第3話
《ところでマスター、先行調査にはまだ時間がかかるでしょうし、待っている間ゲームの時と現状の差を検証しておきましょう。》
確かにそれは重要だと思い同意する。
「今のところこの宇宙船も動いてはいるが、スキルや装備なんかが同じように使えるか試してみたいね。」
《とりあえずメニューウィンドウが出せるかやってみましょう。》
そう言われて俺はいつもESOでやっていたように左手をかざしメニュー画面を呼ぶ動作をした。するといつもの見慣れたメニューが現れたのである。
「やった!出たぞ!」
《やりましたね。》
お互いに喜び、さっそく色々確認してみることになった。
結論からいうとメニュー操作はゲーム時代となんら変わりなく操作することが出来た。変わったことと言えばログアウトの項目が無いことくらいで、装備の設定はもちろんステータスの確認、倉庫へのクイックアクセス等の操作もすることが出来た。
「ほとんど変わらずに操作できそうだ。倉庫へのクイックアクセスも出来たし少し不安だったけど安心したよ。身に着けている装備にも【オクタム】はちゃんと供給されているみたいだし……。」
そう言いながら、今着ている自分の装備に目を落とした。蒼く輝くオクタム粒子が装備に供給され、いたる所が発光している。
ゲーム時代のESOの設定ではプレイヤーは【オクタム】と呼ばれるエネルギーが体の中に巡っておりこれを使いスキルを発動したりするのだ。
スキル以外にも戦闘時に武器にオクタム粒子を纏わせたり、プレイヤーによっては武器そのものがオクタムで形成されるエネルギーブレイドのようなものを使う人もいた。
このように、オクタムはESOの世界において欠かすことのできないものなのである。
《装備やパッシブスキルの発動は問題なさそうですね。では実際に使いこなせるか試してみましょう。》
そう言われ俺はトレーニングルームに移動したのだった。
ルームに到着しさっそく準備を開始する。
《それでは戦闘シミュレーションを開始します。ディメンションフィールド起動。トレーニングダミーの耐久度、回避行動を最高レベルに設定。攻撃動作をレベル1に設定。トレーニング開始します。》
合図と同時に俺は4つの大剣を召喚した。俺は無事に召喚できたことに安堵しダミーに向かってかまえる。
召喚した大剣と同じように自身も宙に浮き腕を組む。
そのポーズに全く意味は無い、そう戦闘においては全く意味は無い、むしろ受け身の動作が遅れる危険性があったりとデメリットはあるのだが。
しかしかっこいいので(自分視点)・・・かっこいいので(自分視点)これが正解なのだ……。
《その無意味な構えに意味はあるのですか?》
呆れたような声が聞こえた気がしたが気のせいであろう。
…………も、もちろん別にちゃんとした理由がある。
俺のESOでの職業はブレイドマンサーといい、剣を自在に召喚し戦うアタッカージョブだ。
このブレイドマンサーという職業には武器を複数召喚して使役する代わりに手に武器を持って戦闘できないという制約があるのだ。
なので自然とフリーになる腕は組むでしょう…………?
とかしょうもないことを考えていると。
《マスター集中してください。》
おかしい……無いはずの視線が痛い……。
気を取り直し、とりあえずゲームの時と同じ感覚で剣を操作することにしたのだった。
ターゲットダミーに向かって無数の剣戟が飛んでいる。
剣に纏わせたオクタム粒子の蒼い煌めきが幻想的な空間を作り出していた。
「すごい!ゲームの時と同じだ!いやそれ以上に緻密に操作できているかも!」
トレーニングダミーを切りつけながら俺は興奮していた、ゲームの時と同じような感覚、いや現実世界になったからかそれ以上の手ごたえがあるのだ。
しかもゲームの時にはかなり難しかった召喚剣による防御や受け流しも自在にできるようになっていた。
「ゲーム時代は結構神経削って操作していたはずなんだけど、なんだかすごい楽になってるなぁ。」
《当然です。私がスーパーなサポートしておりますので。》
「???」
アイちゃんが言っている意味がよくわからなかった。
確かにゲーム時代にもサポートAIにオートターゲットの補助などはしてもらうことはあったけど、現実になったことで何か変わったのだろうか?
