第8話

 アイちゃんと姉妹たちの間で変態という名が定着してしまった漆黒のドラゴンの襲撃から程なくして、俺たちは予定通り調査の拠点となる樹海の上空に到着していた。

 まるで人の侵入を拒むかのように生い茂った樹の海はモニターの映像でみるよりはるかに不気味に思えた。

 

「目標ポイント上空に到着しました。これより着陸開始します。」


 光学迷彩で隠されている機体がゆっくりと垂直に降下しはじめる。しかし見た感じ着陸できそうなひらけた場所はなさそうだが大丈夫なのだろうか?

 そんな俺の様子を察したアイちゃんが口を開く。


「直前に対消滅フィールドを展開して機体周りの樹はある程度消し飛ばします。ご安心ください。」


 思っていたより脳筋な解決方法だった!やはりこの子はインテリジェンスをどこかに置いてきてしまったんだな……。…なんだか睨まれているような視線を感じるので気が付かないふりをしておこう。…か、勝てるわけがない!あいつは伝説のスーパーAIなんだぞ!……そう俺は負けると解っている戦いには挑まないのだ。

 





 程なくしてアイちゃんより着陸完了の報告がされる。


「着陸完了。予定のポイントに到着しました。」


 なんとか終わったか……。ドラゴンの第一村人と遭遇するというトラブルはあったものの無事に完了出来てよかった。

 そうして、俺は立ち上がり皆に顔を向ける。


「よしこれにて降下作戦完了だ。この後にまだ少し作業はあるけど、とりあえず皆お疲れ様!」


「お疲れ様でしたマスター。やはり私の計算は完璧でしたね。」 

「ノイン様、お疲れ様でした。この後の作業もお任せください。」

「お疲れさまでした~!ほとんどアイちゃんねえがやってたからウチの出番無かった~!」

「お疲れさまでした……ツヴァイ……私たちはこの後……活躍する。」


 どこからかメガネを取り出しクイッとして謎にインテリジェンスのアピールをするアイちゃん。姉妹達はあまり出番がなかったことを少し気にしていたようだが、彼女達にはこの後活躍してもらう予定だ、気にしないで貰いたい。…俺なんてほぼ座ってただけだしね……。


「早速だけど一度船外にでてみようか。報告があったようにモンスターみたいなのがいるようだから一応全員フル装備で行こう。」


 その指示を聞き、皆了解の言葉と共に行動を開始した。


 



 俺たちは警戒しながら船外に出て周りを見渡す。着陸時にスマートに吹っ飛ばした船の周辺100mくらいは視界も良好だったが、その先の木々が生い茂る樹海部分は、肉眼では一寸先も見えないような闇に閉ざされていた。


「夜って事もあるけど樹海の部分は思った以上に視界が悪いな。一応予定ではここから周囲をあと1km程度広げるんだっけ?」


 俺の言葉にアイちゃんが頷き応える。


「そうですね。色々な設備も置きたいのでそれくらいは必要です。とりあえず今日のところは敵性存在が侵入できないようにバリアフィールドだけを展開したいのですが……。お客様のようですね。」


 そう告げられたので樹海の奥に意識をむけてみると確かに何者かの気配を感じた。


「村人第二号ってか。さてお話しできる……わけないよな。」


 アイちゃんを後ろに下げ、みな一斉に武器を構え戦闘態勢に入る。相手も同じようで速度をグングンと上げながらこちらに近づいてきていた。

 





 そしてついに轟音と共にその存在が姿を現した。

 現れたのは頭に3本の大きな角を持ち、鈍く光る大きな金属製の槌を持った、身長3mほどのヒトガタの化け物だった。青黒い肌を持ち、上には何も着ていないが異様なまでに筋力が発達していることがわかる。腰から下は鎧で覆われており歩くたびに金属がこすれる様な不快な音をたてていた。

 

