第9話

 翌日、俺は朝からアイちゃんの指示に従いメニュー画面を開いて、ひたすら倉庫から拠点建設用の物資を取り出していた。


「グレン鉱を1000個、ミリセス鉱を800個。ギャラクシークリスタルを2個」

「はいっと。これで全部かな?」

「はい資材は以上になります。最後にここに作業用ドローンを100機お願いします。」

「了解だよ。」


 指定された場所に資材をまとめ終わったので一息つく。拠点の建造は作業用ドローンに任せてしまうので俺に出来ることはここまでだ。


「お疲れさまでした。本日から作業開始しますので、約一か月後に全て完成予定となります。」

「結構かかるね。」

「はい。現地調査が長期間になる可能性も考えて、せっかくなので小さな町くらいにはしようかと。」

「なるほど……まぁその辺はお任せするよ。」


 結構な資材を使うなとは思っていたがそういう事か。拠点に関しては完全にお任せしてしまっているので俺から言うことは特にない。


「ではマスター。私はドローンたちに指示を出してきますのでこれで失礼します。」


 アイちゃんを見送り、俺は拠点周りで敵性生物の排除をしているアインス達に合流するために歩き出す。俺に気が付いたのかツヴァイがこちらに向けて元気に腕を振っているのが遠くで見えた。

 ふと周りを見渡すとすでに作業用ドローン達が活発に動き出しており、このまま何事もなければ拠点の拡張も順調に進んでいくだろうと思えた。


 そのまま立ち止まってぼーっとしながらその光景を眺める。そうしているとあの転移した日からずっと感じている、誰にも打ち明けていない不安な思いが込み上げてくる。


 ……今起きていることは実は夢の中の出来事で目覚めると全て消えてなくなってしまうんじゃないかと……そんな漠然とした不安が自分の中にずっと存在している。

 幸せな時間がずっと続いて欲しい……そう願うたびに失ってきた俺は、ふと一人になるとまた失ってしまうんじゃないかと考えてしまうのだ。

 失うことへの恐怖、絶望……俺は自分が考えている以上にいまの状況に満足していてこの現実が消えて無くなってほしくないと思っているんだろう。

 転移してからまだ一緒に過ごした時間は短いけれど、俺にとって心の底から大切な仲間だと思える人たちがいる。



 俺はもう二度と無くしたくないのだ……。

 


 しばらく立ち止まっていたからだろうか、待ちきれなくなったのかいつの間にかこちらまで来ていたツヴァイが俺の手を取り引っ張る。


「ノイン様遅い~。みんなも待ってるし早くいこ!」


 後ろからアインスとドライが歩いてくるのが見える。


「ノイン様、ツヴァイが待ちきれなかったようで……申し訳ありません。」

「ツヴァイ……私が手を引く……変わって……。」

「え~嫌だよ~!」

「二人共やめなさい。……私が変わります。」

「「だめ!」」


 女三人寄れば姦しいとは言われるが本当に賑やかである。時々今のように戯れあってはいるが相変わらず仲が良い姉妹達だ。そんなやりとりを見ているとこちらまで幸せな気持ちになってくる。そのお陰か先ほどまでの陰鬱だった気分はいつの間にか晴れていたのだった。


「ごめんごめん。待たせちゃったみたいだな。さて今日も頑張りますか!」


 俺の言葉に笑顔で返事をする姉妹達。この笑顔を守るためにも俺はもっともっと頑張らなきゃいけない。


 この先の計画も練らなきゃだし。とにかくやることは山積みだ。とりあえず今は目の前の仕事をこなすのみ。頼りないポンコツマスターで申し訳ないが、今はまだそれでいいのだろう。



 今の俺には力を貸してくれる大切な仲間達がいるのだから。


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