第15話

 離してとも言えず、握られたままの手。スズ君がニヤリ笑って、レオン様に近付き。


「レオン様、マージア様に特別な、お土産を持ってきたっすよね」

 

「ああ、そうであった」


「すみませんっす。レオン様が尻餅をついたとき、玄関に置いたままでした」


「それを言うな!」


 ククッと笑い「取ってきます」と、スズ君が取りに行き、戻ってきた彼が手にしていたのは……馴染み深い、唐草模様の大きな風呂敷包だった。


 スズ君とトッポ君は空いた皿を流し台に片付けて、風呂敷を開き。


「これは獣人の国で大人気、田中屋さんのおはぎとお団子、梅のおにぎり、緑茶の茶葉です」


 大きな、2段の重箱の蓋を開けた。


 お重の中の一段目には粒あんと、こし餡の一口おはぎ、みたらしと、こし餡の乗ったお団子。2段目に梅のおにぎりと、緑茶が入った茶筒と急須のセットが入っていた。


「美味しそう、ありがとうございます」


 田中屋さんって……名前もそうだけど、おはぎ、お団子、梅のおにぎりって。もうそこの店主、絶対元日本人だよ。

 


「「いただきます!」」

 


 ボアさんは小ぶりで可愛い、一口おはぎをフォークでお皿に取り、うっとり眺めた。


「このキレイな見た目。私、田中屋さんのおはぎ大好きです」


「わたちも好き!」

「おはぎ美味しいですよね」

「あんこ、あんこ!」


 キキ達が選んだ、おはぎをお重からお皿に移した。その足でお鍋でお湯を沸かして、貰った茶葉を急須でいれる。そのとき、ふわっと香った懐かしいお茶の香りにホッコリした。


 湯呑みはないので、紅茶のカップを人数分だして、緑茶をそそいだ。みんなにお茶を配って、おはぎをお皿取り一口食べる。


「いただきます。ん! んん。おはぎ美味しい。レオン様、スズ君、トッポ君、ステキなお土産ありがとうございます」


 あまりの美味しさにお礼を言うと。

 レオン様は、まぶしすぎる笑みを浮かべた。


「よかった、田中屋にして正解だったな。スズ、トッポ、私たちは魔女様にとって、よい土産を持ってきたようだ。まだまだ、魔女様には食べてもらいたい食がある」


「レオン様、次はマージア様をデートに誘うっす!」

 

「デート⁉︎」

「デート⁉︎」


 スズ君の発言に、レオン様と私の声が重なる。


「あら、いいわね。でも、デートはマージアさんの魔力が安定するまで、少し待って欲しいわ」


「そうか、わかった。また、私達が土産を持って、ここに遊びに来れば良い」


「そーっす!」

「いいですね」


 

 楽しいひとときを過ごしていた、レオン様達の耳がとつぜん、何かの音にピクンと反応した。そのあと。ボアさんはキキ達は玄関を見て警戒した。


「魔女様、この家に誰か来るようだ」

「誰が来まっすね」

「もう直ぐ、家の前に馬車が止まります」


「えっ?」


 テーブルを立った私を見て、ボアさんが近寄り、私の手を握る。


「平気よ、こっちとあっちは次元が違うから、マージアさん安心してね」


「う、うん」


「マージアちゃん、大丈夫」

「大丈夫です」

「へいき、へいき」

 

 ボアさんが口早く教えてくれる。

 私達の目に映るこの家と――今から訪れる誰かにこの家はボロ屋にしか見えず、私たちの姿も見えないと。

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