第39話 城門
ケンフォード王国が近づくにつれ、ちらほらと村のような場所が目に入るようになってきた。
「ここはケンフォード王国とはどんな関係なんだ?」
「ケンフォード王国の国土ですが、管理自体は各地域の領主が行なっています」
「領主?」
「領主はさまざまいて、貴族が同時に領主を担っている場合もあれば、王から任命されてその土地を治めている場合もあります。統治方法は領主ごとに結構違いがあるので……重税に苦しむ民もいるようです」
つまり、領主は小さい王様みたいな感じか。
王様は国を治めているが、領主は村を収めている……という認識でいいだろう。
「領主がどのような教育を行なっているか、というのは国を見るときに重要な部分なのさ」
「そうですね。教会に力を入れる領主もいれば、剣術や魔術といった戦闘技術の発展に力を注ぐ領主もいます」
「……大変そうだなぁ」
人間社会で生活する上で、支配者というのは切っても切り離せない存在なのだ。
さらに歩みを進めていくと、大型の建造物が多くなってくる。
「も、もう王国に入ってるのか?」
「いえ、まだ真の意味での王国ではありません。前方に見える大きな門。あそこから先がケンフォード王国の中心部になります」
まだこれより豪華になるってことか?
今の時点でマルノーチより人の数が多いんだが。
人々が歩く道は綺麗に整備されていて、かと言って完全に人の手が入り切っているわけではない。
適度な自然との融合がなされていた。
そして、ついにケンフォード王国の中心部に到着する。
荘厳な門が堂々と聳え立っていて、その前にはいかつい顔の男たちが待機している。
だが、彼らは一目シャーロットの姿を見ると、大急ぎで門を開けてくれた。
「さて、いきましょうか」
「……もしかして、シャーロットってめちゃくちゃ怖がられてる?」
「ま、まぁ、騎士団長ともなると肩書きだけで威圧感があるのでしょう」
照れくさそうにシャーロットが答える。
「ジオ殿、団長は猫を被っておられるのです」
「え、そうなんですか?」
「はい。普段の訓練なんか、それはもう鬼のような形相で。今日はジオ殿がいるからと一段と――」
「ジョン、お前は元気が有り余ってるみたいだな?」
シャーロットは笑顔でジョンに話しかけるが、その目はどうみても笑っていない。
「だ、団長! そんなことは――」
「まさかお前がこんなにタフに成長しているとはなぁ。よし、次の訓練では私が直々に相手をしてやるから楽しみにしておくといい」
「いえ、あの……」
「もちろん手加減はしてやる! ……全治二週間は覚悟しておけよ」
それからしばらく、ジョンは肩を落としながら歩いていた。
「門の中も豪華なことには変わりないけど、思ったより落ち着いてるな」
大きな建物の数は断然こちらの方が多いが、規模自体は変わっていないように感じる。
「そうですね。こちらは役所などの重要な機関が多く設置されているのが特徴です。もちろん店も多く、劇場や貴族の屋敷も多くあります。ですが、先生が一番気になさっているのは……あれですね?」
「……あぁ」
シャーロットが言う「アレ」とは、俺の目線の先にある建物のことだ。
一度、小説で読んだことがある。城だ。
まず目についたのは、白を基調とした長い壁。
中はさぞかし煌びやかなのだろうと容易に想像させつつも、実際には許可のないものは誰一人として入れる気はないと、そう言っているかのような堅牢さ。
その城壁からは、尖塔……と言うんだったか?
高く、頂上が尖っている建物が立っている。
次に特徴的なのは、城の背後にそびえる山々だろう。
俺の住んでいた山とは違い、それには一本の木も生えていない。
斜面もなだらかではなく、触れるもの全てを傷つけるデカいトカゲの鱗のようだった。
生身の人間が、あんな険しい方角から攻めるのは不可能。
つまり、あの城は天然の守りを手にしているのだ。
「あ、忘れるところでした。先生、これをどうぞ」
「……なにこれ?」
「王からの招待状です。王国内では、これを見せればまず止められはしません。飲食店でチラつかせれば高待遇を受けられるでしょう」
「美味い肉が食えるということか? よしジオ、すぐ行こう」
「いやいや、まずは王様に会わなきゃ。行きたくないけど」
少しでも気分を害したら即刻処刑とかにならないか不安だ。
俺の考えを察知したのか、シャーロットがくすりと笑う。
「大丈夫ですよ、王は先生にお会いするのを楽しみにしておられました。きっとよい関係を築けると思います」
「……そうだといいんだけどね」
そう言っている間に、城門は目の前だ。
シャーロットが守衛に声をかけると、俺の心臓の高鳴りをかき消すほどに大きな音を鳴らしながら門が開けられた。
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