第11話

 真夜中。慣れていないベッドだからか、目が覚めた。

 ん――私はみんなを起こさないよう……そっと、寝室を抜け出す。


(トイレ、トイレ……)


 この家のトイレは元の屋敷とは、逆の位置だという事を忘れていて。いつものように進み、見えてきた扉を開けた。


 ⁉︎


「どこ?」


 中にはトイレがなく、どこかの廊下だった。

 驚きで目が覚めて、え、えっと、あたりを見回す……ロウソクの明かりがいくつも壁に灯り、天井からぶら下がるシャンデリアと、壁にかかる何枚もの絵画。


 ここ。

 

 なんだが王城の中っぽいが……王妃教育に通っていたローレンス城とは違う。見るからに高い天井、身長が150センチくらいの私の2倍はありそうな大きな扉と壁、どれを見てもサイズが大きい。


 どこの城? だと。ポーッと眺めていた私を、誰かが見つけ声を上げる。


「うおっ⁉︎ 魔女様の扉が開いてるっす!」


 トテトテと足音を出して、こっちに走ってくるのは、鎧と手に槍を持った黒猫⁉︎


 もしかして……獣人さん⁉︎


 私はどうしたらいいのか分からず、初めて見た獣人にただ驚いていた。 




 ❀




 私よりも高い身長の黒猫は、ジロジロ私を見下ろして「これが人間から魔女様になった人か……へぇ」私に好奇心に満ちた琥珀色の瞳を向けた。


「…………」


 驚きで、声が出ない私に。


「おーっと失礼しました。あいさつが遅れました、こんばんは魔女様――中でお茶でも致しませんか?」


 ニッコリ笑い、私の手をモフモフの手で掴もうとしたが。その手を、横から真白で艶のある手が掴んで引き戻した。


「はい、ストップ。マージアさん、入ってはダメよ。そして、あなたもまだ慣れていないマージアさんを、連れ込もうとしない!」


 注意を受けた黒猫は不貞腐れる。


「ちえっ、中で、人間をじっくり観察したかったのに。まっいいか。ボアさん、上には報告させていただきます」


「えぇ、わかったわ。それとお披露目はもう少し後だと言うことも、伝えておいてください。マジーアさんはまだここに来たばかりで。彼女は元人間だから、ゆっくりシシリの魔力を体に馴染ませないと、魔力が暴走してしまうかもしれないから」


「はい、かしこまりました。おやすみなさいませ、魔女様、ボア、良い夢を見てくださいっす」


「ありがとう、おやすみ」


 驚いている間に、パタンと目の前の扉がしまった。


「ふぅ、この扉が出現したのは……マージアさんの魔力が安定していないからね。来たばかりだものしかたがないわ」


 ボアさんに魔力の暴走とか、扉の事を聞きたかったけど……限界、漏れそう。「トイレどこ?」だと。慌てだした私をボアさんが手を引いて、トイレに連れて行ってもらったのは……言うまでもない。

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