街の便利屋編

第10話

  

 とある街の人通りの少ない裏路地にそのお店はあった。

 外見からして年季の入った店構えで、いかにも怪しい雰囲気が漂っている。


 店の上には看板が掲げられており、そこにはこうかかれていた。


 ―――【便利屋マキナ】と。


 店内を見てみると中には店員が2名ほどいるようだが、お客が来ている形跡はなく、まさに閑古鳥が鳴いている状態であった。


 内装も外観に負けじと年季がはいっており……無理やり感じ良く表現するならば「趣のある」店内であった。そこで足を組み椅子に深く腰をかけ優雅にコーヒーを飲んでいる人物がいる。


 その傍らには非常に美しい顔立ちをしたメイド服を着ている無表情の女性が立っており何かの報告をしているようだった。



「趣のあるこの事務所で、趣のある椅子に座りコーヒーを飲む……なんて……なんてハードボイルドなんだ……。」



 決してハードボイルドではないのだがその人物はコーヒーを持ったままおもむろに立ち上がり、窓から街の様子を眺める。


「今日も街は平和なようだ……ふっやれやれ、俺の出る幕はナシ…ですか。」


「マスター。そこからは街の様子はみえませんし、加えて本日も仕事がございません。」


 妙に芝居がかった言動と仕草にイラッとするのは気のせいではないだろう。妄想に没頭しているようでメイドの声は届いていないらしい。


「何か大きな事件でも……いやしかし、事件が起きてからでは困るな。うんうん。事件が起きる前に察知し秘密裏に……」


「マスター。刺しますよ。」


「ん……今なんと?」


「マスター。本日も仕事がございません。」


「いや、その後。」


「仕事の依頼0件です。赤字です。」


「いや、刺すって聞こえたような……。」


「働いてください。この甲斐性なしポンコツマスター。」


「…………モウシワケアリマセン。」


 この綺麗に土下座を決めているナイスガイは俺ことノインである。そしてその傍にいるのは、最近俺の扱いがさらに上手くなったと評判のスーパーサポートAIことアイちゃんだ。


「失礼しました。そういえば愛猫ジョシュちゃんの捜索依頼が一件ございました。」


「な、なんだ。あるじゃないか仕事の依頼。」


「一昨日にペットの犬の捜索依頼。その前は猫。そのさらに前は鳥。いっそ迷子のペット捜索専門店に看板を変えた方がよろしいのでは?」


「だめだめ!【便利屋】だからいいんじゃないか!なんでも屋さんって憧れない?」


「理解できません。」


「チッチッチッ、わかってないねアイちゃんくんは〜。」


 ロマンがどうとか語っている俺をアイちゃんは完全に無視しているが俺の話は止まらない。そうこうしていると店の扉が開き見知った人影が3人が入ってきた。


「ただいま戻りました。ノイン様。」

「たっだいま〜!」

「……戻った……はらへり。」


 俺たちとは別行動をしてもらっているアインス達だ。


「皆おかえり!いい時間だし拠点に戻って一緒に食事にしようか。」

「他人の稼ぎで食べる御飯はさぞ美味しいでしょうね。かわいそうな妹達です。」

「………………。」


 このヒモ野郎が!って感じで見つめられている気がするが気がつかないふりをしておこう。これ以上はアイアンハートのノインと呼ばれるほど強固な精神力をもっている俺でも厳しそうだ。

 

 皆を引き連れて事務所の奥まで進み扉を開けた。その先には小さな部屋があり中央には幅2mくらいの円状の装置のようなものが置かれていた。


「【ゲート:魔樹海】」


 俺がそう唱えるとその装置から蒼く光る入り口のような空間が発生する。俺たちがその入り口に入ると景色が一変し、見覚えのある宇宙船の船内に一瞬で移動したのだった。

 拠点に戻ってきた俺たちは食事をしながら話をした。


「アインス達の仕事は軌道に乗ってきたみたいだね。」


「はい!ノイン様が稼がなくても私達で養って見せます!」

「毎日が給料日みたいなものだしヨユ〜。」

「いっぱい稼ぐ……」


「妹達よ。ヒモ男には厳しくしないとダメですよ。」


「ぐっは…………。」


 悪意のない全力右ストレート3連打が俺の心を完全に砕いた。

 そこに威厳などもはやなく、床に四つん這いになりながら悲しみに暮れる。


「大丈夫ですノイン様。全てノイン様の計画通りなのですから。」


 アインスに慰められなんとか心の傷を癒す。


「そうですね。ここまでは計画通りでしょう。お店の経営以外は。」


「…………がんばって働きます。」


「ウチらが養うから大丈夫なのに~。」

「うん……養う…。」


「……ありがとね。」


 みんなの優しさがツライ……。俺は遠い目をしながら外に目を向ける。

 この計画を立ててからもう一月か……

 悲しみにくれたまま俺は計画を立てた日の事を思い出していた。











 時は一か月ほど遡る―――



 皆の協力もあり拠点の建設は計画通り進み、そろそろ現地調査に出かけようという段階まで来ていた。

 前々からアイちゃんと相談し準備は進めていたため皆を船に集め計画の内容を発表することとなった。


「集まってくれてありがとう。皆の頑張りのお陰で拠点の建設は順調だ。そこでそろそろ外に出て調査をしようと思う。」


 皆はその話を聞き真剣な表情つくると了解の意を示しゆっくりと頷いた。


「拠点建設と並行して、アイちゃんに周辺地域のある程度の調査は進めてもらっている。その結果を今から伝えようと思う。アイちゃん頼む。」


「畏まりました。それでは説明させて頂きます。」


 そう切り出すとモニターに周辺地域の地図が映し出された。


「現在我々がいるのはこの北の樹海です。調査の結果ここから南方の地点、加えて南西と南東にそれぞれ国らしきものが存在していることがわかりました。」


 今告げられた地域がモニターにそれぞれ拡大されて映し出される。


「詳しい文明レベルや人種等は不明ですが、どの地域もある程度は発展しているようなので現地調査の対象となります。細かいデータは各自の端末に送るのでそちらをご覧ください。」


「聞いての通りこの近隣には三国あるらしい。調査の対象としてはどこでも大丈夫なようなので、最終的にどこに行くかは俺が判断するつもりだ。」


 そうは言ったが俺はもう既に行く地域を決めていた。

 皆は端末に送られたデータを確認しながらどの地域になるのか予想しているようだった。


「なかなか思わせぶりですねマスター。そうは言いつつも、もう既に行く地域を決めているのでは?」


 どこからともなく取り出したメガネを装着しアイちゃんが訊ねてきた。

 やはりアイちゃんにはお見通しのようだ。


「…ばればれだったか。その通りだよアイちゃん。俺たちはここ……この南方の国に行こうと思う。」


 そう言い俺は端末を操作し南方の地点をモニターに拡大表示させた。


「データをみるにここは東西からの人の流れが多く、各地の情報が集めやすそうに思える。地理的にも貿易の中心となりそうな所だし、それにどうやらこの地域のさらに南方には【ダンジョン】があるらしい。」


「そうですね。目的である転移の原因の調査のためには、我々が知っている理の外にあるような、超常的なチカラの一つでも見つけ出したい所です。それこそESOにあった【ダンジョン】のような場所で。」


 俺の発言に皆は頷き一定の理解を示し、それに賛同した。

 それを受け俺は号令を出す。


「ということで急で悪いけど、3日後ここを出立し南方の国へ調査に向かおうと思う。各員準備をしておいてくれ。」


「「「「了解しました。」」」」


 規律の取れた動作で一斉に立ち上がり皆が俺の号令に答える。そして素早く行動を開始した。



 本格的な調査がついに始まる。

 俺は気合を入れなおし準備に取り掛かのであった。




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