四、勇者の本性?

   四、勇者の本性?




 ……やっと出られた。


 王城って、街と隣接してるはずなのに城門までが遠いのよね。


 馬車が居なくなってたのがマジで最悪。




 なのに、十分も歩かないと出られないって、ほんとに面倒。


 勇者様は強化を掛けたからか、平然としてるわね。体力無さそうなのに。


「はぁ……勇者様ちょっと、待ってくださいね。私も強化掛けます」






 回復も掛けちゃおう。足が痛くなっちゃったし。


 ていうか、考えてみたらヒールシューズなのよね。こんなままで歩き続けたら、足がズタズタになるじゃない。ほんとに……。


 なんで?


 私…………そこまで酷い聖女だった?






 怪我の大小を問わず、生きてさえいればたちまちに治したし。


 疫病の流行り初めで、死者が出ないように街中を走り回って治したし。


 街の皆さんからは、それなりに人気もあったはずよ? 


 私をこんな風に追い出して……反乱が起きても知らないから。






「聖女様、泣いているのか? 俺に付き合わなくてもいい。今からでも帰るんだ」


 私が隣でよく喋るからか知らないけど、言葉の習得早すぎでしょ。


 こんな話し方の人だったんだ……。


 てか、何か急にちょっと上からじゃない?


 気のせい?






「泣きたくもなりますよ。でもね、私もたぶん、追い出されたんです。勇者様と同じ。帰る場所は無くなってしまいました」


 後で絶対に、私物は回収してやるけど。お金も。路銀を持ちきれないくらい要求してやるんだから。






「でも……なんとかならない訳じゃないだろう?」


 勇者様って、流暢に喋ったらなんか、めっちゃイケボじゃん。


 いや、それよりやっぱり、ちょ~っと上からよね?




「うーん……もちろん後で、交渉に行きますけど。きっと無理です。私の代わりが見つかったんだと思います。正直言うと、私のこの、銀髪赤目の容姿は珍し過ぎるんですよね。だから、浮いちゃってるんです。代わりが居るなら……教会にとって私は、不要ってワケです」






 他にこんな色目の人を見た事が無い。


 皆もそうだから、私がもし聖女じゃなかったら……生まれてすぐに捨てられた私を、教皇様が偶然見つけて、拾ってくれなかったら……。






 ゾッとする。普通に死んでただろうけど。


 もし普通に生きててもたぶん、魔族だの何だのと言われて、石でも投げられていつか殺されるか売られるか……とにかく悲惨な目に遭ってたに違いない。






「容姿ひとつで迫害されるのか。どこも似たようなものだな」


 このイケボ勇者……さっきまでと性格ちがくない?


 何か見てきたような事言うし。王城内でのナヨナヨ君はどこいったのよ。






「そ、そうなんですね。私はこの国しか……それも、ほぼ教会しか知らないから」


 ……はぁ。


 何か暗くなっちゃうなぁ。


「フッ。知りたくないものまで見てしまうよりは、いいかもしれないな」


 え、何か含みあるような笑い方されたんですけど。






 ていうか調子狂うなぁ。誰だよあんたは。って、名前まだ聞いてないのよね。


 いや。


 ……違うなぁ。紹介されたなぁ。


 気まずぅ。どうやって聞こうかな。






 あー、そうだ。買い物の時にさらっと、誰か名前聞いてくれるかもだしね。


 よしよし、早く商店通りに行こう。そうしよう。




「あっ……勇者様、もうすぐ商店があるので、まずはそのダサ――おほん。服を売っちゃいましょう。いいですよね? とりあえずお金がないので。教会は少し遠いので、そのお金で馬車に乗りましょう」


「やっぱりダサいか。まあ、一番高く売れそうな素材に見えたからな。金糸が沢山使ってある。たぶん」


 おおぅ!




 なんかめっちゃ、あれよね。計算してその服にしたの?


 ほんとう?


 あと、ナヨナヨしてなくて逆に怖い。最初から食事の時間までのは、何だったの?






「あのぉ……勇者様ごめんなさい。さっきまでと、性格違い過ぎませんか? ちょっと怖いんですけど……」


「ああ。すまない。演技をしていてな。王城内では弱いフリをしていた。なかなか見事だったろう? これでも練習したんだ」


 あーはん?


 分からない。


 え? わかんない。






「どういうこと? ですか?」


「詳しくは言えない。が、敵ではないから安心しろ」


 しろ?


 おーん?


 まあ、年上ぽいけど、勇者なんだろうけど、聖女の私に向かって……。






 いや、これはよくない。なんか、増長してる自分が居た。それはダメよ、私。


 はあ。なんか、知らない自分が居た。こわ。


 私って、ちょっと調子に乗ってるのかな?


 ダサいなぁ。一番嫌いなタイプなのに、それが自分だなんて……。






 あー、なしなし。今の無し。


 はい、私は良い子。聖女で良い子……。


「……ふぅ。えっと。それで。えーっと……」


 まてよ?


 じゃあ、胸見てたのは言葉に集中してたからって、あれも嘘?






「ねぇ。私の胸見てたのは? 演技だったってことは、結局は見てたってこと?」


「ああ……いや、言葉が分からなかったのは本当だ。集中するのに視線を外す時、下以外を見るとオドオドしているように見えないだろう? ただまあ……良い胸だな」




「ぎゃー! きも! 確信犯なの? 信じられない……!」


 くっそ。


 こんな服でさえなければ……。


 はあ。男は皆これを見たがるのが、本当に気持ち悪いのよ。


 イライラする。






「もう見ないでもらえます? ムカつくんで」


「悪い悪い。セクハラというやつだな。すまなかった」


「てきと~ねぇ。もういい。次見たら聖槌せいついを落としてやるから」


「それは恐ろしいな。バレないようにしよう」


「もぅ! ほんとに落とすわよ!」






「はっはっは! 元気で何よりだ。落ち込んでいるものと思っていたからな。強い子だ。おっと、この辺が商店通りじゃないのか」


 こいつ……。ていうかおっさん臭い話し方よね。いくつなのよ。




 見た目……わかんないのよね。二十くらいにも見えるし、もっと老けても見えるし……。


 でも、シワは無い……目つきがキリっとしたから、顔つきも別人だし。


 謎過ぎでしょ。




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