温存もしなくていいだろう?」


「はぁ……まったくお前という奴は……。そうだな魔力草の礼もある、基本魔術で良かったら一つ披露しよう。」


「本当ですか!それではよろしくお願いします。」


(これはラッキーだな。アイちゃん解析頼むよ。)

《お任せ下さい。》


 ルイは空に杖を掲げて呪文らしきものを詠唱し始める。すると魔法陣のようなものが発生し杖の先に炎が灯る。


「炎よ来たれ【ファイアーボール】!」


 詠唱が終わると同時に杖の先からバスケットボールだいの大きさの火球が放たれる。勢いよく飛び出した火球はそのままグングンと勢いを増し20mほど進んだ先で霧散した。


「うわー!本物はすごいですね!」

「興味深いです。」

「きれー!」

「おー……」


 俺は思わず声をあげた。一応ESOにも魔法のようなものはあったがスキルとして設定されていたため詠唱などはなかった。

 しかし今目の前で披露されたのはまさしく魔法!…いや魔術か。いかにも剣と魔法のファンタジーの世界にありそうな発動方法に感動していたのだ。

 アインス達も自分たちが扱う力とは違うものが珍しいようで、興味深く観察していた。


「基本魔術でここまで喜んでもらえるとはな。すまない、まだ完全に安全な場所とは言えないので消耗が少ない魔術にさせてもらった。」


「いえいえ十分です!感動しました。ルイさんありがとうございます。」

《なかなか面白い現象でしたね。街につくまでには解析しておきます。》


 ルイは上位の魔術を披露できない事を謝ってきたが俺には十分だった。1発の魔術だったが、今起きた現象は宣言通りアイちゃんが解析してくれるだろう。


「まったく!ルイはケチな野郎だな!」


「うるさいぞリーダー!まだ依頼の途中だろうが!」


 仲の良いパーティーのようだ。先ほどまでの連携をみているとパーティを組んで長いのだろう、お互いを信頼している様子がみてとれる。

 

 それからもしばらく歩きながら会話を続け色々と情報探った。やはり色々興味深いことが多くアイちゃんは嬉しそうにしていた。

 

「よし!あそこだ!」


 先頭のアイクが声を上げる。その先には砦のようなものが見える。


「あれが街ですか?」


 思っていたより小さな規模だったのでアイクに問いかけた。


「いやあれは俺達冒険者が利用する小さな宿場町のようなもんだな。時々樹海から流れてくる魔物がいるからあんな砦みたいな感じになってるんだよ。」


「なるほど。そこに馬車が止めてあるわけですね。」


「そういうこった。しかしノインさん達は樹海に向かうときにここを通らなかったのか?大分無茶してるな!」


「ノイン様は興味を持たれると周りが見えなくなるお方なのです。」


「た、確かにそんな感じがするな!いてっ!!」


「いちいちデレデレしてんじゃないわよ!」


「いえいえ……あはははは……。」


 アインスが微笑みながらそう言うとアイクはデレっとした様子で勝手に納得しているようだった。鼻の下をのばしているアイクにリサがすかさずチョップをお見舞いしている。


 しかし今のは危なかった、樹海に向かうときは目的の街方面からここを必ず経由するらしい。迂闊に反応してしまったがアインスがフォローをしてくれたおかげで何とかなった。


 その後俺たちは問題なく宿場町に入り軽く休憩を取る。

 そうしてアイクの用意した馬車で目的の街に向けて出発したのであった。

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