 姿を現したその存在は俺たちを認識するとグニャリと笑ったように頬を吊り上げ咆哮した。そして、一瞬身をかがめると弾かれたようにこちらに向かって突進してくる。



 その瞬間、俺はアインス達に短く指示を飛ばす。戦闘シミュレーションで何度も連携を確認しているのでその短い指示だけで彼女たちは俺の意図を理解し、動き出した。


「いらっしゃいませお客様。ですが……ここから先は通しません。」


 そう言いながらアインスは両腕に装備された大型の盾でいとも簡単にその突進を受け止める。そのまま返すように右腕を振り抜きその巨体を吹き飛ばした。そしてそのまま高速で距離をつめ追撃にでる。

 しかし相手もそれを予測していたのか、崩れた態勢のまま右腕に持つ槌をでたらめに振り回し追撃をさせまいと暴れた。

 その動きに合わせてツヴァイは長身の銃を構え照準を合わせる。


「アインスをブーストしておくよー!【アタック・ディフェンスブースト】!ほいほいっと!」


 そう言いツヴァイはスキルを発動しながらアインスに向かって超高速の赤と青の光弾を放った。そしてその光弾は目標に当たると何事もなかったかのように弾けて消える。しかし次の瞬間アインスの足元に魔法陣のような紋様が出現し、先ほどの光弾と同じ色の赤と青のオーラがアインスを包み込んだのであった。

 ツヴァイからのバフを受けとったアインスはさらに自身のスキルを発動させる。


「その邪魔な右腕は必要ありませんね。【デッドリースラッシュ】。」


 狂ったように振り回される槌を左腕の盾で弾き飛ばし、そのまま相手の右肩に向かって禍々しいオーラを纏った右腕を盾ごと突き出した。突き出された右腕からはその纏ったオーラと同じ色をした4本の巨大な刃が出現しそのまま相手の右肩から下を消滅させた。


 右腕を吹き飛ばされた痛みと恐怖からか大きな三本の角を持つヒトガタは錯乱したかのように咆哮し、背を向け来た方向に全力で走り出す。


「ドライ。」


 アインスが逃げだした相手を冷たく見つめながら妹の名前を呼ぶ。


「……わかってる。……【シャドウステッチ】。」


 するとドライが逃走するヒトガタの正面に突如現れる。そのままスキルを発動させると相手の足元から黒い糸のようなものが無数に現れた。それらはそのまま相手の体を縫い付けその位置に完全に固定してしまったのだった。


「期待外れ……ノインさまが出るまでもない相手……このまま……殺る。」


 ドライは右手の指を素早く動かす。すると周りを細く美しい蒼銀の煌めきが舞い、次の瞬間拘束されていたヒトガタが細切れになり砕け散った。

 

「……終わり。ブイ。」


 ドライがこちらに向かってピースをしているのが見えた。アイちゃんは俺の後ろで「素晴らしい。流石は私の妹達。」と姉妹たちに拍手を送っている。


 俺はというと戦闘開始時に指示を飛ばしたあとはずっとアイちゃんの前で構えていただけで何もしていない。ええ、はい、彼女たちがやる気を出しすぎて何もさせて貰えませんでした!

 まぁ降下作戦の時にあまり役に立てなかったことを少し気にしていたようだったからこれで良かったのかもな。

 

 しかし先ほどの戦闘は素晴らしかった。


アインスなら大技を使えば最初の突進を受け止めたタイミングで消し飛ばせていたであろうに恐らくエネルギー消費の事を考えてあのような戦い方にしたのであろう。


 俺に収穫があるとすればあの凶悪そうな相手を見ても恐怖心をあまり感じなかったことだろう。ここに来る前にドラゴンと遭遇したことである程度の耐性ができていたのかもしれない。



「それではバリアフィールドを設置して戻りましょう。」


 

 俺たちはその言葉に従い速やかに設置を終えて船に戻っていくのだった。


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