三、追い出された勇者と聖女

   三、追い出された勇者と聖女





 お食事も時間制限あるとか、聞いてなかったなあ。


 まあ、微妙な味付けにされてたから、名残惜しむものではなかったけど。


 そうじゃなくて、追い出したさを本気でかもし出して、さっさと追い出すその性根が気に入らないのよ。






 ていうか!


 王城の外に素っ気なく出されたのも腹立たしいし、帰りの馬車も居ないじゃないのよ!


 あの悪趣味な白い馬車は?


 私の送迎ほったらかして……って、教会からも今すぐ出てけって?


 そういう事?






「……はあ。王城から出されちゃいましたね。勇者様はその恰好……えっと。路銀はいかほど貰っていますか? 何はともあれ、路銀が無いと私も無一文ですから」


 まさかと思ったけどこの人、旅の支度も何もさせて貰えずに王城から出されたのよね。






 いくら何でも、武器も防具も旅の服も……何も無しで、その世界一ダサい金ぴかスーツのままだなんて。


「あ……旅をするのは、生きる力を、磨くためだとか。で、何も、貰いませんでした」






 ん?


 何ておっしゃった?


「聞き間違いですか? 何も?」


「はい。何も、です」


 ああもう。何だかイライラする!






「貰わなかったのですか? 貰えなかったのですか?」


「わ。そ、その。貰えません……」


「マジですか……」


 どこまでお人好しというか、いいなりというか。


 頼りない。


 いや、もしかすると……こんな事言うと聖女としてアレなんだけど、頭が少し弱いのかしら。






 うーん…………。


 でも、言葉を覚えるのは速そうよね?


「そういえば勇者様。召還されて何日くらいですか?」


 この嫌われようだから、すぐに……とはいえ数日は様子を見ただろうから、短くても七日くらいは居たはずよ。






「……えーと……一、二、三。三日。です」


「ええっ? たったの三日?」


 こくりと頷いてる場合じゃないわよ!


 この人……ちょっと不憫ね。






「ねえ、三日で言葉を理解して、話せるものなの? 実は一度、ここに来た事があるとか? ですか?」


「来た……。来てないです。初めてで、大変。ですね」


 他人事か~い!


 っていうくらい、割とあっけらかんとしてるのはなぜ?


 余裕すら感じる佇まい……実は、ものすごい人だったり?


 いちおう、『伝説の勇者』だものね。






 う~ん……。


「エネミーステータス、オープン」


 細かい事まで分からないのが、これのもどかしい所よね。


 特技とか見えればいいのに……。


『状態良好。レベル1。伝説の勇者』


 頭がいいとか、そういうのも出ない。


 レベルだけ分かってもねぇ。






 しょうがない。ついでだから補助魔法掛けたら、ちゃんと表示されるか見てみるかぁ。


「えねみ……って、初めて、聞きます」


 あっ。声に出てた?




「あーっと、えっと、き、聞き間違いですよ。やだなぁ、勇者様ってば。それよりちょっと、補助魔法掛けてみますね」


 何掛けようかな……身体強化、魔力強化、それから……理解力強化を掛けたら、もっと言葉が分かるかな。


 強く掛け過ぎると、脳が出血しちゃうかもだから……最弱で掛けないとよね。






 そ~れ。ちゃちゃっと。


 これで掛けれちゃうのが、私のすごいところなんだけど。なんでこんな扱いされちゃったんだろうな。


「何か……巡る気がします。体が……熱い」


 あら、ちょっと流暢になったんじゃない?






 さて、ステータスは……。


『身体、魔力強化状態。理解力、集中力強化状態』


 うん。ちゃんと反映されてる。


 ――って。あれ?


 効果時間、おかしくない?


 本気で掛けても一時間くらいなのに……ちゃちゃっと掛けただけで、六時間も掛かるの?






「あの……勇者様って何か、元々何か、凄かったりします? えっと、魔力がものすごく高いとか」


 魔族ならあり得るのかな。ってレベルで、あり得ない。


 でも、魔族になんて出会った事ないし。わかんないな……。






「魔力も……弱いと、言われました。体も、この通り痩せてしまって」


「そうですか……。あ、でも。言葉は少し上手になりましたよ。理解力を強化してみたんです」


 うん?


 痩せてしまって。というのは、元は痩せていなかったって事?






 うーん。いちいち確認するのも面倒……ていうか、今弱いなら聞く意味ないものね。


「確かに……言葉がすぐに、出てきますね」


 なんか、話し方が低い声に合ってて、ちょっとだけイイ感じになったじゃない。






 おっと、そんな事考えてる場合じゃなかった。


「勇者様、それじゃあ、街で旅の準備を整えましょう。その服、ダサいけど素材はいいので高く売れそうですし。別の服と、装備や食料を買いましょう。あ。旅ってした事ありますか?」


 さっきも聞いたけど、会話が途切れて聞きそびれちゃったのよね。






「ええ。旅は、それなりに。服は……そうですね。動きやすいものに着替えたいです」


 あら、あらあら。


 良かった。旅なんて私には分かんないから、そこはポイント高いわね。






「安心しました。私、旅支度とか道中何をすればいいかとか、分からないので。準備はお任せしますね。お金は……分からないですよね。最初は私がやり取りするので、必要な物を選んでください」


「了解。何日分なのか、教えてもらえれば」






 へぇ~。


 やっぱり、私の知らない事で分かる事があるのって、大事ね。少し頼もしく見えるもの。


「それじゃ、とりあえずここから動きましょうか。街まで少し掛かりますけど」




 ああでも……歩くのめんどくさーい。


 馬車……悪趣味だけど乗りたかった。


 無いと思うと、あんなものでも恋しくなるのね……。


 それはそうと、教会にも一度寄らないと。


 まさか私の物まで取り上げたりしないでしょうね。着替えも無いとか、最悪だもの。




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