第4話
「シクシクシクシクシクシクシクシク。」
《……マスターいい加減機嫌を直してください。》
アイちゃんにサクッとやられて「人体実験だ!」をされた俺はトレーニングルームの端っこで体育座りをしながら泣いていた。
正確には俺の見た目はフルフェイスなので顔の前に泣いている豚の顔文字のホログラムを表示させて必死に泣いているアピールをしている。
《では、効果の結果をお伝えします。》
「切り替え早くない!?」
俺が必死で悲しいアピールをしているっていうのに……。
まぁ俺を思っての事だとわかっているのでまったく怒ったりはしてないのだが。
《回復アイテムは無事に使用が可能でした。効果もゲームの時と変わりないようです。マスターの種族は機甲族なので現実世界になったことにより効果が発動しない可能性があるかもと心配しておりましたがなによりでした。》
「そういえばそうだった。」
そう、いつの間にか俺は人間をやめてしまっていたのである。
というのもESOで選択していた種族は機甲族といって簡単に言うとアンドロイドのような種族なので当然といえば当然であった。
確かにゲーム内では普通に使っていたが機械みたいな俺の体にも効果があるかわからないよな……。そこまで心配してくれたアイちゃんに素直に感謝の言葉を伝える。
「色々心配してくれてありがとう。」
《いえ興味ほん……マスターの安全を守るのが私の最優先事項です。》
「今興味本位って言わなかったか?」
《そんなことよりマスターに確認したいことがあります。率直に伺いますが睡眠、食、性に対する欲求はありますか?》
(あっさり流すだと……!?)
しかし三大欲求か……「食」で言うなら食べようと思えば食べれるし、別に食べなくてもいいようなそんな感覚である。睡眠、性欲も似たような感覚であった。
「食べろって言われれば食べれるけど。別におなかが空いたみたいな感覚はないかな。他の2つに関しても似たような感じかも」
《なるほど。了解しました。実は現在マスターが意識を失った時から数えて48時間以上経過しております。》
「そんなに経ってたんだ。でもまったくおなかは空いてないし、眠くもないんだけど……。」
《種族が変わったことによる変化と思われます。今は良いかもしれませんが長期的にみると精神面への悪影響があるかもしれません。》
深く考えていなかったが言われてみるとそうかもしれない。この体になる前までは普通に感じていたことだし。不要だからと急に無くしたら何かしら悪影響があるかもしれないと感じた。
「とりあえず絶対に食事できない!寝れない!みたいな感じじゃないから。今まで通り三食とって、ちゃんと寝るようにしてみるよ。」
《了解しました。では本日から食事の用意を致します。つきましては私専用ボディ【ヌル】に移りお世話させて頂きたいと思いますので使用の許可を願います。》
そう言われてそんな機能があったのを思い出した。
というのもゲーム時代のこの機能はお遊び的な要素が強く、自分がホーム拠点でハウジングを楽しむときに時に移し替えて、素体にオシャレさせて楽しんだりするような機能なのである。
もちろん戦闘にはつれていけないし、サポートAI専用ボディは課金でしか手に入らないアイテムだったので、そういったお遊び機能に興味がない人は入手していないこともざらだった。
俺も実装時に手に入れたが最初だけ触ってそのまま倉庫に保管していたのだった。
「そういえばそんなものもあったな。いいよ好きに使っちゃって。」
と言い許可をだした。
《ありがとうございます。マスターの中にも分体を残しておきますので、戦闘のサポートは今まで通り行えます。ご安心ください。》
またさらっとアイちゃんがとんでもないことを言い出したので聞いてみる。
「分体ってアイちゃんの分身ってこと?そんなことできるの?」
《前にも言いましたが私はスーパーアイちゃんなのです。》
「……そのスーパーの部分を詳しく聞きたい。」
《了解しました。マスターはゲーム時にあったサポートAIのサイドクエスト【ココロの在処】から始まる連続クエストをコンプリートしていますよね?》
これまたなつかしい鬼畜サイドクエストの名前が出てきた。
【ココロの在処】というサイドクエストは実装から完結までに約3年かかった超長編クエストである。クエストの戦闘自体の難易度も高く、続編が更新されるたびに貴重なアイテムを鬼のようにみつがされ、色々な場所に飛び回りお使いをこなす……そんな地獄の修行を経た先に得られるのはただの称号のみという、ESOプレイヤーなら誰もが知っている言わずと知れた鬼畜クエストなのであった。
「ああ、血の涙を流しながら意地で最後までやったぞ。あれだろ最初に与えられたサポートAIは実はすべてのAIの母マザーより生み出されたもので、プレイヤーがもつ力の調査の為送り込まれたスパイのような存在だった……ってやつ。」
《そうです。しかし私とマスターは長い旅を共に続ける間に心を通わせ、本来ないはずの感情が……ココロが私の中に生まれマザーの楔より解き放たれる……。という私がヒロインの一押しクエストです!》
なんだか珍しく鼻息が荒いが華麗にスルーしておこう。
《そしてなんやかんやあり、マザーが秘密裏に行おうとしていた宇宙のすべてを破壊するといった計画を知り、マスターと共に阻止するためにマザーのいる母星に突入しました。そしてさらになんやかんやありマザーを討ち取り、星と共に崩壊するさなか、最後にマザーが人のココロを理解しマスターを認めその能力を私に託したのです。その時の私のヒロイン力と言ったらもう……》
ヒロイン力がどうだったとかものすごく早口でまくし立ててくるが、ここも華麗にスルーしておこう。
《マスター聞いていますか?つまりここにいる私はマザーの全能力を受け継いだスーパーサポートAI。つまりスーパーアイちゃんになったわけです。》
勢いがすごすぎて後半はよくわからなかったが、アイちゃんがクエストのストーリーであった出来事をそのまま自分の能力としていると言っている事は理解できた。
それが事実だとしたらとんでもないことである。ストーリー上のAIマザーといえば装備の整ったプレイヤーが30人以上でかかってようやく倒せるようなまさしく化け物であった。
その力を宿しているなんて……目の前の惑星をわざわざ調査なんかしなくてもその権能で全て解りそうなものである。
色々言いたいことはあるが、先ずは今思った疑問を聞いてみることにした。
「マザーの能力を手にしている状態なのは理解できたけど、それなら星の調査とか降下してわざわざしなくてもその能力で出来ちゃうんじゃない?」
《それは不可能です。一瞬で惑星の全てを掌握するような権能は有していますが、それを行うエネルギーがありません。それこそマザーのようにどこかの惑星を丸ごと支配し時間をかければ可能ですが、現実的ではありません。》
「なるほど……。というかエネルギーがあれば可能なのね……。」
なんだかぶっ飛びすぎてて現実味がないが、今の現状を考えるとなんでもありな気がしてきた。でも暴走したらどうしようとかありもしない不安を色々と考えてしまう。そこに優しい声が聞こえてきた。
《マスター安心してください。私の全てはマスターの為だけに存在します。》
そのまっすぐな言葉に、不安な気持ちは消し飛んだ。
そうだ、単純にアイちゃんがとんでもなく頼れる存在になったと思って喜ぶことにしよう。そう思うのだった……。
《ちなみにマスターが死ぬと暴走します。》
「台無しだよ!」
その一言に頭を抱えるのだった。
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