07 ENDmarker.
今まで、1度も男にさわったことないのに。
ややあって、今、こうして男を抱いている。胸に男がフィットしている。そして熱い。大丈夫なのかこれは。
「はぁ。しんどいな」
たしかに。しんどそう。
「おまえなんでそんなに普通にしてんだよ」
「いや、わたしも普通に発熱してるし関節も痛いけど」
「じゃあつらそうにしろよ」
どんな八つ当たりだよ。
「慣れてるから」
そう。慣れてる。そして、知っている。この程度で自分の身体が、死なないことも。
「慣れてるってなんだよ。慣れてるって」
「殺し合いが生業だから」
あっ言っちゃった。まぁいいか。歌を勝手に聴いちゃったわけだし、これぐらい言っても。
「明日街が存在するように、いつもよく分かんない何かと殺し合いしてるの。今日もこれから殺し合いに行く。街を守るために」
「なんだそれ」
だよね。信じてもらえるわけでもなし。
「いいな」
「いい?」
「やりがいあるじゃん。街が守られるっていう、なんか、こう」
「正義の味方的な?」
「そう。ヒロイックな陶酔」
ヒロイックな陶酔。自分とはまったく無縁の単語。
「死にたいだけだよ、わたしは」
胸の中の男のほうが。死にそうだけど。
「俺は」
喋りにくそうだったので、多少、胸の位置取りを変更。
「俺は。誰かと心から付き合いたかった」
誰かと。心から。顔のせいか。
「顔関係なく。誰かと心を、通じ合わせたかった。歌うのは、声が特殊だからじゃない。歌うのは」
痛そうにしている。関節か。
「俺が歌うのは」
息も絶え絶えになってきた。
「誰かの心に。俺は」
それだけ言って。
ぐったりした。
「おい」
反応が少ない。
「誰かの心に、なんだよ。おい」
「好きになりたかった。誰かと。心から」
それだけ言って。
胸の中の男は。
静かになった。
もう、動かない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます