第十四回

 私はバイクの音を頼りに道を右往左往と走った。あのひったくり犯を捕まえるのだ。

 しばらく行くと、住宅街から外れて辺りは木が多くなってきた。ここは山の中腹にできた小さな町で、少し外れれば辺りはすぐに緑が多くなった。

 バイクを追っていると、やがて私は一面の広場に出た。私は肩で息をした。

 広場は一面の芝生に色とりどりの小さな花が咲いていて、なにやら霧も出てきていた。周囲には侵入を禁じるように有刺鉄線の張られた杭が打ち込まれている。が、杭はあまりに古く朽ちてところどころ倒れている。バイクはその倒れた間を走って中へと行った。どうやら霧に乗じて逃げるつもりらしい。

 ここまで来て逃がすものかと、私も広場の中へと入って行った。

 辺りは真っ白だ。バイクは赤いテールランプをゆらゆらと霧の中にかすめながら遠くへ走っていく。見失わないぞと見ていると、テールランプは神隠しの様に急に地面の下へ引っ込んでしまった。

 走ってランプの消えた辺りに行くと、バイクが消えたところから先は急な斜面になっている。その斜面の下には霧の中でライトをつけたまま横倒しになっているバイクと、その側に尻餅をついているヘルメットが、「イテテ……」とヘルメットの上から自分の頭をさすっている。

「おい」

 私は滑るように勾配を下ると、ヘルメットの側に行った。

「ようやく追いついたぞ、ひったくり犯め。観念しろ」

 その時、

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