第18詩 『勇猛たる正義の執行官たちは新たなる刺激を求めて殴り蹴り合わせ聴く 2小節目』
それはバレーノによる無言のプレッシャー。【バルバ】の街に限定したこととはいえ、確定はしていないとはいえ、罪人の笑みとは末恐ろしいものだ。
ヴィレとピーロは一瞬だけ気圧されたものの、すぐに体勢を持ち直して重心を下げ、いつでも裁きの鉄槌を下そうと飛び掛かれるように顎を引く。
「やる気? こう見えてわたし、君たちくらにの子どもに負けるほどやわじゃないよ?」
「くそあいつ……舐めやがって。いいかヴィレ」
「あたぼうよっ」
「よしっ。一先ずは通常コンボで攻めるぞ」
「オーケー。訳のわからないところで躓いたり、ぼくにぶつかって来たりしないでよー?」
「するかバカっ。こてんぱんにしてやるぜ」
「……せーのっ!」
ヴィレの合図と共に、雑談モードから即座に切り替えた二人は、棒立ちするバレーノに左右から突っ込む。左側がヴィレで、右側がピーロだ。
「へぇ……子どもの割には無駄のないモーションだね。これはもしかしてウンベルトさんに師事を仰いだりしているのかな……さてさて、どっちから来る?」
バレーノはヴィレとピーロ、どちらから対処するべきだろうかと交互に把握し続ける。左側のヴィレか、右側のピーロか、はたまた両方の同タイミング攻撃か測るために。
「まずは——」
「おれから行かせてもらうぜっ!」
まず物理的な先制攻撃を放ったのは、敏捷性に長けたピーロ。お見舞い代わりの右フックが、バレーノのローブの穴の空いた箇所目掛けて容赦無く貫かんとする。
「おっと」
「あ……くそっ、後ろに退がって避けられたか」
「そりゃ殴られにこられたらね」
「ちっ、開幕弱点を付けたと思ったのによ」
ここを狙ったのは、衣服の破れたところは古傷などの理由で急所になりやすいと、ウンベルトを含めた用心役にみっちりと身体に教え込まれたからだ。もっともヴィレとピーロがわざわざ教えを乞う他にも、日々イタズラを起こしては捕まり、その敗北した経験の積み重ねで学んだ結晶体。ウィークポイントの予測が脳裏に染み付いていると言える。
「ピーロでダメなら、ぼくが——」
「——うんうん。同時打ちをして来なかったってことは、そうだよねー」
バレーノはピーロの右拳を躱して間も無く、背後に回り込んで、モーション阻止を試みたタックルを繰り出すヴィレの妨害を察し、スライドステップで回避。
「え? ちょっ! おいおいっ」
「あれ? ピーロ……どあたっ!?」
バレーノが横跳びしたことにより、対象が居なくなって助走がついたままの前のめりで猛進するヴィレと、初撃が躱されたからといって諦めず、すかさず裏拳を繰り出したピーロ。残念ながらお互いの攻撃はバレーノには当たらず、それぞれ味方同士で激突し合い、その場で交錯の煽りで倒れてしまう。
「ピーロ……ほっぺた痛いよ」
「何してんだよヴィレっ! つかのしかかるな離れろ、重てぇんだよ!」
「おお、ごめんよー」
「ったく……」
誤ってピーロを拘束する格好になったヴィレがゆったりと先に立ち上がって、下敷きにされたピーロがやれやれと両脚に羽振りを利かせ、両手を使わず器用に起立する。そして双方とも、敵対象であるバレーノを睨み、未だまともな攻勢に出ていない彼女の横顔を目標と定める。
「あいつ、おそらく戦える。正攻法でどうにかなる相手じゃ無さそうだな」
「そうだねー。荷物に潰されてたイメージが強いから、もっと間抜けなのかなと思っていたけど……多分、ぼくらよりも数段は上手な人だ」
「おう。これはもうガムシャラな殴り蹴りじゃダメだ。呼吸を合わせるぞヴィレ」
「ピーロ、説得力なーい」
「う、うるせぇ! さっきのはお前が——」
「——おーい。どうするの二人ともー、もう降参するー?」
速やかに澄んだ声色で、遠くからバレーノが問い掛ける。
もちろんヴィレとピーロが自滅したまま簡単に降参するわけもなく、すぐさまノーを突き付ける意趣返しの如く、二人揃ってバレーノに向かって走る。
「おーこっちに来た。しかも全力疾走……あれは降参する気なくて、わたしを倒しに来てるね……ふふふっ、いいよいいよっ。次はどう仕掛けるのかな?」
「「はあああああぁぁぁぁぁぁあっ!!」」
バレーノは気長に喋りつつも、ブリランテが揺さぶられて重心バランスが崩れないように片手で押さえ、二人によるポニーが
ヴィレとピーロは先ほどの時間差攻撃の反省を活かし、二人並列したまま駆け抜け、バレーノ同時攻撃と認識するパンチを放つ。
「ふーん、二人一緒なら躱せ——」
「——いいや違うぜ白い化け物! おれたちはクオリティーを上げる方を選んだんだよ!」
「クオリティー……それは……おっと!?」
ヴィレとピーロによるパンチ。
バレーノは当然のように一歩後退。
適切な間合いを主張し、決闘の優位性を示すためだ。
しかし、油断するであろう彼女が同様の回避方法を使ってくると読んだピーロは、ど直球の王道パンチをヴィレに任せて滑り込み……一歩後退したことによる重心のズレを突くように、バレーノの前残りした脚を思いっきり掬い上げる。
「うわっ、そっちは囮……また時間差攻撃」
「ああそうだっ。おれたちがむやみやたらに殴るだけなわけが、ないだろうがよっ!」
「ふふ……いい作戦、だね。二人ならではの攻撃って、わたし大好きなんだ」
前脚を掬い上げられたバレーノは、ピーロに案の定重点を乱され、皮肉にも背負っていたブリランテの重力も相まって、そのまま尻もちを着くであろうくらいには身体が投げ出される。ふんわりと弧を描くみたいだ。
そこに囮役を担っていたヴィレが追撃を試み、ピーロもすぐさま体勢を変え、もしもに備える。二人のコンビネーションにさっきまでの慢心はどこにもない。彼らの連携はバレーノの想定を遥かに上回っていた。
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