第12話

 ……ふぅ、間に合った。


「マージアさん終わりましたら、右側の壁に埋まっている、青い魔石に手をかざしてくださいね。ふわぁっ、私は戻って寝ています、ごゆっくり」


「はーい」


 トイレの中は広く洋式便座に変えていたので、使い勝手がいい。終わったあと、ボアさんの言っていたとおりに、壁に埋まった青い魔石に手をかざした。青い魔石が光り、水が流れた……こ、これはっ! もう一度、石を触って水を流した。


(なんて、楽ちんなんだぁ!)


 もう一度……いい! 自分で水を汲んで流さなくてもいいなんて、感動! 手洗い場をオシャレな洗面ボウルにもしてみてし。トイレットペーパーまで想像で出るなんて……創造魔法って便利だ。


 寝室に戻り、私はみんなを起こさない様にベッドに潜り眠った。この夜――私は丸いモフモフを捕まえ、もふもふに埋まった、幸せな夢を見たのだった。


(もふもふ、最高!)


 

 

 パチッ……ふぅ、日課とは恐ろしい。

 いつも通り、早朝5時に目が覚める……すでに婚約も破棄されて、王妃教育もないというのに。長年にわたり体に染み付いた規則正しい生活は、そう簡単に抜けないようだ。


(……王妃教育は厳しかったけど、けっこう楽しめた)


 私の隣でボアさんと、ベッド上のキキ達はまだスヤスヤ寝息をたてている。気持ちよさそうに眠る彼女達を見ていると……眠気がおそってきた。


 2度寝しても、誰にも怒られない。

 朝の面倒な支度だってない。


 と、私はもう一度、ベッドに沈んだ。




 ❀

 



 十分2度寝を楽しんで目を覚ましても、みんなはまだグッスリ夢の中。時刻は8時……お腹も空いてきたことだし、朝食の準備を始めるかな。


 みんなを起こさずソッとベッドを出て、キッチンに向かった。髪をサッと下でゆい、手を洗い、アイテムボックスをひらく。朝食に使う、卵、ベーコン、ソーセージ、レタス、トマト、玉ねぎを取り出した。


 朝食はパンと、ベーコンエッグとソーセージを焼いて、サラダと、タマネギのスープ!


 


 まずタマネギのスープと、レタスとトマトでサラダを作り。卵、レモン、塩コショウ、オリーブオイルで前世でよく作っていた――簡単なレモンマヨソースも作った。


「おはよう、マージアさん。美味しい匂いがする」

「お、おはようございます、ボアさん」


 すごい寝癖のボアさんと、まだ眠そうなキキ達もキッチンに現れる。


「キキ、スイ、メラ、おはよう!」


「おはよう、マジーアちゃん」

「おはようございます」

「おは」


 みんなが集まったので、フライパンを火にかけてベーコンエッグ、ソーセージ焼き、塩コショウで味付けをした。


 全ての料理ができて、あとはお皿に盛るだけ。


 目玉焼きベーコン、ソーセージはフライパンのまま、ドンとテーブルの真ん中に置き。人数分のパンと玉ねぎスープをよそい。サラダは取り分けせずボールのまま、レモンマヨソースをかけてテーブルに並べた。


「さあ、食べましょう!」


「「はーい!」」


 みんなが木製のテーブルに着く、それを見て私もテーブルに座ろうとした。


 そのとき。


 

「「おはようございます、魔女様! いまから私と従者2人と森を越え、そちらにお伺いしてもよろしいか?」」


 

 朝から爽やかで、グラグラ家を揺り動かす大きな声が、何処からか響いてきた。


「え? な、何?」


「うおっ?」

「きゃっ!」

「およっ!」


「ハァ、やはり……我慢できませんでしたか」

「我慢?」


 ボアさんを見ると、困った表情をしていて。


「……ふぅ、獣人の王子は、マージアさんをひと目見たいのね」


 と言った。

 

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