捜査
「五人?」
森田はその違和感を口にする。
洞窟内に居たのは五人の盗賊と、四人の女性だったはずである。
「女性が一人増えている?」
つまり、
「え、どういうこと!?」
全くもって分からない。記憶違いか、それとも。
「––––スカラブの指輪」
エルフがポツリの零す。
「スカラブの指輪だ、マレビト! 指を調べろ! 使用者は必ず指輪を嵌めている!」
「ス、スカラ? どういう事ですか、一体何を言って––––」
「指輪を嵌めて魔力を流すと、使用者のイメージを反映してどんな姿にも変身するんだ! 我が里の秘宝の一つ、私はこれを奪い返すために盗賊団に挑み、捕らえられたのだ!」
「え、何その便利アイテム。ヤバすぎだろ!」
そんなものがあれば、どこだって侵入し放題、やりたい放題だ。盗賊との相性は、ある意味で最悪だ。
「全員、手を前に!」
森田は慌てて叫ぶ。看破された盗賊がヤケになって反撃に出る可能性が非常に高い。ならば、それ以外を把握しておく必要がある。
指示に従わない者こそが、変身者だ。
しかし、その考えは早々に打ち砕かれることになる。
全ての女性が、何の抵抗もなく手を突き出したのだ。
もちろん、その指に光るものなどあるはずもなく、それは、この場に変身者が存在しない事実を告げていた。
エルフが信じられない、といった顔でこちらを見つめる。彼女にとっても想定外の出来事のようだった。
「一人増えているというのは本当なんだろうな? どうして元の人数が四人だと知っていた?」
「盗賊から聞き出したので間違いありません。方法は言えませんが、確実な情報です」
台詞を吐いてから後悔する。方法は言えないなど、信用するなと言っているようなものだ。混乱しすぎて頭が回っていない。
しかし、意外にもエルフはそれで納得した。森田のことをマレビトと呼称するなど、彼女は確実に何か情報を握っているようだ。
改めて、彼女らの手をじっと見つめる。包帯で隠している訳でもなく、指輪が嵌っていた痕すらない指だった。
「手掛かりは無し、か」
彼女は言った、指を見ろと。つまりはそれ以外の方法では判別がつかないのだ。
考えられる可能性は。
「……エルエンドさん、その指輪は、例えば体に接触してさえいれば発動する類のものですか? それこそ、体内でも魔力さえ通せば問題なく効力を発揮しますか?」
「あり得ない! 指に嵌めてこそ魔道具として作動するよう作られている! それ以外の方法などある、はずが……」
エルフは言い淀む。初めこそ強く否定した彼女だが、しかし何かを思いついたらしい。
「方法があるということだけ分かれば充分です。それともう一つ、何にでもなれると言いましたが、元の背丈より小さいものにもなれるんですよね? 元々有ったものを無くしたり、無いものを生やしたりも出来るんですか?」
「……勿論だ。元が男の身体を、外見は完璧に女の身体にすることが出来る」
「
「ああ」
それだけで充分だ。
変身者は何らかの方法、例えば指輪を嵌めた指を切り落とし、そのまま飲み込んだ。そういう抜け道があるのだろう。
そうして女の身体になり、それらしい傷跡と烙印を再現して何食わぬ顔で紛れ込んだ。勿論欠損した指を生やすことを忘れずに。
であれば、やはり外見だけで見分けることは不可能である。
「どなたか、この中にお互い面識のある人はいませんか?」
一応確認しておく。が、黒髪の少女以外の四人が首を振る。目隠しをされていたことに加え、常に監視の目があったからだろう。言葉を交わすことさえ難しかったらしい。それでも一応何かしらお互いに気づくことがあるかもしれない、と考えて名前と出身地を聞いておくことにした。
五人はそれぞれ名前を名乗った。
先ずはエルフ。
アイリス・フィガロ・エルエンド、エルエンドというエルフの里の末裔だという。種族はデミエルフ。エルフと何が違うのだと問うたが、苦い顔をするだけで答えは返ってこなかった。
二人目はミサ・グレース。ブルナンドという都市の宿屋の娘だと言う。地球でいうところの白人の女性で、種族は人間。市場で買い物をしている途中に盗賊に攫われ、ここに連れてこられたそうだ。
三人目はモルジアナ・テイラー。ここより東方の国、コーラル王国の出身で旅商人の一派らしい。アラブ系の顔立ちで肌も浅黒い女性で、こちらも種族は人間。立ち寄ったブルナンドの市場でミサと同じく攫われたのだという。
四人目はクロエ・オディール。ここから西に数日歩いた所にある村の出身で、野盗の襲撃に遭ったそうだ。彼女は村の長の孫娘で、アジア人風の顔立ちの、種族は人間である。
五人目は、黒髪の少女であったが、しかし今は放心状態でとても話を聞ける様子ではなかった。成りすました者の演技にはどうしても見えず、声をかけることすら憚られた。甘いと思われるかもしれないが、泣いている女の子に無理やり喋らせるような冷徹な捜査は、森田には出来なかった。
それぞれ身元を明かしてもらったが、やはりお互いに面識はないようだ。これでは埒があかない。
ならば仕方がない、あれをやるしかない。
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