第六回
走り続けるマルの後を追っていくと、しばらくして道路脇の茂みの前まで来た。
「ここです! ご主人」
私は肩で息をして、花井さんは今にも倒れそうだ。
私が茂みの中を覗くと、そこにはかさの低いダンボール箱に入れられた一匹の子犬が居た。
「これは……」
見るとその子犬は箱の中でぐったりと横たわって、苦しそうに浅い呼吸を小刻みにしている。
「ワタシの子です」
マルが言った。
「ワタシが駄菓子屋の主人から貰った餌を運んでここで育てていたのですが、ワタシは車に轢かれて死んじまったので、この子に食事をやることが出来ず、もう三日も何も飲まず食わずなんです」
私は茂みから子犬の入った箱を取り出した。子犬は汚いダンボール箱の、汚い布の上に横たわって苦しそうにしている。
私は子犬を見ながら頭の中で、すぐに動物病院に連れて行かなくてはと思った。病院はどこにあったかと思いを巡らせていると、横に居た花井さんが口を開いた。
「木原君っ、ここからすぐ近くに、私のお婆ちゃんがやっている喫茶店があるの。とりあえずその子にはすぐにお水やご飯をあげたほうが良いと思うから、行きましょ」
花井さんは勢い強くそう言った。私は頷いて、箱を抱えて立ち上がると、マルと共に花井さんに付いて駆けて行った。
……しばらく花井さんの背中を追って行くと、茶色い丸太で組み立てられた、木造の喫茶店に着いた。
喫茶店は二階建てで、二階の窓ガラスから左右にカーディガンが分かれるようにシダの葉が外壁に茂っている。入口の左右には細いながらもテラス席が有り、
私と花井さんとマルはその入口の前にある木でできた二、三段の階段を上がると、ドアに付いたベルを鳴らして店に入った。
店に入ると、店の中は
「ごほん」とカウンターから咳払いが聞こえた。
そっちを見ると、
「おばあちゃん……」
花井さんが言った。
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