『うさぎの郵便配達やさん』
やましん(テンパー)
『うさぎの郵便配達やさん』
『これは、フィクションです。細かい事は気にしないでくださいね。』
ある日の、もう晩近く、ちょっと気持ち悪い、タラコみたいな夕陽が沈んで行くなか、うさぎの郵便配達やさんが、速達を届けに来ました。
『えと、あら、たしか、やましんさんちは、このあたりだったはずだよな。3年前にもきたんだから、間違いない。おかしいなあ。ないなあ。あらま。も、いっかい、やりなおし。』
とはいえ、やましんちだけではなくて、まわりもみんな、ないのですが。
目印は、電線のない、傾いた電柱だけです。
うさぎさんは、匂いを確認しました。
間違いないとは、思ったのです。
その時は、みんな、ボロボロだけど、このあたりには、まだ、たくさんの家がありましたし、街中には、多少人間の動きが残っていました。
それが、なんで、こうなっているのかは、うさぎさんは知りません。
大都市圏は、あの時点で、とっくに、ほとんど消え去っておりました。
でもいまは、ここもまた、電柱以外は、遥か彼方まで、一面の広野です。
『まあ、よく、こんなに、耕したよなあ。さすがは、人間さんだよなあ。』
あちこちに、夕日に、きらきら、ガラスみたいに輝くものも、混じっておりました。
うさぎさんは、その正体は知りません。
ただし、人間さんは、なぜだか、もう誰もいなかったけれど。
『まったく、どうなってるのかな。人間ちに配達するのは、めったにない。やましんちは、2回目だから、例外中の例外だな。まっ昼間は危ないからなあ。』
うさぎさんは、あまり、視力がよくありません。
しかし、そのぶん、聴覚や臭覚はよく、また、とても早い動きができます。
だから、速達になるのです。
さて、向こうの電柱からやりなおししてみたものの、やっぱり、やましんちはわかりません。
『こまったなあ。あてどころ不明、で、返そうか。差出人さんには気の毒だけどな。』
宛所不明のスタンプを押そうとして、うさぎさんは、はたと動きを止めたのです。
『あららららららららら・・・・・』
なんと、地面の底から、小さなお家が沸き上がって来たではないですか。
半分、透き通っているのですが、そこは、うさぎさんには良くわかりません。
そうして、玄関が開くと、不細工だけど、にこにこしたおじさんが、現れたのです。
『やましんさんですか。』
そのおじさんは、にこにこしたまま、小さく肯きました。
『速達でし。サインしてくらさい。』
やましんさんは、だまったまま、サインしました。
その手は、確かに、透明に近いくらいに、透き通っておりました。
うさぎさんは、手紙を渡しました。
これで、お仕事は完了です。
『ども、さようなら。』
うさぎさんは、猛スピードで駆けだしました。
その人は、手を振っていたみたいです。
やがて、そのおうちは、煙のように消えたのですが。
差出人は、『にゃんこカフェ』でした。
かつては、やましんさんちの地下にありましたが、いまは、どうなってるのかよく分かりません。
『いやあ。まあ、良かった良かった。』
超能力うさぎさんは、そう、思いながら、遥かな道を走りました。
うさぎ郵便局は、2000キロは先の、森の中です。
そこでは、突然変異した、『超能力生き物』たちが、新しい文明を切り開いておりました。
人類も、少しは、混じっておりましたが。
でも、ふと考えたのです。
『最近は、人間さんの幽霊が多いと聞くよな。幽霊は、ちゃんと服を着ていて、着替えもするらしいな。だって、亡くなった時とは、たいがい、違う服を着ているみたいだから。ならば、おうちも、着たまま出るのかな。え、う、うああ・・・??? あれは、幽霊さんだったのかあ! いやあ、ま、いいか。届けたんだし。』
************
やましんさんは、速達を持って、地下に降りました。
そこは、昔ながらの、ねこママのお店です。
はとさぶろも、カージンゴも籠っています。
彼らは、どこかで、アルバイトをしているらしいですが、やましんさんは、もう、お外に出て異世界で働く元気はありません。
そこは、まさに、驚異の世界で、人間が生きられるような場所ではないのです。
まあ、ボッス様の描いた、地獄みたいな場所ですな。
ただし、時間がほんのちょっとずつしか経たなので、非常に長生きできます。かつての現世の100億倍くらいです。
しかし、この地下にある、あのごき軍団は、新世界でも、新たな生き方を、すでに開発しているようでした。
おそるべき、適応能力なんです。
残り物の核爆弾が、サービスみたいに、いっぱい落ちた時は、びーちゃんと、ここに避難していました。
なにしろ、例の未来人の技術で、ここは、現世の時間からは隔離された異次元にあります。
また、どこの時間にも、上にある、やましんさんの、おうちの場所だけならば、出現できます。
幽霊さん状態にはなりますが。
💌
速達の差出人は、ねこママでした。
中をみると、『請求書』とあります。
やましんさんは、ねこママに言いました。
『なんで、請求書が速達で来るの?』
『ああ、それはにゃんこ、丁度、核爆弾が山ほど落ちるころに、ごき郵便本局から投函したにゃんこ。たぶん、大きなエネルギーで、時空をさまよったにゃんこ。ま、よろしくね。』
『お金ないよ。』
『なんか、また、家から持っておいでにゃん。漱石全集でいいにゃんこ。』
『あれしか、残ってない。』
『ふん。ならば、あれは、かたにして、働きなさにゃんこ。基準標準時間6時間労働で、ごきせんべ、週12枚なんこな。』
🍘
こうして、やましんは、没落したのであります。
『幽霊のほうが、ましだったなあ。生きているべきでは、なかったか。』
やましんさんは、秘かにつぶやいたのであります。
これが、あと、10×100億年続くのでしょうか。
『うさぎの郵便配達やさん』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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