第9話

「ご、500年⁉︎」

「そう、シシリの魔力量はすざましい。マージアさんを魔女にしても、まだ魔力が有り余っていると思う」


 ヒェ。底知れぬ魔力の持ち主の。

 魔女さん……凄すぎる。


「それじゃ、ボアさん達は魔女さんがいなくなって、困らなかったのですか?」


 この家、全てが魔力だけで動いている。

 

 魔女さんがここを去り、私が来るでの間とか。

 ボアさん達の生活は、どうなったのか気になった。


「その点もシシリは抜かりないわ。彼女には偉大な魔力を秘めた三人の弟子がいてね。今、その子達が彼女の代わりをしてくれて、自分の森とシシリの森を守っているわ」


「魔女さんには3人の、お弟子さんがいるのですね?」


「えぇ、シシリが言うにはね。ヤンチャ系魔法使い、甘えん坊系魔法使い、真面目系魔法使いだと言っていたわ」


 ヤンチャ?

 甘えん坊?

 真面目?


 なに……その乙女ゲームに出てきそうな設定の、魔法使いの弟子は⁉︎  


「その子達も、私達と同じでシシリに助けられた子達。偉大な魔力は人をも狂わす。あの子達を守る大人がいなかった。彼らが悪者に捕まり、いい様に利用されていたら……」


 ゴクッ。


「キキ、スイ、メラ眠いのなら、好きな場所で寝てきなさい」


 心地よい日差しの庭、出したクッキーを平らげた、みんなはテーブルの上でウトウト眠そうだ。


「ゆっくり、おやすみ」


「ふわぁ、い」

「お昼寝してきます」

「寝る、おやすー」


 目を擦りながら彼女達は好きな、お昼寝の場所にフワフワ飛んで行った。


 


 ❀


 


 彼女達を見送ったあと。紅茶をいれ直して話を再開させた。ボアさんは森の奥にある里の話をしてくれた。途中「説明するのが難しい」と言ったので、ノートとペンを出した。


「魔法使いと森……四つの入り口ですか?」


「そう、場所は別々で魔法使いの家と森、そして里をセットになっているの。マージアさんの家と森、そして奥にあるのは獣人の国ね」


「獣人の国⁉︎」


 獣人と言えばモフモフ……癒しの国⁉︎

 

「ええ、獣人の王国があります」

「へぇ……」


 私が魔女さんから譲り受けた家と森。

 その奥には獣人の国がある。だけど、ここローレンス国で獣人、亜人種族を、生まれてから一度も見ることはなかった。王妃教育で隣国には亜人種族と、平和に暮らす国もあると習った。


 ローレンス国の歴史でも。


「ボアさん。ひと昔、この国は亜人種族と手を取り合い、一緒に暮らしていたと習いました」


「あら、亜人と人間が手を取り合ってね……」

 

 ボアさんの表情が曇った。と、言うことは。

 王妃教育で習ったことは……人にとって、都合のいい話だったのかも。


「やはり、歴史は違うのですか?」


「えぇ違うわ。仲良く暮らしていたのは、ほんのいっとき。王が崩御して、新たな王に変わったとたん。仲良く暮らしていた亜人種族を……彼らは捕まえた」


「えっ」


「人間側が戦争をふっかけてきたの。それも卑怯な手で……番を、愛しき者を奪われて、私たちは戦わずに敗北した。そして数百年もの間、人間の奴隷になっていた……」


「そ、そんな……奴隷だなんて」


 全然、習っていた事とちがう。

 なんだか、悲しくて涙が流れた。


「ああ、泣かないでマジーアさん。でも、一人の魔女との出会いが私たちの運命変えた。心が傷付き、感情を失っていた……私達に笑顔が戻った」


 魔女さんとの出会いが……みんなを救った、とボアさんは言った。

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