第11話

 3日後、俺たちは予定通り拠点を出発した。人目を避けるため山脈を越えるまでは小型艇を使い移動し、そこからは徒歩で移動することとなった。

 越えた先の山脈の麓からも樹海はまだ広がっているようでそこを4名で歩いて進む。アイちゃんは専用ボディを拠点に置いてきており、久しぶりに俺の中に移動していた。




 それから俺達は順調に歩みを進めどんどんと南下していく。定期的にモンスターが襲って来たが大した強さではなく俺たちの脅威ではなかった。


「拠点から離れるほど敵の強さが下がっていくみたいだね。」


 目の前にいる角を生やした狼のような姿をしたモンスターを機械的に処理しながらそうつぶやいた。


《そうですね。拠点周りも大したことはなかったようですが、このあたりの敵の脅威度はさらに低下しているようです。》


「とりあえず街で換金できると信じてこいつらのドロップアイテムは回収しておこう。」


 そう言い倒したモンスターの後に残された赤色の宝石のような物と角を回収する。


「剥ぎ取りとか必要かと思ったけど、倒してしばらくすると消えちゃうんだよな。不思議だ。」


《体を形成している成分が空気中に溶けて霧散しているようです。その場に残っているのはモンスターの核となる部分と身体の中でも最も発達してる部位のようですね。》


「なるほどね。まぁ剥ぎ取りなんて出来ないし助かるな。この素材街で換金できるといいけど……保険の為に一応薬になりそうな植物も採取しておくか。」


《そうですね。スキル【アナライズ】を使用して判別すれば可能です。》


 言われたように【アナライズ】を発動しそれらしい植物を判別していく。周りを注意深く探っているとうっすらと白く輝く植物を見つけたので判別してみることにした。


「えーと……食べると【???】を回復する……?んー……情報が足りなくて詳しくはわからないけど何かを回復する植物らしいな。回復って言うくらいだからまぁ悪いものじゃないだろう。」


《そのあたりは街につき次第調査しアップデートしないといけませんね。》


「【アナライズ】も万能じゃないし仕方ないよ。とりあえず何をするにも街についてからだな。ある程度は素材も集まったしそろそろペースを上げるか。」


《そうですね。このままだとこの樹海を抜けるのに2日ほどかかります。野営のポイントもなさそうなのでペースを上げて一気に抜けてしまいましょう。》


「おっけ-それでいこう。」


 皆の方に向き俺は声をかける。


「素材もある程度集まったしそろそろペースを上げることにするよ。今日中にこの樹海をぬける。ドライとツヴァイは先行して邪魔になりそうなものを排除してくれ。」


「りょうか~い!」

「わかった……。」


 そう言うやいなや二人は弾かれたように飛び出し、あっという間に姿が消える。


「それじゃあ俺たちも行こうか。」

「畏まりました。何があろうとノイン様は私がお守りします!」

「頼りにしてるよ。」


 そうして俺たちも2人の後を追って全力で駆けだしたのだった。






 木々の茂りが少なくなり、そろそろ樹海を抜ける頃合いかと思われたころ、前方に先行している二人の姿を見つけた。その様子は何かを警戒しているようで気配を完全に消している。


「何かあったか……?」


 俺は武装を展開しながら隣のアインスに視線を送る。アインスも二人の様子から警戒度を上げていたようでその視線で察し戦闘態勢に移っていた。


 気配を消し警戒したまま二人に近づく。二人は警戒はしているものの戦闘態勢はとっていないようだ。


「二人共大丈夫か?」


 そう声をかけると二人はこちらに向き口を開いた。


「ノインさま。この先に人がいるみたい。」

「武装したのが……4人いる……。」


「なるほど……現地の人か。今度こそ正しく第一村人だが、さてどうするべきか……。」


《情報を取るためにもあえて接触してみてもいいかもしれませんね。》


「そうだな……。よし接触してみるか。いきなり襲われることはないと思うけど、みんな一応警戒はしてくれ。」


「畏まりました。」

「はーい!」

「りょうかい……。」


 アインスを先頭にして俺たちは謎の4人に向かって歩き出した。


 しばらく歩き視認できる距離まで近づいていた。向こうも気が付いたようで少し警戒しているようだ。

 俺たちはさらに近づき4人組に声をかける。


「こんにちは。ここを探索中ですか?」


 当たり障りのない一言を投げかける。しかし、ここであることを思い出した。


(やべ……そういえば言葉通じるのかな……不味いかも……)

《ESOの言語翻訳能力があるので大丈夫でしょう。たぶん。》


 アイちゃんまでうっかりしていたようだ。なかなか返答がないので俺の不安がどんどんと募っていく。「逃げ」の選択肢が頭に浮かび始めたころにようやく、4人のうちの1人の剣と盾を持ち鎧を着た体格の良い男が口を開いた。


「あ、ああ。こんにちは。俺たちはここで……採取をしているところだ。お前たちはこの樹海の奥から来たのか……?」


 まだ俺を警戒しているようで言葉の歯切れは悪かった。

 

