第2話 私の特等席

私の毎日はそこからガラッと変わった。


話せる人がいる、友達がいるってことがこんなに楽しいなんて今まで知らなかった。ため息を漏らしながらおばあちゃん家の玄関から出ていた毎日から、元気いっぱいの笑顔で玄関をくぐる毎日に変わっていた。

探り探りだったおばあちゃんとおじいちゃんの対応もなんだか自然になり、仲良しになって会話も増えた。


――毎日が、ホントに楽しい!


病院でのママの表情も柔らかくなった気がする。恐らく友達がいるとウソをついてたのがバレていて心配されていたんだと思う。


一方、初めての友達になったまさやくんはよく分からない子だ。

いつも分厚い図鑑を持ち歩いて読んでいる。会話の所々でやたら難しい言葉を使ってきて時々理解できない時がある。頭いいアピールでもしたいのかな?

実際何でも知っている。そして、それを鼻にかけないので幼稚園では人気があり友達も多い。特に恐竜に詳しいので、幼稚園では先生含め全員から恐竜博士として認知されている。


恐竜が大好きだから持ち物まで恐竜グッズかと思えば、筆記用具はエ○ァンゲリオンのグッズでコンプリート。(当時はなんだか分からなかったけど)そして、音楽に関しては、K-POPの曲を好んで聞いているようだった。


「恐竜がしっぽをつけない二足歩行スタイルになったのは、確かエオラプトルのある化石の発見によるものだった気がするんだよね〜」

……全く何を言ってるのか分かんない。


「見てみて!ほら、この時なんてゴジラみたいでしょ〜でもほら最近のは…」

とりあえず、うんうんと笑って頷く。

恐竜のことはよく分からないけど、まさやくんの話を聞いているのは楽しい。クリっとした目を見開いて一生懸命説明してくれるので面白いし可愛い。休み時間に彼が友達と遊ばずクラスで図鑑を読んでいる時は、いつも隣に座る。


――密かな私の【特等席】


「まーさーやーくん!鬼ごっこやろ!」

邪魔が来た。まさやくんは自分の趣味の時間を謳歌してるのに。


クラスのドアの外から2人の男の子が顔を出す。

「鬼ごっこやろ…あ、れいかちゃん…」


まさやくんに気づかれないよう、全力で睨んで帰らせる。私、デキる女の子。ドヤ顔をしながら振り返ると


「れいかちゃん?なんか怖かったけど、どうしたの?あと、誰か呼んでたような……」

「え?怖い?…な、なんかチョット光が眩しかっただけ!あと、誰も呼んでないよ」

慌てて誤魔化す。初めて可愛いって言ってくれたまさやくんの前では、常に可愛く居たい。


すると、クラスの松山先生がまさやくんに広告を持ってきた。


「あ!まさやくん見てみて〜、ほら、今度幕張マッセってところで恐竜のイベントやるんだってよ〜」


「え!そうなの!」

目を輝かせながら広告を受け取る。


「うわぁ〜、大きな恐竜がいっぱい来るんだ!知らない恐竜もたくさんいるなぁ〜。パパにお願いしよっと!」

普段なら、そんな喜ぶ姿を眺めて笑ってるくらいだが、今日は自然と言葉が出ていた。


「私も…行きたいな。まさ…おばあちゃんと」

恐竜のことは分からなくても、まさやくんがどんな顔して好きなものを楽しんでるのかもっと知りたかった。でも、さすがに一緒にとは言えなかった。


「ふふっ、れいかちゃんもまさやくんのお話いつも聞いてたら恐竜に興味持ったのかな?」

松山先生が優しく笑う。


「じゃあ、一緒に行こうよ!」


「え?…一緒に?」

言いたかったけど恥ずかしくて言えなかった事を彼は言ってきた。


「恐竜は見てみる方がぜーったいスゴイんだよ!カッコよくて、大きくて、迫力あって…」


そう語る彼の声はもう聞こえていない。嬉しさで彼からは見えていない左手でガッツポーズ。保護者はいるが、初めて友達と一緒に遊びにいけるのだ。



――そう、好きな人と一緒に。

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