《スーパーなアイちゃんという事です。それは良いとして、とりあえず基本操作は問題なさそうですのでスキルの使用をお願いします。》
スーパーなアイちゃんの意味は解らなかったが、言われたようにスキルを発動してみることにした……が、ここで重要なことを思い出した。
「これってスキル名言わなきゃいけないよなぁ……」
《ゲームではそうでしたね。ここまでの結果をみてみるに発動には必要かと思われます。》
「ですよね……。なんだか現実になってみると少し恥ずかしいな……。」
《ノリノリで腕組んでた人のセリフとは思えませんね。》
「…………。」
その通りである。
「仕方ない。いきますか。」
組んでいた腕を解き、スキル発動の態勢に入る。
「……【ゲイボルグ】。」
そう唱えた瞬間、掲げた右腕の先に新たにいくつもの剣が召喚される。
それがいくつにも重なり巨大な槍のような形状となる、さらにそのまわりには禍々しいオーラが発生しまさに魔槍といった様相となっていた。
「……できた。」
《おめでとうございます。ではダミーターゲットに向かって投擲をお願いします。》
「本当はゲ!あたりで召喚完了してイボルグ!で投げたいんだけど……。」
《しょうもないこと言ってないで。さっさとお願いします。》
「…………。」
あれ?なんか厳しくない?あの優しいアイちゃんはどこに?とか思っていると無いはずの冷たい視線を感じたので急いで投擲することに。
「い、いけ!」
掲げた右腕の先より射出された巨大な魔槍は、物理法則を無視するかのような速度でダミーターゲットに向かっていった。
着弾直前にダミーターゲットは最高硬度の防御障壁、次元障壁を同時に発動したようだったが魔槍はそれらを完全に無視してターゲットに直撃し完全に粉砕したのだった。
「とんでもない威力だな……。」
《素晴らしい威力です。》
自分が想像していたよりもとんでもない威力だったので少し怖くなったが。スキルも問題なく発動できたことに安堵したのだった。
《ターゲットの完全破壊を確認。トレーニングを終了します。ディメンションフィールド解除します。》
そう告げられ元の場所に戻ってきた。
戦闘も問題なさそうだしこれで後は調査ポットのデータを待つばかりだなと考えているとアイちゃんが不穏な雰囲気を醸し出しながら切り出した。
《……マスター、後一点重要な確認事項があります。》
「…………その確認事項とは?」
《回復アイテムの効能の確認です。》
「…………………………。」
……非常に嫌な予感がする。
《この確認はとても重要です。緊急時になって使ってみたら効果なし。なんてことになったら目も当てられません。》
「確かにそうだけど……。い、痛いのは嫌だよ…………。」
《いえいえ、何も腕を切り落とせとか、足を切り落とせとは言いません。ほんの少し、ほーんの少しだけ。先っぽだけですから。それにマスターには痛覚への完全耐性がありますし問題ありません。スキルが機能していることは確認できましたし安心してください。》
……この子は早口で何を言っているんだろう?冗談かな?ん?冗談ですよね?
しかし、現実は非常である。
「きょ……今日は疲れたなぁ~……なんて…………あははは。いや~……」
《認められません。強制執行開始します。電気ショック用意。準備完了。》
「ちょ!ちょっと!ちょま・・・電気ショックなんて拡張機能なかっただろ!ちょ!……あっ……アババババババババアバババババ!!」
ま、麻痺している!?何故!?スキルが発動するというなら俺には完全な状態異常耐性があるはず!?というかアイちゃんって俺の中にいるんだよね?どうやって…………。
《ふー。では失敬して。サクっと。》
何やら満足げなアイちゃんは俺の能力を勝手に発動させてつるぎを召喚した。
そして………………
「アッーーーーーーーーー!」
俺の叫びは空しく宇宙の塵となって消えるのだった。
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