第十一回

 私と花井さんとマルは、子犬を動物病院に連れて行くために通りに出て歩いた。

 花井さんは子犬を柔らかな薄ピンクのタオルケットに包んで胸に抱いている。

 花井さんは私と話しをしながらも、顔は始終子犬のほうを向いていた。マルも足元に並んでヘッヘッと息を吐いて付いて来ながら、自分の子である子犬のほうをよく見ていた。

 私の住むこの町は桜の木の多く植えられた、山のふもとに作られた町で、春になると山も街も咲いた桜の色に薄く色付いた。山の中腹には線路が一本通って、いつでも下のここから電車が走っているのが見えた。

 桜の花が咲くと、町のどこを歩いても桜の花がちらちらと散っていた。

 町の公園のベンチで一休みしている時にも、私の前には雑多な人々の声やら、物音やら、透明の様な青空に無数に伸びた黒い電線や、バスが動き出す時の空気の抜ける音や空を飛んで行く鳥の中で、沢山の風に散った桜の花がさらさらと、公園のベンチに座る私の前に流れていった。

 私はそんなことを思い出しながら、花井さんやマルと歩いていた。

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