第5話

 それからしばらくマザーの能力について話し情報を共有した。

 聞けば聞くほどとんでもない能力ばかりで一抹の不安もつのっていったが、最後には完全に開き直って受け入れていた。


「情報共有はこんなところか。しかしこれで戦闘シミュレーション時の調子のよさも納得したよ。」


《今まで以上のスーパーなサポートが可能になっておりますので当然です。それでは私はボディを取って参ります。ついでにこの機体に搭載されているも起こしてきます。》


「妹達?」


《では失礼します。》


 軽い調子でまたなんか言い出したが俺の疑問は華麗にスルーされてしまった。

 しかし妹達か……まさか【プレイヤーサポートNPC】のことか?


 プレイヤーサポートNPCとは主にソロプレイヤー向けの救済システムである。

 ESO全盛期ならいざ知らず、ここ数年はプレイヤー人口の減少も激しく他のプレイヤーとのPTが組みにくくなってきており、PTプレイが必須のレイドクエストに行けないなどの問題が出てきていたため、その対策として出されたシステムであった。


 サポートNPCにもプレイヤーと同じように種族や職業を設定でき、プレイヤー用の装備も設定できたため俺もレイドなどで入手した自分が使えない装備品を有効活用するために何体も作成したものだ。

 

 この機体に配備していたのは3体。ホーム拠点には5体ほど配備していた。ここ最近はソロでの活動がほとんどだったのであまり使用していなかったが、ソロで複数人用のレイドダンジョンに潜りまくっていたときは大いに助けられた記憶がある。


 ゲーム時代のサポートNPCはサポートAIのように言葉を喋る仕様がなかったのでコミュニケーションを取った記憶はないが、先ほどのアイちゃんの口ぶりからしてサポートNPC達も意思を持った個人として行動できている可能性が高い。


 その状態でいきなり出会ってなんて話せばいいんだ……。「はいこのハードボイルドなナイスガイがあなた達の創造主ですよ」とでも言えばいいのか。

 出会う前から俺の特殊スキル【人見知り】が発動しそうになっているのは気のせいだろう……。


 そんなことを考えていると妙に落ち着かなくなってきたので、気を紛らわすために調査に必要そうな資材を整理することにしたのだった。






 しばらく作業に集中していると部屋の外から声が聞こえてきた。


「お待たせしましたマスター。」


 そう言いながら専用ボディに意識を宿したアイちゃんが美しいカーテシーをきめて部屋に入ってきた。


 専用ボディであるヌルは黒のボブカットに明るいシアンのインナーカラーが映える、可愛いというよりは美しいといった言葉が似合う女性であった。

 クラシックなメイド服を着用しているが、いたる所に近未来的な装飾があり蒼いオクタム粒子が通っているのが見て取れる。


 俺が趣味全開で容姿や衣装を設定しているので当たり前だが、その美しさに思わず見とれてしまった。

 そんな俺の様子を見ながらアイちゃんが口を開く。



「マスターが性癖全開で作成したものなので、気持ちは解りますがそんなに興奮しないでください。」


「言い方ぁ!!」


 くそ!過去に戻れるなら数秒前の俺を引っ叩いてやりたい!

 しかし可愛いなこんちくしょうめ!……落ち着け俺はハードボイルドな冒険者ノイン。この程度のことなんてことないはずだ!

 そう言い聞かせアイちゃんに向き直る。


「ハードボイルド(笑)なマスターには私のヒロイン力が強すぎたみたいですね。反省します。」


「なんかだんだん俺の扱いが雑になってない……?」


「そんなことよりマスター。そろそろ妹たちを呼んでもいいですか?」


 完全にスルーである。


「スルーされると思ったよ!って……ぇ……もう呼んじゃう感じ?心の準備が……そのぉ~……モジモジ」


 正直まだ心の準備が出来ていない。決して人見知りスキルを発動しているわけではないが、やはり準備というものは大切なのである。物事は何をするにしても準備から始まりいきなりいわいわいうぃわい……落ち着け深呼吸だ……。横からアイちゃんの呆れたような視線を感じるが気のせいだろう。


 そうこうしている内に、いくら深呼吸しようとまったく落ち着きを取り戻せていない俺を無視してアイちゃんは3人を部屋に招き入れたのだった。


「アインス、ツヴァイ、ドライ入ってきて下さい。」


 その言葉と共に俺の目の前に見知った、しかし俺の記憶とはどこか雰囲気の違う3人の美しい女性が姿を現した。

 3人はそろって俺の前に並び微笑みながらこちらを見つめた。やがてそのうちの一人が緊張した様子で口を開く。

 