 言葉は通じているようで安心したが、その視線は怪しい人物を品定めするようなものであった。


 ……俺ってそんなに怪しいかな……軽くショックを受けながらも問いに答える。


「そ、それはそれは。仕事の邪魔をして申し訳ない。」


 ここで軽く頭を下げ怪しいものではないですよとアピールすることも忘れない。


「いえ、私達もこのあたりを探索していたのですが、方向が分からなくなってしまって……困っていたところに人の気配を感じてこちらに向かってきたところです。助かりました。」


「そうか……。迷って奥の方に行ってしまったんだな。しかし、あんたらラッキーだったな。このあたりの【魔物】は少し奥に行くだけでケタ違いに強くなるから、少しでも奥まで行ってしまうとかなり危険なんだぜ?」


 なんとか誤魔化せたようだ。それと俺たちがモンスターと呼んでいたものはこの世界では【魔物】というらしい。

 今の会話で警戒を少し解いてくれたようで先ほどまでの緊張した雰囲気はなくなっていた。


「そうでしたか!いやー助かりました。最初は街を目指していたのですが、この辺りに貴重な植物があると聞いていたので興味本位で探索してしまいました。」


「なるほど。確かにこの辺りには【魔力草】が生えていることがあるからな。まぁ…めったに見かけないんだけどよ。」


 【魔力草】……?気になるワードが出てきたな。ここに来る途中に採取したのはそれか?この人たちに接触したのは正解だったみたいだ。

 俺はもう少し情報を取るために会話を続ける。


「なるほど噂の植物は【魔力草】なんですね。それはどういったものなのでしょう?差し支えなければ教えて頂けないでしょうか?」


「ん?【魔力草】か?そうだな、見た目は白い花で薄っすら光っているのが特徴だ。見ればすぐわかるはずだぜ。薬にして飲めば【魔力】を回復できるんだが、めちゃくちゃ貴重でな……実は俺たちも依頼でそいつを探しにここまで来たんだが……わかってはいたがこの浅い場所じゃ見つけられなさそうだ。」


 男は肩をすくめて俺に答えてくれた。次々に気になるワードが出てくる。

 魔力……どうやらこの世界には魔力とよばれるものがあるらしい。恐らく例のオクタム粒子に似たナニカにあたるものだろうか?

 俺は無言でしばらく考えこんでしまっていたようで、男はその様子をいぶかし気な顔で見つめていた。


 アドリブである程度取り繕ったがさすがに怪しさはぬぐい切れないか……。ここは一つ恩でも売っておいて切り抜けるか。

 そう思い俺は口を開く。


「なるほど……。【魔力草】をお探しだったのですね。実は……奥に迷い込んだときに光っている花をたまたま一つ見つけまして。」


 そう言い男に【魔力草】を差し出す。


「おーそれだ!あんたら見つけたのか!奥から戻れたのも幸運だったが、それを見つけるなんてどんだけついてるんだよ。」


 この反応をみるに本当に貴重なものなんだな。表情の見えないヘルメットの下で俺はニヤリとし話を続ける。


「本当に幸運だったようですね。しかし皆さんがいなかったら奥で迷ったままここには戻れていなかったでしょう……皆様は命の恩人です。何かお礼の一つでも差し上げたいのですが。」

 

「いいって。俺たちがここにいたのもたまたまだしな。運ってのも実力だぜ!」


 笑いながらあっけらかんと言い放つ様子をみるに、なかなか好感の持てる人物のようだ。


「いえいえ、そうはいきません。恩には礼を持って尽くすのは私の信念でして……そうだ、先ほどおっしゃられていたようにこの【魔力草】を探しにここまできたんですよね?お礼にこちらを差し上げます。」


「おいおいおい!それは貴重品すぎる!流石に受取れないな。」


 俺の提案に男は驚き受取れないと言うが、俺は食い下がる。


「命の対価としては安いものです。それに噂を聞いて一目見たいと思ってここまできただけですし、本当に必要な方に受け取ってもらう方が私としても本望なのです。」


 それからしばらく、お互いに譲らず言葉を交わしていたのだが、俺が「受け取ってもらわなければ奥に戻ります。」というとんでもないことを言ったので、ついに男が折れて渋々了承したのだった。


「ったく!しかたねーな!受取るよ!受取ればいいんだろ!頑固すぎるぜまったく……。」


「ははは。私は信念は曲げないことで有名でしてね。それに運も実力のうちなんでしょう?今回はあなた方の運がよかったということで。」


「はぁ……あんたにはかないそうにないわ。わかったこの事は借りにしておくぜ!この後街まで行くんだろう?お陰で依頼も達成できたし俺たちが案内するぜ!」


「それはありがたい!ではお願いすることにします。」


 上手くまとまったことに胸を撫でおろす。この人たちから色々情報も取れそうだし急な現地の人との邂逅にしてはまずまずの成果になったのではないだろうか。


《素晴らしい成果ですねマスター。思い付きでここまで成立させるとは。詐欺師の才能がありそうです。》


「ちっちっちっ。交渉の天才と言ってくれたまえ。アイちゃんくん。」


「ん?何か言ったか?」


「いいえ何でもないですよ。」


 あぶないあぶない、俺たちが星の外から来たという事は決して知られてはならない。

 俺は気を引き締めなおし歩みを進めた。

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