第38話 成り立ち
ケンフォード王国を見に行くから少しの間留守にすると言うと、レイセさんとボスリーさんは快く送り出してくれた。
キャスとランドに不在を伝えられないのは心残りだが、二人もきっと忙しいだろうし、入れ違いになることはないはず。
王国の滞在に関しては、シャーロットがなかなか豪華な宿をとってくれているらしい。
ということで、俺とルーエはわずかな荷物を持ち、ケンフォード王国へと向かった。
「山からマルノーチまでの旅を思い出すな」
「そうだな。まぁ、あの時と今では兵の規模が違うが」
ルーエの言う通り、マルノーチへ向かうときには俺とルーエ、レイセさん、そして二人の冒険者という構成だった。
だが今回は、俺たち二人にシャーロット、それに加えて約20人の兵士がいる。
道中が安全というか、過保護すぎるレベルだ。
「どうしてこんな大人数で来たの?」
シャーロットに問いかけると、彼女は胸を張って答える。
「それはもちろん、先生の素晴らしいジョークに見合う反応をするためです。昔から『誰も笑ってくれない』と悲しんでいたでしょう?」
「あぁ、うん……そうだね」
そう言う割にはシャーロットだけ笑っていなかったけどな。
「小娘、一つ聞きたいんだが」
「なんだ?」
ルーエとシャーロットは少なからず言葉を交わすことはあるが、二人の間には常に火花が飛び散っている。
「これから私たちが向かうケンフォード王国とはどのようなところなんだ?」
「あ、俺も気になってた。マルノーチよりも大きいってのは知ってるんだけど」
「それでは、ケンフォード王国について簡単に説明させていただきます、先生」
シャーロットは一礼すると、部下を一人呼びつける。
「オリバー!」
「はい、団長!」
オリバーと呼ばれた青年は懐から杖を取り出すと、それを何度か振る。
すると、だんだんと彼が杖を振るのに合わせて空中にオレンジ色の線が出現し始めた。
「今から私が解説し、オリバーが分かりやすいよう図をお見せします」
「おぉ……これは有能。山育ちとは思えないな」
ルーエの言葉に頷く。
「えーそれではまず、ケンフォード王国の成り立ちについて。ケンフォード王国の誕生は今から約100年ほど前になります」
「100年? 思ったよりも浅いな」
俺は「成り立ち」という言葉を聞いた時点で思考を放棄していたが、ルーエはそうではないらしい。
「ケンフォード王国が誕生する前、周辺にはいくつかの国がありました。そのどれもが深い歴史を持っています」
「ほぅ……そういうことか」
え、どういうこと?
「その国々をまとめ上げて誕生したのがケンフォード王国ということだな?」
「まさしくその通りです。現在では王のもとに政治が進められ、我々騎士団はその実働部隊といえます」
「暴動の鎮圧などが主な仕事だろうな」
国の風紀が乱れないように取り締まる役割を担っているのが騎士団ということだろう。
「他方、騎士団同士で小競り合いを起こすこともあります」
「騎士団同士で? 同じ王に使える仲間なんじゃないのか?」
これは良い質問ができたぞ。
「いえ、騎士団は王の直轄のもの以外にも、各貴族が個人で所有しているものがあります」
「……貴族?」
「なんか知らんが偉い奴ら、とでも思っておけばいいさ。そうだろう?」
ルーエの言葉にシャーロットは苦笑いを浮かべる。
「まぁ……紛らわしくなくていいですね。貴族は公爵や侯爵、伯爵など、合計で5つの階級に分かれています。彼らは基本世襲制で、途方もなく長い歴史を持っているのです」
「それ故に、王も御しきれないわけだな」
「その通りです。先生は間違いなく社交界に招かれると思うので、詳しくはその時にでも」
「えぇ……いいよ、俺は……」
だって、とてつもなく偉い人たちなんだろう?
ボスリーさんに会うのだって緊張したのに、自分で騎士団なんていう軍隊を所有している人に会うのは怖い。
それから、ケンフォード王国に着くまでの間のほとんどの時間は講義に費やされた。
王国に到着する頃には、頭に色々と詰め込みすぎて全て忘れてしまっていたが。
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