第104話 竹なのですが

「それでは行きましょう、お館様。ミヤの後についてきてください」


 俺の気持ちを知ってか知らずか、ミヤはすたすたと歩いていってしまう。

 大丈夫だとは思うが、最奥には名ありの魔物がいるらしいし、一人で行かせるのは心配だ。

 身体を前に折り曲げ、腰を鳴らしてから小走りで追いかける。


 見た目は完全に洞窟なのに、中に入ってみると驚くほど広く、しかも自然が多かった。

 細長い筒のような植物が等間隔で並んでいる。


「これは竹と言います。割るだけでなく、剥いだり曲げたり編んだりと、様々な加工方法があるのですよ」

「日用品が作りやすそうだね」


 聞く限り、かなり便利そうな素材のようだ。

 育て方はわからないが、うちの山でも栽培できないだろうか。

 初夏を感じさせるような緑色に艶のある表面。

 これで家具を作ったら、さぞ風情があるだろう。


「このダンジョンは何階まであるの?」


 ビギニングの面々と初めてダンジョンに潜った日は、夕方くらいまで探索していた覚えがある。

 世界各地にあるらしいダンジョンにどれだけの違いがあるか疑問だが、草原のそれが初心者用だと言われていたことを加味すると、こちらはより深いのかも。

 今日中に終わりませんともなると厄介だし、いざ探索を終えて外に出てみたら真っ暗闇、というのも避けたい。

 夜の森なんて月明かりくらいしか頼りになるものがなく、人間が出歩くのは自殺行為だ。

 反対に、魔物は野生の勘やら進化の過程で得た夜目をきかせて襲いかかってくる。

 まぁ、ミヤも山で暮らしていたから承知の上だろう。

 おそらく、あまり深い構造はしていないはずだ。


「初めてきたのでわかりません。とても深いとも言われていますし、そこそこくらいとも言われています」

「……薄々勘付いてたけど、ミヤって丁寧な言葉遣いに反して豪快だよね」

「そんなに褒められてしまうとミヤ、余計にやる気が出てしまいます……」

「本当に余計だからやめてね」


 いつのまにか持っている紙札の先が燃えているし、ここでそんなもんを放ったら一面焼け野原だ。


「早速探索していきましょうか。……と言っても、見渡す限りの竹林ですが」


 彼女のいう通り、右を見ても左を見ても竹しかない。

 下に続く階段どころか、行き止まりを示す壁すら見えないのだ。


「一種の幻術にでもかけられているんじゃないかって思っちゃうね。ほら、あそこの竹なんて動いているし、やっぱり幻を――動いてる!?」


 注意深く確認しないと気付けないような擬態。

 というか、竹を鎧のようにして身に纏うモンスターがこちらに近づいて来ている。

 鎧のようにして、と言ったが、それ以外の部分も竹で構成されている。

 手のような筒に嵌められているのも槍状の竹。

 名付けるなら竹ソルジャーだ。

 魔物は俊敏な動きで竹から竹の間へと移動し、居場所を悟られないように、徐々に距離を詰めてくる、

 なかなか強敵そうだ。


「まぁ、所詮は竹なのですが」


 竹ソルジャーは素早く動いていたが、それだけに勢いよく地面に撒かれていた札を踏んでしまい、全身を炎で包まれる。

 炎は周囲に燃え広がることもなく、竹鎧の戦士だけを執拗に燃やし尽くした。

 それを見て驚いたのか、周囲で隙を伺っていたであろう他の個体も一斉に札を踏み、あたりには焼けこげた匂いが漂っている。


「……容赦ないね」

「魔物ですからね。それと、ミヤはこの階の突破方法を思いつきました」


 そういうと、ミヤは硬化させた札を投げる。

 意思を持っているかのように動くそれは、周囲の竹を全て、半ばから切り倒した。


「自然破壊は良くないぞ」

「そういうわけではないのです。実は、カグヤノムラにはおとぎ話がありまして。老人が竹の中にいる子を拾い、強靭な戦士に育て上げた結果、月の支配者になったというものなのですが、それに照らし合わせれば……ありました」


 少し遠くの竹の内部が光り輝いている。

 ミヤがそれに手をかざすと、地面が口を開け、下階への階段が現れた。


「……こんなものです。えっへん」


 おとぎ話ってもっと平和的なものじゃなかったか、俺も同じような体験をしたな、とかいうツッコミは胸にしまっておいた。

 

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