今の私

薄らぼんやりとした私の記憶は一番辛かった時期より幾分優しくできていると思う。捨てられたら楽なものをずっと持ち続けたまま生きてきてしまった。捨て方も分からないと言った方が正しい。

今までの価値だったものは全て捨てた。家族と過ごすこれからの可能性を全部全部めちゃくちゃにして私は逃げた。いくらあの場所が私にとって酷い環境でもそれは事実。私は逃げた。

昔のように感情のまま暴れてしまって記憶のなくなるようなことはもうない。時折激情に巻き込まれて泣き喚いてしまったりはある。そこはもう感情の揺さぶりを消すことになるから治しようがないと思う。諦めて泣いて怒って笑って生きていくしかない。

失ったものは戻らない。自分で捨てたものなら尚更だ。家族を捨てたこと後悔はしていないけどあの頃の幼い自分のことは今でも嫌いだ。あの頃の自分と今の自分は地続きに続いた同じ人間だから、それをわかってるから辛くなるのだろう。

ずっと傷を抱えたまま生きている。認められたくて褒められたくて価値のある何かになりたくて、やっとスタートを切れた気でいた。スタートは切れていた。ただそれだけで私はぶっ倒れた。ぶっ倒れても私は立てた。やっと得られた価値だったから。何度もぶっ倒れては立ち上がった。それと同時に傷だらけの体で走れる距離には限界はあることをどっかで感じ取っていた。私は考えるというより感じとるタイプなのだ。きっとこのままだとどこかで心のカップがいっぱいになってしまって身動きが取れなくなってしまう。傷を直すことも立ちあがることもできなくなってしまう。ちゃんと私はわかっていた。傷だらけのままこの長い旅路の終着点に辿りつけるわけがないのだ

傷を癒す、簡単に言ってくれるものだと思う。正直自分のことなんかどうでもいいし投げ出せるものなら投げ出したい。何かこの人生で残せるものがあるなら、誰かの心に残るなら才能ごと壊れてしまってもいいなんても思ってる。これを言うと彼氏に悲しい顔をされてしまうから、どうにか生に縋りついてる。言い訳がましいが死にたいわけではない。破滅願望で残したものが美しいとは思えないだけだ。自分を傷つけるものが誰かにとって優しい物になるはずがないのだ。だからどうにかこうにかちゃんと健全に生きていこうとしてる。ほんとに偉いと思う。

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