化け物

天才というものは全員等しく化け物を飼っていると私は思う。私自身もそうだ。一番の敵は私自身だし他人より自分の方が私を裏切るのだ。人に傷つけられることより大切な人を傷つけてしまう方が怖い。化け物の力で自分が傷つくことは別にいい。どうせ自分自身だ。ただそれで自分自身を失って大切なものや大切な人を傷つけてしまうのが怖い。

こんな世界だ、異端な私が人から傷つけられるのはわかりきったことだ。自衛したら防げることさえ人の心に触れたいがためにあえて自衛していないのだから自己責任だ。

脆弱なくせに傷を厭わない私は脆い存在だと思う。彼氏がいるから私はようやっと人の形を保てるのだ。彼氏がいなきゃ私はただの欠けた化け物だ。天才というこの体には分不相応な才能を持って生まれてきた私は最初からチグハグな存在のまま世界から取り残されている。完全な愛を取り込めずただ成長のため失っていく化け物だ。彼氏がいなければ言語も愛も感情も全て失っても構わないと思ってしまっている。天才なんて人からの承認が得られなければただの化け物だ。

そんな私にも何年かぶりに新しく友人ができた。親友を失って久しく、友達の人数がゼロだった私にだ。とても喜ばしいことだと思う。結婚式に呼びたいって思えたら友達らしい。友達のハードルが高かったなと素直に反省した。客観性に欠ける私にとって他者との関わりはとても重要なものだ。だが天才ゆえに凡人から排斥される私は良き理解者に恵まれなかった。ようやっと家から逃げ出して辿り着いた先がまさかの天才やリア狂の巣窟で居心地がいいなんて思いもよらなかった。

その人のことが人としてすごく好きで、その人が笑っているのを思い出すだけで嬉しくなってしまうくらいなのだ。友達という関係にしては不釣り合いなこの気持ちを知られてしまったらと思うと少し怖い。この気持ちに一番近いものは家族愛だと思う反面、破綻した家族で育った私にそんなことわかるだろうかと疑心暗鬼になる。人を大切に思うというとても尊いことなのに引かれてしまわないかとただただ怖い。こんなに私は臆病だっただろうか。

私の飼う化け物の全容はわからない。ここ最近知ったことだが私は自己理解が得意だと思ってたが全くそんなことはないらしい。主観性しか持たない私は自己理解をする習慣はあれど自己理解をする能力はだいぶ欠けてたのである。そんな私が自分自身という化け物に対する理解など現段階、できるはずがないのだ。

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