第2話
一ヶ月後。
勇者達は、それから自分たちのパーティに屈強なテイマーを迎え入れ、旅を続けていた。
「きゃぁ! 勇者さまよぉ!」
「勇者ですって!」
「なんだって、勇者様が来ただと」
昔よりも自分たちの功績が市民に伝わってるのかだろうか。色々な街に行くと、女性たちからの熱い歓迎ムードが漂い、男性たちからは畏怖の念を抱いた眼差しで見られる。
勇者としては、当然のことをしているまでだが、民衆から暖かく迎えてもらえるのは嬉しいものだった。
ただ、しかし、何故だが勇者は言いようのない違和感を感じていた。
まず、女性達からは熱い視線を感じるが、正直遠巻きにされている。昔は女性からの好意を受け取ることも多かった勇者だが、女性たちの視線は熱いものの、距離は取られている感じがするのだ。
「すみません、宿を探してるのですが」
熱視線を向けてくる中にいた町娘に声を掛ける。町娘は声を掛けて来られたのが驚いたのか、勇者と他のメンバーたちをチラチラ見た後、後退りながらある方向を指す。
「やっ、宿は、あちらです……ただ、
「はあ、それは問題ないですが」
「問題ない……はっ、そういうことですね。失礼しました」
寝台の大きさ、一体? 勇者は首を捻りながら、その宿に向かう。
宿屋には大抵入口付近に受付みたいなものがある。入ると案の定受付があり、そこには宿屋の主人らしき人が座って待っていた。
「いらっしゃいま……ゆゆゆ勇者様!?」
勇者の顔を見るとギョッとした表情をすると、まるで誰かを探すように当たりを見回した。そして、誰もいないせいか、酷く絶望した表情になる。
「へぇ、へぇ、もしや、お泊りに……?」
「ああ、そうだが……」
「やはり……お、お部屋ですが一番広い部屋用意いたしますんで」
「空いてる部屋で良い。ここには五人居るのでそれぞれあれば助かる」
「あ……は、離れの大きい小屋があります。そこにご案内しましょう。
なんだか含みのある言い方だが、たしかに作戦や町の異変(一度町民を装った邪悪なものと戦ったことがある)など、人に聞かれたくない
どうやら、この宿屋の主人はとても気が利く人のようだ。
「お気遣い感謝する」
勇者は頭を下げると、宿屋の主人は複雑そうな表情をし、その離れに案内してくれた。宿屋の裏手口から庭を通り少し離れた場所。中も綺麗に掃除されており、なんとも過ごしやすそうな環境だ。
「ああ、うちのが今日掃除していたみたい、です。どうぞお使いください」
主人はそう言うとさっさと元の宿屋へと戻っていく。勇者たちは、気を使ってくれたのだろうと思い、部屋でのんびり過ごすことにした。
「あ、俺、飲み屋行ってきてもいいですか?」
「いいが、ハメを外すなよ」
しかし、まず最初にのんびり過ごすのに飽きたのは、勇者の隣で寝ていたシーフだった。シーフの役目には排斥や偵察もあるが、なによりも情報収集という大事な役目もある。
情報が集まる場所、飲み屋というのはうってつけの場所で、酒大好きなシーフとしてはいの一番に行きたい場所。
勇者もそれを知ってるため、シーフの頭をぽんぽんと撫でながら、忠告だけする。
以前飲み過ぎて潰れた彼を、勇者が迎えに行ったことがあったため、それ以来このやり取りが行われるようになった。
「わぁてますよ」
シーフはむっと口を尖らせたあと、宿屋から出ていく。そうして、他のメンバーたちも次々と出ていくのを見送った後、勇者は身体が鈍らないよう庭で運動をし始めた。彼が運動する時は基本的に上裸。今も空の下で鍛えられた身体を晒していた。途中、宿屋の主人と目が合ったが、すぐさま去っていてしまった。
体調が悪いのだろうか。勇者は困惑しながら
そうして、暫くして、メンバーたちが次々と帰ってきた。
「お帰り、早かったな……ってどうした、皆浮かない顔をして」
そう、皆顔が浮かばない。特にシーフはお酒で赤くなっておらず、逆に顔を青ざめさせ涙目だ。
「勇者様、なんかこの街の人たちおかしいです!」
「なに!?」
シーフは困惑した表情で勇者に抱きつく。勇者は抱きとめると、何があったのかと周囲を見渡した。すると、同じく困惑した表情の騎士が、手に持った買い物かごを見せた。山盛りの買い物籠。しかし、なんだか様相がおかしい。
「今日、飯買いに行ったら、みんなギュウニクだ、カワウナギだ、ニンニクだ、精がつくものばかりを渡されてな。じゃがいもを買いたかったのだがな」
「じゃがいもが買えない? そんな事があるのか」
騎士の話を勇者は信じられないと言った表情で聞く。すると、隣りにいた魔法使いが口を開いた。
「私も薬草を買いに行ったら。ジニキークとネバリソウ、ヤバイマカを大量に貰いました。キズナオールは買えましたが、この全部を使ったよくわからないレシピ貰いました。しかも、『私は魔法使い様の味方です』とか言われまして」
「レシピを……」
次に話しだした魔法使いの話。基本的に薬草はキズナオールやドクナシニとかしか買わない。なので、よくわからない薬草を貰ったのもわかるし、それが魔法使いの何に役に立つのが分からなかった。
「俺も、街の女の子たちから『早く勇者さまの側にいてあげて!』と言われて、召喚獣のオオカミサマを散歩させてたのに返されて来ました」
「オオカミサマがいるのに、声をかけてきたのか?」
「はい」
オオカミサマとはオオカミではあるが、無数の目がギョロギョロしているかなり強い召喚獣で、基本その見た目の恐ろしさから人には敬遠されがちなのに。
「俺、飲み屋行ったら、すぐに姉ちゃんたちに『勇者様の破邪の剣はどんな感じなんだ』『勇者様のカラダはやはりいいのか』とか、詰められて。本当に怖くて怖くて。しかも、なんか香油もらって返されたんだよ! 破邪の剣ってなんだよ! 知らないよ!」
「はあ?」
破邪の剣? そんなものは勇者は持っていない。所持しているのは、聖剣のみだ。
一体この街で何が起きている。勇者が唖然としている中、その後ろでうっすら浮かんだシミが少しだけ動いた。
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