「アインスです。ノイン様お久しぶりです。こうしてまた再び出会うことが出来てとても嬉しいです。」


 アインスと名乗った黒のロングヘアに切れ長の目をもつ美人からは、容姿もそうだがその声色からもクールで知的な印象を受けた。

 ぅぅ、美人にそんなに見つめられるとより緊張してしまう……。

 続いて右隣の元気そうな雰囲気の少女が右手を上げながら声を上げた。


「ツヴァイだよ。ノイン様おひさ~!こうしてまた会えるなんてちょー嬉しい!今後ともよろしくで~す!」


 元気いっぱいに挨拶をしてくれた、ツヴァイと名乗ったその美少女は金髪のセミロングヘアに健康的な小麦色の肌を持つちょっとギャルっぽい印象を持つ子だった。

 アインスとのテンションの落差に少し驚いたが、緊張している俺の雰囲気を察してあえて明るく振舞ってくれているのだろうという気持ちを感じた。

 めっちゃ良い子や……。横でアインスが「こらっ!ノイン様にそんな言葉使いして!」と注意しているようだが、俺はまったく気にしていなかった。

 むしろ親しみを感じてくれているようでとても嬉しい気持ちになった。


 最後にツヴァイの横にいる少女が口を開いた。


「ドライ……です。ノインさま……久しぶり……嬉しい。」


 そう言葉数少なげに挨拶をしてくれた青い髪のショートヘアの少女ドライは、とても大人しく物静かな性格の持ち主なのだろう。

 頑張って喋る姿はなんだか小動物みたいでとても可愛いかった。


 あっという間に自己紹介が終わり、三人は俺の言葉を待っているかのように姿勢を正した。三人の視線が俺に突き刺さる。しかし俺の口から出た言葉は……。





「…………よ、よろしくぅ(小声)」



 


 ……終わった。完全に終わった。俺の威厳レベルが完全にマイナスに突入しました!

俺の後ろでアイちゃんが「さすがは私と同等のヒロイン力を秘めた妹達、ハードボイルド(笑)なマスターがポンコツになるのも無理はありませんね。」とか言っているのが若干腹立たしい。


 だって仕方ないじゃん!アイちゃんを見ただけでもちょっと緊張しちゃったのに、さらに追加で話したことのない美しい女性たちが現れるんだもん!むしろなんとか一言だけでも言葉を絞り出した俺を褒めてほしい!



 はい……嘘です。本当に申し訳ない……。なんとか挽回せねば……。

必死で何か話そうと頭をフル回転させていたのだが、先にアインスがどこか不安な様子で口を開いたのだった。


「あの……ノイン様?もしや何か失礼なことを言ってしまったのでしょうか……。申し訳ございません。」


そう言い今にも泣きそうな雰囲気で頭を下げた。


「アインス気にしてはいけません。マスターはあなた達のヒロイン力が高すぎて少し混乱してしまっただけです。流石は私の妹達、素晴らしいです。それに比べてアインスを涙目にさせるマスターは本当にポンコツ冒険者ですね。」


 そう言われアインスはホッとした表情をし、嬉しそうに微笑んだ。


「よかった。何か粗相をしてしまったのかと思いました。」


「アインスは気にしすぎだよ~。言ったじゃんノイン様は優しいから絶対私達を受け入れてくれるって!」


「アインス……繊細……ノイン様……優しいから大丈夫。」


「……あなた達は気にしなさすぎです。」


 3人はそう口々に言い合い楽しそうに会話をした。その様子を見ているとなんだかこちらも幸せな気分になってきて急に気持ちが落ち着いてきた。


 緊張している場合じゃないな。彼女達も俺に会うのは不安だったんだ……。一応こんな俺でも彼女たちの創造主なんだししっかりしなきゃいけない。

 そう思い、改めて三人に向き直り口を開く。その様子を察し三人はこちらに目を向けた。


「すまない。ちょっと焦って変なことを口にしてしまった……。久しぶり?でいいのかな?みんなにまた会えたことを嬉しく思うよ。アイちゃんから聞いているかもしれないが現在我々は未曽有のトラブルに巻き込まれている。その原因を突き止めてどうするかは……まだはっきりとした事は言えない……でも、出来るならまたみんなの力を貸してほしい。この通りだ。」


 そう言い深く頭を下げる。先の事をはっきりと言えない情けない主で申し訳ないが、彼女達が力になってくれるならどんな困難でも乗り切れる。そんな確信があった。

 その姿を見た彼女達は慌てた様子で俺に駆けよってきた。


「ノイン様!頭をお上げください!ノイン様の望みが私たちの望みです!どんな困難な道でも付いて参ります!」


「ノイン様はいつも通りにしてくれればいいんだよ~。私達はどこまでも付いていくんだから!」


「ノインさま……安心して……私達は……ずっとそばにいる……」


 彼女達のその言葉に俺は目頭が熱くなるのを感じた。

 頭を上げ感謝の言葉を伝えると皆嬉しそうに微笑んだ。


 もちろん、後ろからその様子を眺め優しく見守っていた感情の起伏が少ないはずのスーパーなAIの表情にも僅かに笑みが生まれていたのだった。


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