第40話 王様
城の内装は壮大と言うほかなく、隅々まで工夫されているのがよくわかった。
「天井まで金色だよ……床はつるっつるで足音が響くね」
「細部までこだわることができるというのは、自らの財力の証でもあるからな。人間を統べるものも同じように考えているのだろう。見ろ、壁に絵画もかけられている」
ルーエが指差す方向には巨大な絵画があった。
絵画は肖像画のようなものではなく、風景や伝説について描いたものが多い。
「王様は芸術に精通している人なのか?」
「いえ、そういうわけではありません」
「そうなの?」
基本的に王は美術品の収集に夢中だと本で読んだことがあったが、例外はあるようだ。
「むしろ、王はあまり美術品に詳しくありません。それに関しては、ケンフォードに住まう人間の特徴と言いますか……」
「ふん、自分の城に飾っている絵についても分からないとは、人間は愚かだな。いや、もちろんジオは別だが」
よく分からないフォローを入れられた。
俺たちが入ったホールから上階に上がるための階段は、左右に一つずつ設置されている。
どちらもピカピカに磨かれた石で作られていて、歩くたびに乾いた心地の良い音が響く。
また、二つの階段の間には大きな噴水があった。
水が噴き上がって落ちていく様子が心を落ち着かせてくれる。
階段を上がると、広いホールに到着した。
そこでは優雅な音楽が演奏されていて、高そうな服を着た男女がにこやかに会話していた。
「彼らは王に招かれた貴族たちです」
「こんなに大勢の人たちを自分の家に呼ぶのって疲れちゃわないか?」
もちろん、城に住むような地位の高い人間と俺との価値観が同じだとは思っていない。
だが、100人を超える人間を自宅に招待するのはいささか疲れるのではないかと、そう考えてしまった。
「王としても好ましくないでしょう。ですが、彼らはほとんどが領主やその親族。地位は極めて王に近く、顰蹙を買うと後々面倒になるのです」
「世襲制の貴族だからと甘くみていると革命を起こされるからな」
話をまとめると、自分より地位が低い相手も定期的に機嫌を取らなければならないというわけだ。
王様って大変なんだなぁ。
ホールにある階段からさらに上へと登り、まっすぐ伸びた通路を歩いていくと、広い空間に出た。
空間の最奥には二つの椅子……玉座があり、いかにも「王様」らしき人が座っている。
「王国騎士団長シャーロット、ただいま帰還いたしました! こちらがジオ・プライム殿、そして同行人のルーエ殿になります!」
俺の少し前を歩いていたシャーロットがピタリと止まり、王に向けて膝をつく。
王は、彼女の言葉を聞いて小さく「うむ」と呟くと、威厳のある仕草で立ち上がった。
「シャーロットちゃんお疲れさん! 長旅だったでしょ、ゆっくり休んでちょうだ〜い!」
「……はっ。ありがとうございます」
……あれ?
「君がジオくんだね? いやぁわざわざ来てくれて申し訳ない! 感謝の極み! 王感謝!」
め、めちゃくちゃ陽気じゃないか王様?
「私を見るな。意味が分からん」
ルーエに助けを求めるが突き放されてしまう。
というか彼女も困惑しているようだ。
「……エドワード王はこういう方なのです。後は頼みました」
シャーロットまで丸投げだよ。
仕方ない、とりあえず話してみるか。
「え、えっと……お呼びいただききょ、恐悦至極。拙者ジオと申すものでして……」
「いやいや、ジオくんそんなに畏まらなくていいから。普通に会話してくれると王、嬉しいんだけど。僕たちは多分似たもの同士だし」
「……似たもの同士?」
思わず聞き返してしまう。
「僕もほら、ジオくんみたいに孤児を育てていてね。孤児院の経営自体は部下にやらせてるんだけど」
「……王自らが孤児院の経営を? 一体何故ですか?」
「まだ硬いなぁ。まぁいいけどさ。いやね、僕の家系って元を正すと農民の出で、幸運が重なって今こうなってるわけ」
「はぁ」
どんな幸運だよ。
まぁ、元を辿ると言っても何百年単位なのだろう。
だからとてつもない幸運に恵まれる機会もあるはずだ。
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