勇者♂に吟遊詩人なんていらないと追放されたので、これからは趣味全開の英雄譚を奏でます〜前世はナマモノ大好き腐女子 マイブームは勇者♂総攻めで生意気シーフわからせです〜

木曜日御前

第1話


 とある街の、とある宿の食堂にて。


「おい、吟遊詩人。お前は今日でこのパーティから抜けてもらう!」


 よく響くイケメンボイス。何事かと、周りの人達は声がした方へと振り返る。そこには、種類豊富なイケメンで豪華な装備をした男たち四人と、唖然とするボロ布をまとった男がいた。


「そ、そんな! 待ってください、私は由緒正しき王様に選ばれた初期メンバーなのですよ!?」


 そう言って、ボロ布をまとった男はきいっと叫びだす。

 そうまさに彼こそが、今にも追い出されそうな吟遊詩人であった。彼はまるで捨てられた仔犬かのような目で勇者たちを見る。その様子は他の人達には少々同情しそうになるが、対峙する彼らの目は冷たく揺るぎがない。


「だからどうした。料理もまともに作れず、野営の準備も任せればテントを壊し、ダンジョンに入れば全てのトラップを作動する。こんな足手まといはいらん! 国へ帰れ!」

「そ、そんなぁ! これから、これからに期待してチャンスをぉおお!」

 そんな吟遊詩人に厳しく言い返すのは、この国の勇者である。美しい金髪に筋肉隆々の身体、その顔面は史上最高の傑作と呼ばれている勇者である。何よりも背中に背負う聖剣・ランドロスの神々しさは、彼を誰もが勇者だと認識するだろう。


 勇者の言い分に宿の食堂にいた人たちは、それは追い出されても仕方ないと肩を竦める。勇者というものは、国に蔓延る邪悪な者たちと命懸けで戦い続けてるのだ。足手まといを置いておくなんて、自分たちの首を絞めるようなことをしてはいけないのだ。


「いいか、これから戦況は厳しくなっていく。わかってくれ、吟遊詩人。お前を養う余裕はない」

「ううっううえええ、しょんなぁああ」

 ボロボロと泣く吟遊詩人に、パーティメンバーの一人であるシーフ盗賊が一つの袋を渡す。

 このシーフは黒髪に小麦肌がよく似合っており、生意気そうな猫顔が特徴的な少年だ。


「吟遊詩人、役立たずのゴミにも帰る駄賃は必要だからと勇者様が工面してくださったんだ! さっさと安全なお家に帰って、おまんまごはん食べてろ」

「シーフだぁあん! もっどやざじぐぅう!」

「お前からそれ奪ってもいいんだぞ」


 吟遊詩人はえぐえぐと泣きながら袋を受け取る。ずっしりと重い袋は確実に帰る駄賃にしては多い。本当に優しい今代の勇者様。

 その心の広さに、周りの宿の人達は吟遊詩人が居なくとも、彼の英雄譚を聞くことが出来るだろうと思った。


「ぜめで、ごれがらも、皆のごど奏ででいい?」

「ああ、吟遊詩人は俺達の活躍を世間に広めるのが役目だからな」

「ありがどゔ〜!!」

 びしゃびしゃに泣く吟遊詩人に、勇者は心の広く許可をする。この国において、吟遊詩人は国の情報を伝え、国民達に警告や安心を与える役目があるのだ。勇者パーティに吟遊詩人が居るのも、世間が不安に思う邪悪なものたちを討伐してる人達がいることを伝え、安心させる役目があるのだ。


 この吟遊詩人も、この勇者たちの活躍を伝えるために参加し、いくつもの『英雄譚』と呼ばれる部類の曲を作ってきた。


「わがっだ、パーティは離脱ずる、げど、皆のことこれからも見守っでるね・・・・・・! いっばい皆の活躍を世に広めるがら!」

 ボロボロに泣いたまま吟遊詩人は、勇者たちの提案を飲み込んだ。寧ろ、飲み込む以外選択肢がないのだが。


「じゃあ、今度は旅が終わって会おうな。僕たちはもう行くよ」

「道中で死ぬなよな」

「お前の歌が聞けないのは寂しいな。じゃあな」

「それではお達者で」


 勇者、シーフ、騎士、魔法使いが、それぞれ吟遊詩人に声を掛けて、去っていく。吟遊詩人はその後ろ姿を見送った後、食堂の椅子に座り、そのままテーブルに突っ伏した。


 

 

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