第34話 合体

 戦況は刻一刻と変化している。

 屍へと変わる魔物、傷を負う冒険者。

 どちらも均等と言えるような速度で増えていたが、洞察賢者……ジオが参戦してからは、魔物の数が減るばかりで、人間側の被害は極小数に抑えられるようになっていた。


「……あとはわかりますね?」

「はい! ありがとうございます!」


 決死の戦いの最中だというのに、一気に活力がみなぎったかのような返事をする戦士。

 もはや人間と魔物のどちらが勝利するかは一目瞭然。

 魔物の数は100を切り、対する冒険者は全員が未だ戦闘体勢にある。

 だが、ここで誰もが予想だにしなかった事態が起こるのだ。


「な、なんだよこれ!?」


 一人の冒険者が指をさす。

 その方向を見ると、残った魔物が一匹、また一匹と自らの身を泥のように溶かし、混ざり合い、そして結合していく。


「魔物達が……合体してる?」

「こんなの聞いたことがないぞ!」


 積み木のように、あるいはパズルのピースのようにつながっていった魔物は徐々に巨大な姿をとる。

 身体は三メートルほど、緑色の皮膚と揺るぎない肉体を持ち、頭部には頭蓋骨でできた兜を被っている。

 右手手には巨大な剣が一振り、左手は指がなく、スライムのように内部が透けていた。


「もしかして、俺たちが戦ってた魔物が合体して生まれた種ってことか?」

「……かもな。ここに集まった奴らの特徴が反映されていやがるしな」

「な、なら余裕じゃないか? 俺の呪文ならオーク如き一撃で倒せるからな!」


 そう言って魔術師は呪文を詠唱し、氷の剣を飛ばすも、それはオークに傷をつけるどころか反対に粉砕されてしまう。


「――なっ!?」

「防御力が段違いだぞ!」


 冒険者達は驚愕に目を見開く。

 次の瞬間、オークは勢いよく走り出すと、片手の剣を思い切り地面に突き刺した。

 刀が刺さった場所から地割れが十本の蛇のように広がり、冒険者の足元に到着すると勢いよく破裂する。

 標的にされた者は皆、数メートル吹き飛んで起き上がることができない。


「おい、大丈夫か!?」


 一介の魔物が放つのは不可能なほど強力な一撃。

 魔物の数は一体と勝利が目前に迫っているように思えるが、その実は途方もなく遠のいてしまっている。


「俺たちでこいつを倒すことができるのか……?」

「大丈夫だろ。Aランクの冒険者がいれば……」

「Aランクのジョンは今の攻撃で吹き飛ばされちゃったわよ! 残りはBランク以下だけ!」

「そ、そんな……」


 戦況は刻一刻と変化している。

 そのほとんどが勝つことを諦め、脳内ではどうやって生き延びるかを考えていた。


「み、みなさーん!」


 その時、一人の青年が声を上げた。

 つい最近設立されたばかりのパーティに所属する冒険者だ。

 彼は、パーティメンバーの背の高い男の肩に乗り、他の冒険者に気付いてもらえるよう両手を振っている。


「全員で協力し合いませんか! 僕たち一人一人じゃ倒せないかもしれないけど、敵の弱点を見極めて力を合わせればきっと勝てるはずです!」


 青年は必死に呼びかけている。

 しかし、冒険者の反応は芳しくない。


「……ちっ。そんなこと言っても、あれだけデカくてパワフルなやつに勝てるわけねぇじゃねぇか」

「そうだよな……俺たちはやっとの思いで雑魚モンスターを討伐してるっていうのに」


 あちこちから不満の声が上がっている。

 だが、青年は諦めない。


「わかります、皆さんの気持ちも! 僕も以前、ダンジョンボス相手に同じ状況に陥ったことがありますから」


 青年は自分の胸に手を当てて言葉を続ける。


「……でも、教えてもらったんです。強さじゃなくて、諦めずに勝ちを追い求めることが大切だって。皆さんだってそうじゃないんですか?」


 その一言に、冒険者達は顔を見合わせた。

 取るに足らない新人の意見に心を動かされたということもあるが、一番の理由は違う。

 自分たちも、つい先ほど同じことを教わったからだ。


「お前、すぐに俺たちを抜かしちまうと思うぜ!」

「生き残れたら酒でも奢ってやるから気合い入れろよ!」

「うおおおおおおお! 血祭りにしてやるぜええええ!」


 再び勇気を得て、オークに向かっていく冒険者達。

 それを眺めていたジオとルーエは、満足気に微笑んだ。

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