第6話
あれから一週間ほどたった。
朝食を終えた俺たちはアイちゃんにミーティングルームに集められていた。どうやら調査ポットから受け取ったデータの解析が終わったらしい。
皆が揃ったのを確認しアイちゃんは口を開く。
「それでは調査の結果を発表します。」
静まり返った室内にわずかに緊張が走った。
それを感じ取ったのかアイちゃんは「悪い結果ではありません。」と前置きしつつ発表を続けた。
「まずは大気の成分についてです。調査の結果我々に毒性をもつ成分は検出されませんでした。しかし一点、特に害は無いのですが今まで見たことのない成分が検出されました。」
毒性の成分がなかったことについては俺含め皆喜んでいるようだったが、その後に語られた見たことのない成分という言葉が皆気になっているようだった。
その疑問に答えるべくアイちゃんが口を開く。
「この成分については解析したところ、オクタム粒子に構造が近いことがわかりました。しかしながら、大気から直接吸収出してエネルギーに変換出来るようなものではなくあくまで似ているだけで別のモノとお考え下さい。」
オクタム粒子に近い……か。何か運命的なものを感じずにはいられないな。
しかしそうなると、ゲームの時のように常時エネルギーを回復しながら行動するのは厳しそうだな。一応エネルギーの回復アイテムは倉庫に大量にあるのでしばらくは心配なさそうだが、調査が長期化すると色々問題が出てきそうだ。そう考えながら話の続きを聞く。
「加えて、この惑星にはオクタム粒子がまったく存在しないのでエネルギーの自然回復は望めません。ですので長期的な調査の事を考えるとこの問題は解決しなければなりません。」
その通りだ。しかもかなり優先度は高い問題だと思う。しかしアイちゃんのこの口ぶりだととりあえずの解決策はもう考えてありそうだな。
俺と同じことを考えていたらしいアインスが口を開いた。
「アイちゃん姉様はこの問題の対策を既に考えてあるんですよね?」
微笑みながら問いかける。
「流石は私の妹アインス。私のスーパーな考えがわかるのですね。その通りです。エネルギーの回復についてですが食事にてある程度の回復が可能なことが判明しています。なので今まで通りに三食とって健康的な生活をすればある程度の問題の緩和が可能になります。ついでにエネルギー枯渇でおなかが空くみたいなのでおいしく食べられますね。」
なるほどゲームの時にはなかった仕様だ。食事で賄えるならエネルギー回復アイテムの節約にもなるし良いことずくめだ。しかもお腹が空くっていうのはデメリットに感じてしまいそうだが、この体になってから感じることがなかった空腹感を得れるのはちょっと魅力的だ。空腹は最高のスパイスって言うしね。
ツヴァイ、ドライの考えも同じようで。ちょっと嬉しそうにしていた。
「いや~今でも美味しいのにお腹が空いたら食べ過ぎちゃうよ。」
「ん……ツヴァイ……プニプニになる……」
「なにー!プニプニになるのはドライもだよ!」
「……私は……ならない……ツヴァイプニプニ……かわいい……」
「なにをー!」
「はいはい二人共、そこまでにしなさい。」
話が脱線しそうだったのでアインスが止めに入る。
しかし本当にこの姉妹たちは仲が良くて微笑ましいな。見ていてこちらまで温かい気持ちになる。家族ってこういうものなのだろうか……。
そんなことを考えながら眺めていると三人と目が合った。
「ノイン様お見苦しいところをお見せしました。」
「え~いいじゃん。ノイン様も楽しそうだったよ。」
「ツヴァイ……プニプニ……。」
おっと気が付かれてしまった。水を差してしまったようで申し訳ないな。
「いや大丈夫だ。ただ仲が良い姉妹だと思って微笑ましく思っていただけだよ。」
「姉妹仲が良くてアイちゃんは嬉しいです。素晴らしい姉妹力です。」
そう言うと3人は少し気恥しそうにして顔を見合わせ笑い合った。
「さて、エネルギーの問題についての一時的な対応策は先ほど話した通りですが。根本的な解決に向けても取り組んでいく予定です。この件に関しては私に考えがあるのでお任せください。」
アイちゃんがそういうなら任せておいて大丈夫そうだな。俺が想像もつかないような方法で解決してくれるだろう。
「では続いて調査拠点となる土地についてです。」
そう言いアイちゃんはモニターに大きな大陸の地図を映した。
「この地図は調査ポットの映像をもとに作成しました。拠点とする土地はいま映している地図の北側のこの地点になります。」
そう言い終えると画面が航空映像に切り替わる。画面に映し出されたのは不気味な樹海だった。
「御覧の通りこの地点は広範囲にわたる樹海になっており、さらに東西に走る山脈が侵入者を拒む天然の要塞となっております。何かしらの手が加えられた形跡もないためこのポイントに拠点を構えるのがベストだと考えます。」
特に反対意見もなさそうだ。正直、惑星へ降下して拠点を構える部分はゲーム内ではオートで行われていたものなのでこちらから特に何か言える事もない。
「では反対意見もなさそうなのでこのプランで進めます。あと言っておりませんでしたが今回の降下作戦はこの宇宙船ごと行います。」
ここにきて衝撃の事実。てっきりゲームの通りに降下ポットで地上に降りて宇宙船はこの場に待機させておくものだと思っていたからだ。
アイちゃんが自信満々なので大丈夫だろうが、万が一のことを考えると少し不安になってくる。
「マスター安心してください。私の計算では成功率100%です。万が一失敗しても我々なら生き残れます。気合で。」
……気合が最近のお気に入りワードなのだろうか。転移時にインテリジェンスをどこかに置き忘れて脳筋仕様のAIになってしまったのじゃないだろうか。
「失礼な。電気ショックしますよ。」
……俺の思考が読まれてる。くっ!相手が悪すぎる!ここは華麗に話題を変えよう。
「と、ところで、拠点付近には襲ってきそうな動物やらモンスターの類はいないのかい?」
「一応モンスターのようなものは複数種確認できていますが、大した脅威ではなさそうでした。危険度を示す指標がないので正確にはわかりませんが。ESOのレベルで表現するなら60~80程度かと。」
その程度の強さなら目をつぶっていても殲滅できるし問題なさそうだ。拠点周辺に脅威となりそうなものはなさそうで安心した。
しかしみんなを守るためにも決して油断はしない。俺はそう心に決めた。
「では報告は以上となります。決行は明日の10時です。作戦名は「スターダストブレイカー」とします。」
「……それはちょっと不吉じゃない?」
「冗談です。」
このやり取りに姉妹たちも思わず笑い、和やかな雰囲気のまま解散となったのだった。
そして翌日。ついに降下作戦が開始される―――
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