第3話

 凄い、凄いわ! 練習した時より上手く飛べてる!

 私は景色を眺め、空の移動を楽しんでいた。


 ――それにしても、転生してから色々あったわね。

 

 前世、私は高校を卒業したばかりの、大学生だった。両親は小さい頃に離婚していて、私は父方の祖母に育てられた。その祖母も大学に入る頃には腰を痛めて、父の妹と暮らすことになった。


 初めての一人暮らしにワクワクして、趣味のお菓子作り、読書、ゲームを楽しんでいた。なかでも『恋するキャピキャピパラダイス』通称『恋キャピ』の、乙女ゲームが好きだった。


 廊下で転んで、乙女ゲームの記憶と前世の記憶はある程度思い出したけど。私に何が起きたのか分からない。

 気付いたら『恋キャピ』の、悪役令嬢マージアになっていたのだ。


『子供のマージアだ、可愛い!』


 そして迎えた7歳。この国の第一王子ビビール・ローレンス王子の婚約者として選ばれた。すぐ王城に呼ばれ始まった王妃教育。ダンス、礼儀、社交、交易など覚えることは大変だったけど……元々、前向き? 余り物事を考えない……私は新しい体験だと、王妃教育も楽しめた。


「言語、淑女としてのマナー、いろんな事を身に付けれたわ」


 ホウキでの移動は快適で、スイスイっと空を移動できる。あの本を制作した魔女さんは、人1人を魔女にできるんだ……とてつもない魔女だったのだろう、スキルとステータスの数値が半端なかった。


 だけど……そんなに凄い魔女さんなのに見ず知らずの誰かに、その力を渡そうと思ったのだろう?

 ふうっ、こればかりは魔女さん、本人にしかわからない。その魔女さんの偉大な力を貰った私が言えることは。

 

 素敵な力と家をありがとう。

 大切に使います……かな。




 ♱♱♱

 



 数分後。


「ほ、ほんとうに、この家なの?」


 屋敷から馬車道をたどり、まっすぐ辺境地まで来たけど……見つけたのは一軒のボロ屋。私はホウキを片手にそのボロ家を見上げた。


「この家……森と同化して建っていてレトロで素敵だわ。まあ、屋根は壊れて壁のレンガは崩れ、ガラスも割れているけど……直せばいいの! 家の周りは雑草だらけだけど、多分、あれは庭と畑ね!」


 家の中はどうなっているの?

 ウキウキとアイテムボックスを開き、中から金色の鍵を取り出して、玄関の鍵をガチャっと開けた。

 


「……えぇ⁉︎」

 

 

 屋敷の書庫で本を触ったときに見た、緑色の葉っぱが散りばめられた、可愛い魔法陣がボロ家の下に浮かび上がる。その魔法陣からは光るツルが伸び、家全体を覆った。


 ――ま、魔法?


 私は巨大な魔法陣を目の当たりにして、乗ってきたホウキを地に落とし、その光景に心奪われた。


 家を覆う光るツルが消え。見えてきたのは雑草しかなかった玄関先にあざやかな花が咲いた。雨漏りがしそうな壊れた屋根、割れたレンガの壁はキレイに直り……割れていたガラスも割れていない。

  

 庭と畑かな? と疑問を持った庭と畑にはトマト、キュウリなどの野菜が見えて、庭にはラベンダーの花が咲いていた。


 瞬く間にボロ家は……息を吹き返して、キレイな家へと変貌した。


 まさに圧巻!


 もう、ワクワクが止まらない、

 感動して、鼓動も早い。

 玄関を開けると目の前の床に、一冊の革張りの本が置かれていた。


「本?」


 その本にはタイトルがなく、鍵もかかっていない。

 なんの本かと、私はその本を手に取ると――何も書かれていなかった表紙に【この子達をよろしくお願いします】と、文字が浮かびあがり消えていった。


 この子達?

 誰の事だろう?



(わぁ、新しいご主人様?)

(あなたが新しい、私達のご主人様?)

(ご主人?)


 いきなり本の中から可愛い声が聞こえてきて、手に取った本が眩い光を放ち、パラパラと勝手にページがめくれた。

 

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