魔神ノア

星未夜 ゆーも

第1話-プロローグ

西暦5042年、生物は進化していた。

空気中の窒素を皮膚の中に取り込み、別の元素を作り出す。

この「第二の呼吸」ともいえる皮膚呼吸を使いこなし、他の元素を生み出す。これを人々は「魔法」と呼んだ。


〇〇〇


「凪人、そろそろ起きなさいー」


親の声で目を覚ました凪人は、何回目のスヌーズかも分からないスマホのアラームを止めてリビングへ向かう。

家の方針で朝ごはんはそれぞれが自分の分を作ることになっている。妹は最近料理に目覚めたらしく、今日も自分よりも30分以上早起きしてフレンチトーストと弁当を作っている。

凪人は面倒くささから毎朝コーンフレークかトーストで済ませていた。

毎朝起きてご飯を食べて学校へ向かう、ごく普通の毎日だ。


学校でも家でも自分が一般的な高校生の生活を送っていることに変わりは無い。

ある程度の試験勉強はしているため平均的な学力だが、授業中は普通に寝るし特別真面目なわけでもない。自分が普通じゃないことは何か、と聞かれて答えるなら強いて言えるのは今まで一切恋愛をしたことがないことくらいだろう。高校生のうちに彼女は欲しいな、と考えていたら、担任の言葉だで現実に引き戻される。


「進路希望調査用紙、提出期限は明日までだから忘れないようにしてくださいねー」


進路希望調査用紙は既にほとんどの人が提出しているようで、この話題をちゃんと聞いている人はあまりいない。

ただ、自分はまだその進路希望調査用紙を提出していない数少ない1人だった。

自分は5歳の時に父親を事故で亡くしている。その父親は、発明家だった。そのせいか母親が執拗に理系へ進むことを推してくるのだが、自分は理科が苦手だしそれ以上に父親のことが嫌いだから父親と同じ道に行きたくないのだ。

自分の進路希望調査用紙は、白紙のままずっと机の中に入っている。


「おいロン毛」


と後ろから呼ばれる


「お前、まだ進路希望の紙出してねーの?」


机の奥でぐしゃぐしゃになった進路希望調査用紙を見て暁が言う。暁はこのクラスになってからよく話すようになり、陰キャ同士だからかかなり仲も良い。


「うるせー茶髪」


そう言って暁の脇腹を小突く。


「いや俺、やりたい事とか特にないし」

「やりたい事とかしっかりしてる奴の方が今どき少ねーだろ。こんなんテキトーに得意教科だけで受かれそうな私立とか書いてればいいんだよ」

「いやでもさあ…」

「えっ、何お前就職とかしたいタイプ?ハンターとか?」

「いやハンターだけはないわ。」

「そりゃそーだよなあ」


ハンターとはこの世に魔法が生まれだしたと同時に出現するようになった魔法生物メッセンジャーを狩る仕事だ。高収入だがその分危険も多い。体力も必要な為高卒でハンターに就職する人も少なくないのだ。


「とにかく、早くその紙提出しろよー。出さないと面接クソめんどいらしいぞ」

「まじかよ…ホントどうしよ」

「お前、将来に希望なさそうな顔面してるもんな笑」

「それ言われたらなんも言い返せねーってw」


そんなことを話しているうちに、普段のたわいもない会話へと移っていく。

次社会かー、あのハゲだるいよな、とか言いながら席を立つ。と同時に、パリンと音がした。

音の方向を見ると、割れた窓ガラスよりも先に見えたのは、黒くて大きな物体。

近づいてくる。避けられない。


あー、俺、死ぬ?


「お前は狙われている。情報を渡すな。」


驚いて声をかけてきた男の方を見ようとすると、別の方向から声がした。


「動くな、打つぞ」


咄嗟にそちらを向く。

男はハンターの制服を着ている。

俺は、どうすればいい。


「情報を渡せ。そうすれば殺さない。」


情報ってなんなんだよさっきから。少しイライラしてきた。


「渡す気がないなら奪う。」


打たれる?嫌だ。死にたくはない。

打つな。打たないでくれ。お願いだから。

強く思った。願った。心で、喉の奥の奥で、叫んだ。

何かが込み上げてくる。喉から何かを吐いているよな気持ち悪い感覚だ。そして声帯では無い別のどこかで叫んだ。



「打つな」



男の動きが止まった。驚いているようだった。


「よくやった。逃げるぞ。」


後ろから声をかけられる。さっき自分に「情報を渡すな」とか言ってきたやつだ。そしてそいつは俺の体を抱えて、さっき割って入ってきた穴から外へ出た。


「悪ぃな。詳しい説明は後でた。とりあえず帰宅すっぞ。」


多分魔法で強化してる足は、めちゃくちゃ早い。あっという間に家について、律儀にチャイムを鳴らす。


「はい…えっ、坂原さん?」

「久しいな、奥さん。お前の旦那のあれのことで緊急事態だ。悪ぃが入れてくれねえか。凪人も一緒だ。」


すると即座に玄関のドアが開いて母親が出てくる。


「何があったんですか!?もう解決したんじゃなかったんですか!?」

「お前の旦那の不始末だ。中で話そう。聞かれるとまずい上に時間が無い。急いでくれ。」


家の中に入ると、坂原と呼ばれた男とそれに抱えられている俺の事を妹は不審な目で見つめてくる。

普段の席に自分達が座り、ひとつ空いているところに坂原は座る。


「まずは凪人。お前は世界で唯一、人を操る力を持つ。」


俺の人生は、ここから始まったと言っても過言ではないだろう。

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魔神ノア 星未夜 ゆーも @yu_mo0629

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